みかん小説
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"桑の音が消えた村" 第8話

で洗っても戻らない

に入るとの男たちは、の収入に向けて桑の枝を伸ばし始めた。しい芽がれば、の薬のことなど忘れたくなる。だが庭から届いた報告は厳しかった。散布の期や薬剤の性質によっては、しい葉も全だとすぐには言えず、見た目や洗いだけで判断してはいけないという。子は封を何度も読み、に希望だけを告げなくてよかったと胸を撫でろした。

慎造は報告を読むと、机へ叩きつけた。「そんなことを言っていたら、の蚕なんぞ飼えん」。子は声を抑え、「だから先に調べるんでしょう」と言った。「調べてるうちに季節が終わる」「終わっても、ぬと分かっている葉をわせるよりいい」。父は拳を握ったが、殴りもしなかった。代わりに「おは暮らしをらん」と言い、部をていった。

暮らしなら、子もっているつもりだった。母が噌をく延ばして汁を増やしていること、修がしい靴を買わずに踵を踏んでいること、隣のが弁当へ入れる梅干しを半分に割っていること。何よりトヨ自が、まだ売っていない繭代を誰へどう回せばいいか、夜ごと計算していることをっていた。だから子は、危ない賭けをしないで暮らしをつなぐを探したかった。

健に伴われて町の蚕業相談所へくと、配の技師・久保田が応対した。

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久保田はと葉の袋を受け取り、ごとの散布量と桑の順を詳しく聞いた。子が「祖母の畑は無事です」と言うと、久保田は「無事だったという事実は切だが、理由は比べてみなければ分からない」と答えた。トヨを褒めてほしかった子はし満だったが、その慎さに父の失敗をねた。

相談所の帰り、健はさな雑貨へ寄った。そこは共同散布の薬を取り扱った販売の支だった。主は当初、「品切れの代用品を渡しただけ」と言ったが、子が祖母へ届いた注きの話をすると、困ったように顎を擦った。の控えには、散布に慎造と野が商品を受け取った記録があり、説のため別を添えたとかれていた。

「その別は残っていますか」と健が聞くと、主は倉庫から写しを持ってきた。には濃度だけでなく、使用を避ける期と、蚕への響に注する必がある旨がかれていた。慎造がで話した「くすれば配ない」とは、どこにもかれていない。子はをにしたまま、父が何を読み、何を読まなかったのか考えた。

そのの夜、子は慎造を問い詰めた。「この別、見たんでしょう」。父は黙ったまま湯呑みを持ち、えた茶をんだ。やがて、「見た」と言った。子は続けた。「どうして使ったの」。父はい沈黙のあと、「皆から見放されるのが怖かった」

と答えた。ようやく初めて聞く本音だった。

共同作業の話がた、慎造は古いやり方に反対する若い農から期待されていた。薬を買う決定をし、噴の費用も先にって借りた。もし危険があるから止にしようと言えば、もう農事組を任せてもらえなくなるとったという。「母さんの言う通り、ひとまず試すべきだった。だが、皆ので引き返せなかった」。慎造は畳を見つめ、「結果がこれだ」と呟いた。

子は父がをげるのを待った。しかし慎造はすぐに顔をげ、「それでも次は俺が何とかする」と言った。子は胸がえた。父は失敗を認めかけながら、同じように誰にも相談せず次を決めようとしている。それが本当の危険なのだと、ようやく分かった。

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