"桑の音が消えた村" 第19話
もう度桑をむ音
昭、原に再び蚕を迎えるが来た。のようにきな規模ではなかった。飼育を再したのは数戸で、桑のどころと飼う量をそれぞれが確かめ、無理のない数だけ引き受けた。子は蚕種の受け取りにち会い、箱をつずつ数えながら、議とほど胸が鳴らなかった。びと同じくらい、怖さも残っていたからである。
佐のでは、が学から帰ると蚕へ寄り、当番表を見てや具の準備をした。佐は町の仕事を完全にはやめず、午は畑、午は選果へ通うもあった。夫は以ほどきく飼わないことにまだ満そうだったが、子へ「今はこの数でいい」と言った。子はそれを、投げやりではなく、暮らしを続けるための計算として聞いた。
慎造は噴の使い方をから学び直し、桑畑へ使う資材については事の確認を欠かさなくなった。しいものを全部やめたわけではない。むしろ作業を楽にする具については、若い者の見をよく聞くようになった。ただ、誰かが「きっと丈夫」と言うたび、「何を確かめて丈夫だと言えるんだ」と問い返した。若い々はその慎さを初めは面倒がったが、次第に自分たちも同じ問いをするようになった。
子は蚕の当番を終えた夕方、の桑畑へでった。
広告
葉はしく茂り、にはが伸びている。あの朝、隣の佐が抱えていたんだ蚕の箱も、祖母のへ押しかけた男たちの鳴り声も、今ではい来事のようだった。しかし、借の部はまだ残り、牛を売った原田の畑も以ほど広く耕せていない。は元通りにはなっていなかった。
そこで原田に声をかけられた。彼は借りた牛で畑を耕した帰りだった。「慎造に言っといてくれ。今の桑の具は悪くない」。子は笑って「自分で言ってください」と返した。原田はし照れ、「俺が褒めたら気悪がるだろう」と言った。子はその言葉に、失った信頼が度で戻ることはなくても、別の仕事を通してしずつ積みなるのだとじた。
の初め、共同の蚕で桑をむ音がきくなった。昨より数はないが、子には分だった。トヨが棚のでを澄ませ、「いい音だね」と言うと、佐は「、この音をもう聞けないとった」と答えた。慎造はろで黙ってっていたが、子が「父ちゃんも葉を替えて」と頼むと、ためらわずへた。
初めて父と祖母とで桑を配ったの午、修からが届いた。に町の学へみ、働きながら学ぶ活を始めていた。には、械の授業が難しいこと、寮の事がしいこと、休みには帰って父の仕事を伝いたいことがかれていた。
慎造はその最の文を何度も読み返した。子は笑い、「帰ってきたら、まず桑を摘んでもらおう」と言った。
その夜、トヨは子へ昔の桑籠を渡した。「もうわしにはしい」。子は持ちげてみると、繕ったの縁がに馴染んだ。「捨てないで使っておくれ」と祖母は言ったが、子は首を振った。「使えるは使う。でもしい籠が必になったら、買うよ」。トヨは目を細め、「それでいい」と答えた。古いものを切にすることは、いつまでも古いままでいることではないのだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 58 -
完結第21話
昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由
昭和二十九年、上棟式の朝。棟梁・源吉は、自ら建てた家の柱に異変を感じ、祝いの客の前で斧を振り下ろす。内部から現れたのは、黒く傷んだ木だった。 仕事も信用も失いかける中、娘が見つけた不自然な印と、材木置場の青年の証言から、粗悪材の印を改ざんして売る仕組みが明らかになる。しかし源吉自身も、十分に検品せず判を押していた。時代|歴史|昭和2.7万字5 47 -
完結第20話
金色の髪を隠して嫁いだ私と、無口な写真師の約束
昭和四十二年。英国人の父から受け継いだ金色の髪を「家の恥」とされ、黒く染め続けてきた月子は、写真師・湊のもとへ嫁がされる。 雨で黒い煤が流れ、秘密が露わになっても、湊は彼女を拒まなかった。月子は写真館で働きながら、母の手紙や父の存在、叔母が隠してきた過去と向き合っていく。 見世物のように利用しようとする町の男にも屈せず、「何を見せるかは自分で決める」と声を上げる月子。隠された少女が、自分の姿と人生を取り戻す物語。時代|歴史|昭和2.9万字5 66 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 227