"白線の先の女たち" 第1話
勝者のいない表彰式
「表彰台へおみください」
昭、本の港町にある潮見競輪で、内放送が同じ言葉を度繰り返した。だが女子決勝を着でり終えた佐伯久美子は、束を待つ係員の方へかなかった。汗で濡れた髪をの甲で払い、競用の自転を押したまま、審判塔の脇にある事務所へ歩いていった。スタンドからは拍と笛がっていたが、そのどれにも振り向かなかった。
「佐伯さん、何をしてるんですか。写真を撮りますよ」。担当の部が階段を駆けりてきた。久美子は歳、女子競輪が始まった頃からっている古株だった。これまで幾度も勝ち、幾度も負け、表彰台のさも、負けたに通る裏の狭さもっていた。だがこのの部のには、いつも渡される次催の案内がなかった。
「の表を見せてください」。久美子が尋ねると、部は唇を結んだ。「その話はで」「今、お願いします。今の優勝者には、次のる所がないんですか」。廊の突き当たりには赤い文字で『女子競輪催終のおらせ』とかれたが貼られていた。で角が浮き、誰にも押さえられないまま壁を叩いている。
部はようやく言った。「このの女子の催は今が最です。には全国の女子競輪も終わる見込みです」
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。久美子はっていた。ここ数、催は減り、選仲はまたと姿を消していた。それでもレースの招集がある限り、りにくことができた。今、になって目のに置かれるまで、そのことを終わりとして受け止めたくなかった。
「勝ったら何か変わるとっていたんですか」。部の言葉には皮肉より疲れがあった。久美子は首を振った。「違います。勝ったが、次はありませんと言われる。それを皆ので見せたかった」。扉の向こうから写真の声がした。表彰式の準備をしていた男たちは、勝者を待つあいだち尽くしていた。
その、選控から歳の、子がてきた。決勝で久美子のろにつけ、最の直線で追い越せず着になった女だった。子は汗を吸った競のまま久美子を見つけ、い声で言った。「私、今は勝ちたかったです」。久美子はうなずいた。あたりまえだ。どの選も勝つためにる。自分が優勝しても嬉しくないわけではない。
「私は来も勝ちたい」。子は言い直した。「回くらい、あなたを抜いて勝ちたい。なくなるから仕方ないなんて、言われたくない」。久美子は今度こそ女の顔を見た。細い腕と焼けした頬、転倒でついた膝の古い傷。歳で初めて勝負する楽しさをった娘には、引退という言葉さえまだ似わなかった。
表彰台へ戻る、久美子は子をくかぶった。勝者として束を受け取り、用された位置にった。写真が「笑って」と声をかけたが、久美子は作った笑顔を見せなかった。内には昭の陽が差し、観客のには丸めた聞と券が残っていた。その景を、久美子は目の奥へ焼きつけるように見た。
式が終わり、控の自分の棚をけると、枚の封筒が入っていた。には翌以の選登録についての説と、返却する貸与品の覧があった。久美子は用の番にさくかれた文字でを止めた。『選の私な競の催に際して、公式競輪の名称及び施施設を無断使用しないこと』。誰かが先回りして、彼女たちの次の歩まで塞ごうとしているように見えた。
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