"桑の音が消えた村" 第5話
祖母の名がかれた承諾
、検査のため採取した桑葉の部から、散布薬剤に由来すると考えられる成分が見つかったという報告が入った。庭は「蚕の異常と期が致するため、使用状況の確認が必です」と説したが、にとってはそれだけで分だった。集会所のには朝からが集まり、慎造が姿を見せると、誰かが「よくも皆を騙したな」と吐き捨てた。
子は母と緒に座敷へ戻り、祖母の封を広げた。散布のに注が届いていた事実を、どの点で公にすべきか考えた。隠せば父を守れるのかもしれない。しかしあとから見つかれば、父への信頼はもっとく失われる。母は何度も膝ののを組み替え、「せめてお父さんが自分で言うまで待って」と頼んだ。
方、組は蚕へ向けた対策を急いでいた。の失敗を取り戻すには、次の養蚕期に賭けるしかない。だが、共同散布をった桑畑の葉をそのまま使っていいのか分からず、蚕種の注文も保留になっていた。残ったのは、祖母トヨの側の畑と、ほかに散布を免れたわずかな桑だけだった。の目は、今度はトヨの桑畑へ向いた。
の代表者がトヨを訪ねてきたのは、よくれた午だった。組は子を脱ぎ、「を助けるとって、桑を分けてほしい」と頼んだ。
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トヨはまず、何戸に、いつ、どれほど必なのかを尋ねた。男たちは互いに顔を見わせた。計算していなかったのだ。トヨは静かに答えた。「分ける話はできる。ただし、今うちの蚕がべている分は残す。蚕が繭になるまで待ちなさい」
その返事は、集落に戻るころには別の話になっていた。「トヨは自分の蚕しか事にしない」「助ける気がない」。子は憤ったが、祖母は「腹の減ったは言葉まで急いでべようとする」と言うだけだった。子には、祖母がただ頑固なのではなく、きた蚕に与える葉と、次の飼育に使う葉を分けて考えていることが分かった。
翌、慎造はトヨを訪ね、今度は息子としてをげた。「の分を先に確保させてくれ。組が責任を持って分ける」。トヨは条件を示した。自分の蚕が繭を作るまでは触らないこと。どこへ何束持っていくか帳面にくこと。病気や薬害の疑いが残る畑の葉と混ぜないこと。慎造は「分かった」と言ったが、急ぐあまり最まで聞いていないようだった。
夕方、子は健に呼ばれ、共同倉庫できりになった。健は父の野から預かったという類をした。蚕のための共同購入契約と、桑の供に関する承諾である。子が目を通すと、トヨの畑について「全量を組の管理に移す」とかれていた。
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祖母がにした条件はつもない。
さらにの末尾には、見慣れた名があった。「承諾者 野トヨ」。丸い印まである。子のがたくなった。祖母は今、そんなに印を押していない。健は息を呑み、「俺もさっき見た。母へくに、おに確かめたかった」と言った。署名欄の跡は、トヨのものではないように見えた。
子が類を持って帰ろうとした、で荷の音がした。倉庫の戸から覗くと、桑を刈る鎌を持った男たちが側へ向かっている。先にいるのは慎造だった。健が類の裏を返し、子に見せた。そこには作業始の付が記されていた。
《本夕刻、桑園引き渡し》
子はを握ったままりした。祖母の蚕はまだ繭を作っていない。へがるの先では、もう鎌の属音が聞こえ始めていた。
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