"家ごと消した母の反撃" 第4話
捨てられた母の形見と、倒れた夫
同居始からヶが過ぎたある、私の尊厳を根底から踏みにじる決定な事件が起きた。 私が所のスーパーへ特売の材を買いにかけ、い荷物を提げて帰宅したのことだ。
リビングに入った瞬、私は目を疑った。 部の隅に置かれていたはずの、な欅(けやき)造りの箪笥と、面鏡のドレッサーがも形もなくなっていたのだ。 代わりに鎮座していたのは、蛍ピンクとっぽいで縁取られた、派なプラスチック製の収納ケースと、成皮革の巨なソファーだった。
「な……何よこれ……! 私の箪笥は!? お母さんのドレッサーはどこへったの!?」 私が半狂乱になって叫ぶと、階からけだるそうにりてきた綾が、ガムを噛みながら平然と言い放った。 「ああ、あの粗ゴミ? 業者呼んで捨てといたわよ。あんなカビ臭くてダサい具がリビングにあるだけで、運気ががるのよね。こっちの棚の方がいし、私の化粧品もたくさん入るし!」
「す……捨てた……!? あれは、私のくなった母が、嫁入り具として持たせてくれた、たったつの形見なのよ!!」 私の全の血が逆流した。ので初めて、私はを忘れて綾の肩を掴み、鳴り散らした。 「ののものを、何の断りもなく捨てるなんて、として絶対に許されないわ! 今すぐ買い戻してきなさい!」
広告
しかし、奥の部からてきた孝志が、私の腕を乱暴に払いのけた。 ドスンと私は畳のに尻餅をついた。 「うるせえなババア! んだ寄りの形見なんて取っといて何になるんだよ! 綾がこのをみやすくしてやってんだから、ありがたくえよ! 文句があるなら、おがてけ!」
自分の息子のからびした「おがてけ」という言葉。 私はたい畳ので、涙すらないほどの絶望に打ちひしがれた。 夫が建て、私が守ってきたこのが、寄虫のようなによって、内側からい破られ、乗っ取られようとしている。 その恐怖とストレスは、私の肉体と精神を限界まで削り取っていった。
そして、劇はさらになった。 私の異変に気づきながらも、男との板挟みになって労をねていた夫の博が、先、猛暑の畑仕事の最に過労で倒れたのだ。 急性全の疑いと度の症。 幸い命は取り留めたものの、医師からは「これ以の肉体労働は絶対に無理です。最でもヶは完全な静養が必であり、農業の継続は諦めてください」と非な宣告がされた。
夫は方のリハビリ病院へ転院し、には私と、あの悪魔のような男夫婦だけが取り残された。 夫という唯の防波堤を失ったで、の暴力は歯止めを失った。
わざと洗面台の鏡を割り、私のスリッパをゴミ箱に捨て、事の席では「老いぼれの飯はまずい」と噌汁をシンクにぶちまける。 そして――〇の朝。 微に倒れた私に対し、綾が放ったあの言。 『帰るまでに掃除してろ! 埃つ残すなよ!』 そして、から浴びせられた、あのたく饐えた赤ワイン。
私はシャワーのタイルにをつき、ちがった。 鏡に映る私の顔は、ワインで赤く染まり、惨めにやつれ果てていた。 だが――その瞳の奥には、酷なまでの決の炎が、青く燃え盛っていた。
(埃つ残すな、と言ったわね……綾さん、孝志) 私は唇を歪め、鏡のの自分に向かって静かに呟いた。 (望み通りにしてあげるわ。埃どころか……このごと、すべて消しってやる)
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
すり替えた味噌汁
検事任官の最終面接を迎えた朝、神田玲奈は義母が自分の味噌汁に何かを混ぜる姿を目撃する。夫にも相談できないまま、玲奈は不審な味噌汁を密かに保管し、何食わぬ顔で食卓に戻った。同じ日、義妹の彩佳も三度目の教員採用試験に挑もうとしていた。玲奈が彩佳と味噌汁の椀を交換した瞬間、義母は血相を変えて叫び出す。嫁姑|第二の人生|金銭問題1.4万字5 9 -
