みかん小説
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"四万円を断った朝" 第12話

千万円が消えた

「これを」

耶が差しした封筒はかった。

所は原グループ本社の。

田側の役員がり、部調査の報告がまとまったの夕方だった。

空にはいが残り、階のはたい。

私は封筒をいた。

には報酬の契約と振込予定通。

数字を見て、しばらく言葉がなかった。

「阪事業の正調査に対する特別報酬です」

「すぎます」

「あなたが失ったものと負った危険を考えれば、私はそういません」

借を全て返しても余る額だった。

耶はもうつ、の文字が入った社員証をした。

「阪発事業管理責任者」

私は読みげた。

「あなたに任せたい」

「随分急ですね」

「現も会社も、今は信頼を作り直す必があります」

「また私を使うんですか」

し悪く聞いた。

耶は苦笑した。

「今度は条件を全部見せます」

「百万円?」

「それ以です」

私は笑った。

以なら即座にびついたかもしれない。

千万円の借。

仕事。

名誉。

それらを度に取り戻せる。

しかし、奇妙なことにはかなかった。

私は封筒を受け取った。

「報酬はいただきます」

耶がしした顔をする。

「借を返します」

「ええ」

「でも社員証は返します」

彼女の顔が止まった。

「なぜ?」

私はのカードをのひらへ戻した。

「もう、企業で肩きを取り戻したいとっていないからです」

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「私を信用できない?」

「それとは違います」

私はすりの向こうのを見た。

「の会社で順調だった頃、私はへくことばかり考えていました。もっときな現、もっとい役職、もっとい料」

「普通のことです」

「ええ。でも全部失った、夜に荷物を運んで、源さんので寝て、現の伝いをして……そこで気づいたことがあります」

私は自分のを見せた。

油の染みが爪のに残っている。

「私は、をかすより械を直しているの方が気楽なんです」

耶が黙って聞いている。

「もちろん、現管理も好きでした。でも権力争いをしながらへくのは向いていない」

「逃げるんですか」

その質問に私は振り返った。

「以なら、そうだったかもしれません」

「今は?」

「選ぶんです」

私は答えた。

「借があるは、仕事を選ぶ自由がなかった。活を守るためなら嫌なことでもやるしかない。でも借を返せるなら、初めて自分で選べる」

耶が社員証を見る。

「何をするつもりですか」

「修理をやります」

「修理?」

「建設械と型。源さんはもう歳です。私は現も械も分かる。さくても、自分で責任を持てる仕事をしたい」

耶はく黙った。

が彼女の髪を揺らす。

「会社にはあなたが必です」

「社はそう言ってくれるといました」

「私にも」

声がさくなった。

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私は聞こえないふりをしなかった。

「それは仕事として?」

耶がこちらを見る。

瞬だけ困った顔をした。

あの島耶が。

その表が妙におかしくて、私は笑った。

「何がおかしいんです」

「社にも答えに困る質問があるんだなと」

「あります」

「しました」

私は社員証を彼女のへ返した。

「万円を断ったの私なら、こんな選択はできなかったといます」

「なぜ?」

「が必だったからです」

「今も必でしょう」

「必です。でも、に追われなくなればのためだけにきなくていい」

耶はようやく社員証を受け取った。

「分かりました」

「らないんですか」

「っています」

「顔にませんね」

「社ですから」

「便利な言葉ですね」

しがあった。

「さん」

「はい」

「会社に残らないなら、つ約束してください」

「何です?」

「突然いなくならないこと」

その言葉には、父をくし、周囲から次々に裏切られた彼女の過がにじんでいた。

私は冗談をやめた。

「分かりました」

そして、そのの夜。

私はネットバンキングの画面で千万円い残債を完済した。

確認ボタンを押したも、しばらく画面を見ていた。

数字がゼロになる。

たったそれだけだった。

涙はなかった。

叫びもしなかった。

ただ、肩のに何も載っていた見えないりが、静かに消えた。

私は窓をけた。

古いへの匂いが入ってきた。

「終わったな」

ろで源が言った。

私は振り返った。

「いいえ」

「何?」

「やっと始められます」

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