"七〇二号室の秘密" 第4話
全帯の傍観者
パイプ子に座った直の肩が、さくすくんだ。彼は両で顔を覆い、指の隙から漏れるような苦しい声で語り始めた。
「兄貴の会社……輸入雑貨の卸をやってるんだけど、からずっと資繰りが厳しいんだ。取引先への渡りをす寸まで追い詰められていてさ」
「それが、真帆さんとどう関係あるの?」
「真帆さんは、結婚するに親から相続した、自分名義の分譲マンションを内に持っているんだ。賃貸にしていて、賃収入もある物件だ。……兄貴は、そのマンションを会社の追加融資の担保に差しせって、真帆さんに迫ったんだよ」
遥の喉が引きつった。
「担保に……? それ、真帆さんの特財産でしょう? 結婚の個の財産を、どうして義兄の会社の借のために差しさなきゃいけないのよ。真帆さんは断ったんでしょう?」
「ああ。当然、嫌だって拒否した。でも……そこから兄貴の態度が急激におかしくなったんだ」
直の告は、閉鎖された庭内でわれていた、湿で徹底な精神拷問の記録だった。
太は真帆の与座のキャッシュカードと通帳を取りげ、毎の活費を千円単位でしか渡さなくなった。々の買い物のレシートを枚枚チェックし、百円の誤差があるだけで夜通しリビングで鳴り散らした。
広告
休のを制限し、真帆が実の親族や友と連絡を取ることを禁止した。
そして、最も残酷だったのが「事の排除」だった。
「半くらいから、族の事の席から真帆さんをすようになったんだ。母さんも……兄貴の方をしてさ。『夫を支えられない嫁に、同じ釜の飯をう資格はない』って。真帆さんには、残り物のや飯にをかけたものしかさなくなった。……今、遥が見たあの景は、ここ数ヶずっとあので続いていた常なんだよ」
「……っていたの?」
遥の声が、く震えた。
「っていたの、直。あので、真帆さんがあんな仕打ちを受けているのを……あなたは最初からっていたの?」
「あそこまで……あそこまで酷くなっているとは、俺も今はじめて——」
「嘘をつかないで!」
遥の声が、狭い部のコンクリート壁に鋭く反響した。直が息を呑んで顔をげる。
「っていたんでしょう? 事を別にされていることも、カードを取りげられていることも! だからこの部を用したんじゃない! それを……っていながら、あなたは何をしていたの? さっきのあの席で、等なお肉をべて、お酒をんで、笑っていたじゃない!」
「それは……!」
直は言葉を詰まらせ、激しく線を泳がせた。
「今が終わったら、兄貴と話すつもりだったんだ! 本当に、今が終われば——」
広告
「どうして今が終わってからなの?」
遥は容赦なく踏み込んだ。
「どうして、今じゃなきゃいけなかったの? 真帆さんは今すぐ助けを求めているのに、どうして今まで待たせたの?」
沈黙。
直はを噤み、額にたい脂汗を浮かべながら、膝ので握りしめた拳を震わせた。その見苦しい沈黙が、何よりも雄弁に真実を物語っていた。
遥の胸の奥で、何かがえ切っていく音がした。
「……私の、ため?」
直の背がビクッとねた。
「私の挨拶があったから? 入籍したばかりの私に、派で、何の問題もない、幸せな族を見せたかったから……? 自分のメンツを守るために、真帆さんに『今までしてくれ』って言ったの?」
「遥、それは——」
「違うって言えるの!?」
直は何も言い返せなかった。項垂れ、絞りすような消え入りそうな声で、呟いた。
「……数だけ、待ってくれって頼んだんだ。遥の挨拶が無事に終わるまで、波をてないでくれって……」
その言葉を聞いた瞬、遥は眩暈に襲われ、わず壁にをついた。
この男は、全な側にっていたのだ。
暴力を振るう兄と、それに加担する母親。その狂気の密のにいながら、自分だけはを汚さず、「部を用してやった優しい弟」という免罪符をポケットに忍ばせ、被害者に対して「自分の都のために、もうしだけ虐待に耐えてくれ」
と求していた。
それは、直接をす加害者よりも、あるで残酷な共犯為だった。
「直」遥は静かに、しかし絶対な軽蔑を込めて告げた。「あなたはずっと、自分が善だとっていたのね」
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
婿との温泉旅行で、仲居から渡された「逃げて」のメモ
七十歳の元大工・桐山正三は、婿の達也に誘われ、信州の温泉旅館を訪れる。亡き妻との思い出に浸るはずだった夜、仲居から渡された一枚のメモには、「その酒を飲まず、裏階段から逃げてください」と書かれていた。達也が狙っていたのは、正三が妻と築き上げた家と土地だった。必死に逃げ帰った正三を待っていたのは、娘の貯金六百八十万円の行方と、身に覚えのない不動産売買契約書。なぜ仲居は危険を冒してまで彼を助けたのか。家族の財産と娘の人生を守るため、老大工の静かな反撃が始まる。怒り|親不孝|真実|親子関係|修羅場2.8万字5 0 -
完結第18話
父の一周忌、兄が追い出そうとした母子の契約書
父の一周忌を終えた翌朝、45歳の西村綾子は、空き家のはずの実家で見知らぬ母娘に出会う。兄の正人は「不法占拠だ」と警察を呼ぶが、12歳の少女が差し出したのは、亡き父の署名が入った三年間の賃貸借契約書だった。さらに兄は、綾子に無断で実家の売却を進めていたことが判明する。父はなぜ、家族にも知らせず母娘を住まわせたのか。そして、兄がそこまでして家を売ろうとする本当の理由とは。父の遺した一枚の契約書から、家族が隠してきた秘密が次々と明らかになっていく――。怒り|真実|絶縁|親子関係|修羅場2.2万字5 0 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 5 -
完結第18話
出産の日に捨てられた私の逆転
身分を隠し、愛する夫との平凡な幸せを選んだスー・ジーイェン。 しかし出産を目前にした日、夫のティンフォンは別の妊婦に付き添い、破水した妻を病院で見捨てた。 「俺が戻るまで勝手に産むな」 助けを求めても冷たく突き放され、絶望の中で彼女が押したのは、七年前に父から渡された銀色のペンダントだった。 その五分後、病院の空気が一変する。 身寄りのない女だと見下されていた彼女には、誰も知らない秘密があった。 夫の裏切りから始まった悲劇は、やがて病院全体を揺るがす巨大な不正へとつながっていく――。夫婦|第二の人生|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 0 -
完結第20話
正月に八人で来る嫁へ、家は売りました
68歳の頼子は、毎年正月になると、息子の嫁から大人数の宿泊や豪華な料理、お年玉まで当然のように押しつけられていた。 さらに嫁は、留守中に合鍵で侵入して宴会を開き、頼子の家を将来の相続財産として勝手に査定していた。息子も「家族だから」と妻をかばうだけだった。嫁姑|親不孝|第二の人生|ATM扱い|親子関係|金銭問題2.6万字5 227 -
完結第21話
自治会を抜けたら、ごみを返されました
自治会を退会した68歳の冴子は、ゴミ袋を自宅前へ戻され、「未加入者は集積所を使えない」と告げられる。 しかし市役所と元自治会長に確認すると、集積所は住民共有の施設で、排除する規則も正式な決議もなかった。さらに、故人が出席したことになっている総会議事録など、不透明な運営が発覚する。因果応報|真実|修羅場3.0万字5 64