完結第24話
十三通の退職届と百七回の着信
「この店もこれで終わりだな」――父の葬儀からわずか数日、84年続く料亭「花の屋」を継いだ私・綾乃に、32年間店を支えた板長・黒田が突きつけたのは、従業員13人分の退職届だった。料理のできない私を「素人」と嘲り、常連客も仲間も自分についてくると豪語して、新しい店を開くという。父を失った直後に板場まで空になり、予約46件を断るしかなくなった私は、町から「娘では無理だった」と囁かれても黒田たちを引き止めなかった。腕の落ちる料理人を急いで入れれば、守るべき店の名まで失うからだ。そんな中、父が30年間、従業員が辞めるたびに記していた一冊の大学ノートが残されていた。そこに並ぶ名前を追い始めた時、私は黒田が信じていた「花の屋を支えるもの」と、父が本当に守ろうとしていたものの違いに気づき始める――。親子関係3.6万字5 22495 -
完結第20話
婿との温泉旅行で、仲居から渡された「逃げて」のメモ
七十歳の元大工・桐山正三は、婿の達也に誘われ、信州の温泉旅館を訪れる。亡き妻との思い出に浸るはずだった夜、仲居から渡された一枚のメモには、「その酒を飲まず、裏階段から逃げてください」と書かれていた。達也が狙っていたのは、正三が妻と築き上げた家と土地だった。必死に逃げ帰った正三を待っていたのは、娘の貯金六百八十万円の行方と、身に覚えのない不動産売買契約書。なぜ仲居は危険を冒してまで彼を助けたのか。家族の財産と娘の人生を守るため、老大工の静かな反撃が始まる。怒り|親不孝|真実|親子関係|修羅場2.8万字5 1644 -
完結第18話
「少しくらい困ればいい」母をSAに置き去りにした夫の本当の狙い
家族旅行の帰り道、夫の雅人は、足の悪い七十四歳の義母・澄江をサービスエリアに置き去りにした。「少しくらい困れば、次から早くなる」。息子まで夫に同調する中、妻は必死に母を捜す。ところが、母のバッグから見つかったのは、本人が知らない老人ホームの入居申込書だった。さらに、夫が管理していた母の預金、身に覚えのない介護記録、そして車内カメラに残された会話から、旅行そのものが仕組まれていた疑いが浮かび上がる。夫婦|親不孝|第二の人生|親子関係|金銭問題2.3万字5 14 -
完結第10話
残高ゼロの通帳
経理主任として働く三十九歳のゆきは、同居する義母から突然、給与明細を突きつけられる。「月四十万円も稼いでいるなら、通帳は私が管理するわ」。勝手に給料の使い道を決められ、夫に助けを求めても返ってきたのは「母さんに任せれば楽だろ」という言葉だった。ついに「嫌なら出ていけ」と言い放たれたゆきは、抵抗するどころか、笑顔で通帳を差し出す。しかし、その夜、彼女は誰にも知られず一つの手続きを済ませていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|金銭問題1.5万字5 28 -
完結第18話
剣を捨てない花嫁
八歳の春、父から「今日からお前は息子だ」と告げられた澄は、道場の跡取りとして剣だけを教え込まれて育った。だが十九歳の秋、待望の弟が生まれると、父は突然、借金の肩代わりと引き換えに彼女を久世家へ嫁がせてしまう。女らしい振る舞いができず、屋敷の人々に笑われる澄。そんな彼女に夫の春臣だけは優しかった。ある月夜、春臣から差し出された木刀を握った瞬間、二人の間に隠されていた七年前の縁が明らかになる。そして澄は、自分の婚姻にまつわる思いがけない秘密へと近づいていく。時代|歴史|親子関係|修羅場1.8万字5 44