"車いすの恋人に請求された三万三千円の「迷惑料」" 第3話
父親が言えなかったこと
菜の誕がづいたある夕方、彼女の父、佐伯隆造から俺の携帯に話があった。菜と付きい始めた頃に度だけ会った、数のない男性である。事故のは病院で何度か顔をわせたが、俺に対してはいつも礼儀正しく、どこか距を置いていた。「し話せないか。菜には、まだ言わないでほしい」と言われ、俺は仕事帰りに駅の喫茶へ向かった。
隆造は歳を過ぎていたが、背筋が伸び、事の仕方にもを切り盛りしてきた特の気配りがあった。彼は娘の況を尋ねたあと、封筒から数枚のをした。「菜は最、の練習をしているそうだな」。俺が頷くと、彼はほっとしたように息を吐いた。「事故の直は、娘がにられないような顔をしてしまった。あれは私の違いだった」
隆造は複数のを経営する会社の代表で、ル・シエルは最初にいただった。業した頃、幼い菜は厨の片隅で宿題をし、誕には料理たちがさなデザートを作ってくれたという。「娘がの仕事を選んだのも、あのの響かもしれない」。そのぶりから、彼にとっても娘も切なのだと伝わってきた。
「えっ、ル・シエルは佐伯さんのおなんですか」。俺は驚いて聞き返した。隆造は頷いたが、菜がそのことを俺に話していないとると、し困った顔をした。
広告
「自分がオーナーの娘だとられると、周りの態度が変わるのが嫌なんだろう。あの子は昔から、私の名で何かをしてもらうのを嫌がった」。だから俺も、経営者のことは菜自が話すまで待ってほしいと頼まれた。
だが、そのの本題は別にあった。隆造は封筒から客の見を印刷したを取りした。予約した席に通されなかった、説のない追加料があった、員に失礼なことを言われた。最、ル・シエルに関する苦がて続けに届いていたのだ。「以はこんなではなかった。今は支配の相沢に現を任せきりにしているが、何かおかしい」
俺はわず予約確認メールの担当者名を見せた。話で応対したのは勤める受付主任の井、確認メールの末尾には相沢の名があった。隆造はその文字を見て眉を寄せた。「井は、今から予約担当をされたと聞いている」。理由は業務効率化だと報告されていたが、客の苦が増えた期となっていた。
「それなら、誕の予約を別のに変えましょうか」。俺が尋ねると、隆造はすぐには答えなかった。「父親としては、そうしてほしい。でも経営者としては、客がどんないで帰っているのかる必がある」。その言葉を聞いて、俺はしになった。菜の誕を、の調査に使うわけにはいかない。
広告
俺ははっきり伝えた。「菜がして事できることが番です。問題があるなら、佐伯さんが別に調べてください」。隆造は黙って聞いたあと、くをげた。「その通りだ。娘を巻き込むところだった」。彼はの監査を始めること、予約にがあるなら変更して構わないことを約束した。
別れ際、隆造はさなメモを俺に渡した。「何かあったら、この番号に直接かけてくれ。娘には、自分ので選んでほしい。いすになったからといって、の主導権まで私が奪っていいわけじゃない」。その言葉は、あの公園でレオンに言われたこととなった。
帰り、俺は菜に予約を変更するか尋ねた。の評判に気になる点があることだけを説すると、彼女はし考えて「それでもきたい」と答えた。「昔から事にしてきたなの。私がどうしてもきたいって言ったら、付きってくれる?」。俺は頷いた。ただし、嫌なことがあれば途でよう、とで決めた。
その夜、隆造からいメッセージが届いた。『相沢の提した追加料の覧に、しないはずの項目があった。確認を急ぐ』。俺は画面を見つめたまま、菜にこのことをいつ伝えるべきか迷い続けた。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
婿との温泉旅行で、仲居から渡された「逃げて」のメモ
