みかん小説
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"四万円を断った朝" 第2話

分遅れの面接

黒いの助席は、私がんでいた部より清潔だった。

革の座席からしい特の匂いがし、のがでえた指先をしずつ温めていく。私は濡れたで座席を汚さないよう、背を完全には預けずに座った。

「そんなに固くならなくてもいいですよ」

運転しながら女性が言った。

「汚したら弁償できませんから」

「万円を断ったが?」

「それとこれとは別です」

女性の元がしだけいた。

笑ったのかもしれない。

は都へづくにつれて渋滞に捕まった。

分。

分。

分。

数字がむたび、胃の奥がくなっていく。

「現監督の面接と言いましたね」

女性がを向いたまま尋ねた。

「はい」

「今の格好でくんですか」

私はがねたズボンを見ろした。

「仕方ありません。能力がの汚れで決まるなら、最初から縁がなかった会社だったということです」

「気ですね」

「気じゃありません。もう失うものがないだけです」

そこまで言ってから、余計なことを言ったとった。

見ずらずの女性に事を話す必などない。

しかし彼女は何も聞き返さなかった。

分。

原グループ本社が見えてきた。

私は正のでろしてもらおうとした。

「ここで丈夫です。本当に助かりました」

ところが女性は減速しなかった。

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黒いは般来客用の入を通り過ぎ、そのまま脇の専用レーンへ入っていく。

「ちょっと、こっちは役員用では?」

私が言い終わるに、警備員がこちらを見た。

そしてのナンバーを確認した瞬、姿勢を正した。

遮断ががる。

敬礼までした。

私は助席で固まった。

「あなた、ここに来たことがあるんですか」

「何度か」

女性はそれだけ答えた。

は赤茶のが敷かれた正面玄関のに止まった。

計は分。

私は慌てて扉をけた。

「ありがとうございました。遅れましたけど、せめて事だけ説してきます」

をり、玄関へ向かおうとした。

そのだった。

ろから腕をつかまれた。

振り返ると女性もからりていた。

「え?」

「こっちです」

「いや、私は事部に――」

彼女は答えず、私の腕を引いた。

正面玄関の自扉がく。

広いロビーには何もの社員がき交っていた。

のねた私と、のコートを着た女性が並んで入った瞬、奇妙なことが起きた。

受付の女性がちがった。

続いて警備員が姿勢を正す。

通りかかったスーツ姿の男たちまでを止めた。

そして斉にをげた。

「島社、おはようございます」

私は歩くのをやめた。

がおかしくなったのかとった。

島社。

隣を見る。

女性はに濡れた髪を軽くへかけただけだった。

「おはよう」

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い返事。

それだけで、ロビーの空気が変わった。

私はようやく理解した。

朝、事のでパンクしたの横にっていた女性。

万円を差しした女性。

私を面接会まで乗せてくれた女性。

彼女こそ、原グループ代表取締役の島耶だった。

「……社?」

私が抜けな声をすと、耶は初めてはっきり笑った。

「分遅刻ですね」

「すみません」

「でも、タイヤ交換は分で終わりました」

周囲の社員がこちらを見ている。

私は急に自分のだらけのが恥ずかしくなった。

「事にきます。まだ面接を受けられるか聞いて――」

「必ありません」

「え?」

「私の部へ来てください」

その言葉に、今度は周囲がざわついた。

私はそのでけなくなった。

面接官に会うどころか、社へ連れていかれる。

そんな展を誰が予できただろう。

エレベーターので私は何度もをきかけたが、結局何も言えなかった。

耶も何も説しない。

階で扉がいた。

そこから先は、私のる会社とは別世界だった。

い絨毯、静かな照、ガラス越しに広がる京の。

社へ入ると、秘らしい女性がこちらを見た。

名札には「結由依」とかれていた。

彼女の線が、私の靴から濡れた髪へゆっくりがる。

らかに警戒していた。

「社、分に役員会議です」

「午へ変更して」

由依が目を見いた。

「しかし――」

「変更して。あと、誰も入れないで」

秘が退すると、耶は机の向こうへ座った。

私はったまま言った。

「島社。助けていただいたことには謝します。でも、でタイヤを交換したことを理由に特別扱いされるつもりはありません」

「誰が特別扱いすると言いました?」

「では、なぜここへ」

耶は枚の封筒を机に置いた。

から私の履歴のコピーがてきた。

そのには、私が誰にも話したくない過まで並んでいた。

職。

退職理由。

連帯保証。

約千万円の債務。

半の雇い仕事。

私は息をんだ。

「調べたんですか」

「あなたを社へ入れるに、最限は」

「面い経歴でしょう」

私はたく言った。

「落ちぶれた現監督を見物したかったんですか」

「違います」

耶は分いファイルを冊、こちらへ滑らせた。

「これを見てください」

く。

阪での型物流施設の事業資料だった。

私は数ページめくった。

そしてすぐが止まった。

「この鋼材……すぎる」

耶は黙っている。

「価格より割くです。それに級材で購入した記録なのに、現の持ちし記録は級材になっている。輸送費も異常です」

「どれくらい抜かれているといますか」

私は計算した。

「基礎関連だけでも数千万円。全体なら……もっときい」

「社内では全て適正処理になっています」

私は顔をげた。

耶の目は、脇にいたとは違っていた。

静で、疲れていて、それでも引く気のない目だった。

「私には、社内のどの派閥にも属していないが必です」

その瞬、私は朝の面接が完全に消えてなくなったことをった。

代わりに目のへされた仕事は、現監督よりはるかに危険なものだった。

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