"桑の音が消えた村" 第4話
のためという言葉
翌朝、慎造は朝の席へ現れなかった。夜けから組のに呼ばれ、県からの調査が済むまでへ余計な説をしないよう申しわせていたという。子は母タカとで麦飯をべたが、箸がまなかった。封のことを尋ねると、タカはしばらく俯き、「お父さんも、皆をべさせるつもりだったんだよ」とさく言った。
の養蚕は、以ほど楽ではなかった。よそでは械で桑を刈る話や、しい飼い方の話がており、若い者は勤めの料を羨ましがる。慎造は組の世話役になってから、ないで桑畑を守るには共同作業しかないと考えていた。力噴を借りたのも、で発した葉をう害虫を気に抑えたかったからだった。
子はその事を理解していた。だからこそ父が、注きのある薬を使ったことが解せなかった。父を待ち、昼過ぎに帰ってきたところで封を差しすと、慎造の表がくなった。「母さんに見せてもらったのか」「どうしてこれをっていて撒いたの」「別の使い方なら丈夫だという話もあった」。子は問い返した。「誰から聞いたの」。父は答えなかった。
慎造はようやく子に腰をろし、買い付けの経緯を語った。最初に注文した薬剤は品切れで、販売が別の製品を勧めたという。
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桑園にも使えるとで説され、濃度をめれば問題がないと信じた。けれど注文の相談を裏づける面はない。父は「収穫が減れば、皆が困る」と繰り返したが、子には「皆」のに、説を受ける権利のある農が含まれていないように聞こえた。
その夕方、組の臨集会がかれた。蚕がんだの々は、救済の見通しと桑畑の今について詰め寄った。庭は検査の途経過を説し、散布の響をく疑うものの、薬剤の種類と使い方を確かめるまでは結論を急げないと告げた。慎造は壇にち、「使う薬は販売に確認した」と述べた。
「なら、どうしてトヨさんだけ撒かなかったんです」。佐の声が広に響いた。誰も答えない。子はちがり、封を取りしかけたが、母が袖を引いた。「ここでお父さんを責めたら、が壊れる」。子は子へ座り直した。隣には学をたばかりの弟・修がいた。来、町の業学を目指している修も、が借を抱えれば学を諦めることになる。
会議が終わると、佐が廊で子を待っていた。「おのお父さんが悪いってことなら、そう言ってくれ」。その声にりより疲れが混じっていた。「うちはに払う肥料代を、繭代で返す約束だったんだよ。違えたがいるなら、名くらいりたい」
。子は目をそらさず、「まだ全部分からない。でも、っていることを隠したままにはしない」と答えた。
に戻ると父が納にいた。には共同散布の実施記録があり、各戸の欄に印が押されている。子がづくと父はを伏せた。「父ちゃん、あの封を見せる」「やめろ」。い言葉だったが、これまでのどんな叱責よりかった。慎造はやがて顔を歪め、「責められるのは俺でいい。ほかの者まで巻き込むな」と言った。
子は、父の肩にを置こうとしてやめた。最初に守ろうとしているのは族か、組か、それとも自分の面目か。その区別を父自もつけられなくなっている気がした。戸の隙から桑畑が見え、夕暮れのに葉が裏返った。蚕を失った々からは、いつものような桑を刻む音がもう聞こえなかった。
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