七十歳の元大工・桐山正三は、婿の達也に誘われ、信州の温泉旅館を訪れる。亡き妻との思い出に浸るはずだった夜、仲居から渡された一枚のメモには、「その酒を飲まず、裏階段から逃げてください」と書かれていた。達也が狙っていたのは、正三が妻と築き上げた家と土地だった。必死に逃げ帰った正三を待っていたのは、娘の貯金六百八十万円の行方と、身に覚えのない不動産売買契約書。なぜ仲居は危険を冒してまで彼を助けたのか。家族の財産と娘の人生を守るため、老大工の静かな反撃が始まる。怒り|親不孝|真実|親子関係|修羅場2.8万字5 1644 -
完結第18話
父の一周忌、兄が追い出そうとした母子の契約書
父の一周忌を終えた翌朝、45歳の西村綾子は、空き家のはずの実家で見知らぬ母娘に出会う。兄の正人は「不法占拠だ」と警察を呼ぶが、12歳の少女が差し出したのは、亡き父の署名が入った三年間の賃貸借契約書だった。さらに兄は、綾子に無断で実家の売却を進めていたことが判明する。父はなぜ、家族にも知らせず母娘を住まわせたのか。そして、兄がそこまでして家を売ろうとする本当の理由とは。父の遺した一枚の契約書から、家族が隠してきた秘密が次々と明らかになっていく――。怒り|真実|絶縁|親子関係|修羅場2.2万字5 216 -
完結第20話
花嫁のいない結婚式
結婚式を翌日に控えた長谷川由衣は、胃痛を訴える婚約者・黒田瞬のために、心を込めて雑炊を作っていた。ところが彼の部屋の前で耳にしたのは、「あいつはただの身代わりだ」という残酷な本音。三年間の愛情も、婚約指輪も、純白のドレスも、すべて元婚約者の代わりだったと知った由衣は、誰にも告げず空港へ向かう。翌朝、二百人の招待客が待つ式場に花嫁は現れなかった。人生逆転|真実|裡の顔|第二の人生|修羅場2.9万字5 22 -
完結第23話
孫に「ここに居たければ黙れ」と言われた私が、翌朝家を出た理由
七十二歳の幸子は、亡き夫と建てた家で息子夫婦と孫の蓮斗と暮らしていた。学費も生活費も援助し、家事まで引き受けてきたのに、いつしか家族から「居候」のように扱われるようになる。ある夜、孫に胸ぐらをつかまれても、息子は助けてくれなかった。翌朝、幸子は弁当も朝食も作らず、黙って家を出る。しかし家族はまだ知らなかった。人生逆転|祖父母と孫|第二の人生|ATM扱い|絶縁3.1万字5 45 -
完結第18話
誤爆LINEの夜
結婚六年目。妻の明子に勧められ、出張前夜をホテルで過ごすことにした直人。ところがチェックイン直後、妻から「今日旦那いないから、いつもみたいにイチャイチャしよ♡」というLINEが届く。慌てて削除されたメッセージに不信感を抱いた直人は、何も知らないふりをして自宅へ戻る。夫婦|裡の顔|修羅場|不倫2.0万字5 30 -
完結第16話
四万円を断った朝
同僚に裏切られ、二千万円近い借金を背負った大橋拓人。再就職の面接へ向かう朝、雨の道路でパンクした車を見つけ、遅刻を覚悟でタイヤを交換する。女性から差し出された四万円を断り、代わりに面接先まで乗せてもらった拓人。しかし会社に到着すると、受付の社員たちが彼女に深々と頭を下げた。職場逆転|人生逆転|真相|修羅場2.5万字5 7 -
完結第18話
剣を捨てない花嫁
八歳の春、父から「今日からお前は息子だ」と告げられた澄は、道場の跡取りとして剣だけを教え込まれて育った。だが十九歳の秋、待望の弟が生まれると、父は突然、借金の肩代わりと引き換えに彼女を久世家へ嫁がせてしまう。女らしい振る舞いができず、屋敷の人々に笑われる澄。そんな彼女に夫の春臣だけは優しかった。ある月夜、春臣から差し出された木刀を握った瞬間、二人の間に隠されていた七年前の縁が明らかになる。そして澄は、自分の婚姻にまつわる思いがけない秘密へと近づいていく。時代|歴史|親子関係|修羅場1.8万字5 44