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"残高ゼロの通帳" 第9話

突きつけられたの誓約

旬の曜の午。

の柔らかな差しが差し込む実の居で、ゆきは座卓を挟んで夫・信吾と向きっていた。

ヶぶりに見る信吾の姿は、痛々しいほどに変貌していた。仕ての良かったスーツの肩にはフケが落ち、無精髭が顎にえ揃い、両頬はげっそりと削げ落ちている。

産として持参された菓子の袋が、座卓の隅に所なさげに置かれていた。結婚の挨拶のに持ってきたのと同じ、ゆきの好物の栗羊羹だった。

「ゆき……本当に、すまなかった」

信吾は畳に両を突き、額をこすりつけるようにしてをげた。

「母さんの預のことも、俺が内緒で万円渡してたことも、全部わかった。……俺が馬鹿だった。母さんの言うことを鵜呑みにして、おに全部甘えて、万円も負担させてたなんてらなかったんだ。母さんには厳しく言い聞かせた。もう度とおのにも通帳にもしさせない。だから……頼むから、に戻ってきてくれないか」

絞りすような男の謝罪を、ゆきは静かに見つめていた。

りも、みも湧いてこなかった。ただ、の愚かな男が、自らの撒いた種に押し潰されている姿が、酷く客観な景として目に映るだけだった。

ゆきは座布団の脇に置いてあったクリアファイルから、枚の古びた便箋を取りした。

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央に折り目がくっきりと残る、に信吾が自でいたあの誓約だった。

「信吾さん、これを見て」

座卓のに広げられた片に、信吾は恐る恐る目を落とした。

『、ゆきのおとゆきの私物には、母さんを切しさせない』 『、母さんのことでゆきが困ったら、俺が盾となって母さんに言う』 『、が経過したら、同居を続けるかどうか必ずで話しって決め直す』

「あ……」

信吾の喉から、かすれた声が漏れた。

「覚えている? あなたが同居の夜に、私をさせるためにいてくれた約束よ」

ゆきは指先で、目をそっと叩いた。

「つ目。お義母さんは私の引きしから与細を盗みし、使いを勝にチラシにき殴った。あなたはそれに『別にいいじゃないか、任せとけば楽だろ』と同した。引きしの所を教えたのもあなただった」

信吾の肩が、ビクリとねる。

「つ目。お義母さんに『文句があるならていけ』となじられた、あなたはたい麦茶をみ干して、言も庇ってくれなかった」

信吾は顔を両で覆い、さく震え始めた。

「そしてつ目。、同居からちょうどが経った曜。私はあなたがこののことをいし、『経ったね、これからどうしようか』と話しかけてくれるのを、待っていた。でも、あなたはお義母さんと楽しそうに買い物へかけ、夜はでテレビを見て終わった。

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約束を覚えていたのは、私だけだった」

「ゆき……俺、忘れてたんじゃないんだ……ただ、毎がバタバタしてて……」

「忘れていたのと同じよ。あなたが守ろうとしていたのは、私との約束じゃない。お義母さんの嫌と、自分が鳴られないための易な平穏だけだったのよ」

ゆきは便箋を丁寧に折り畳み、ファイルへと戻した。

「あなたが今謝っているのは、私の痛みを理解したからじゃないわ。通帳が空っぽになって、政婦がいなくなって、活費がりなくなって、自分が困り果てたから謝っているだけ。もし私が今でもあので黙って万円を払い、夕飯を作り続けていたら、あなたはお義母さんの隠し財産を暴くことも、私にをげることも、絶対になかったはずよ」

酷なまでの正論。

反論の余など、が引っくり返ってもしなかった。信吾は畳に両を突いたまま、ボロボロと粒の涙をこぼした。

「母さんとは別居する! 今、暮らし用のアパートを探してるんだ! 俺が敷も礼もして、母さんをからすから……!」

「別居の続きは、どうぞご自由にめてください。お義母さんの百万円を使えば、敷も賃も分に払えるでしょうから」

ゆきは子からちがり、座卓のの菓子の袋を信吾の胸元へ押し返した。

「でも、私はあのには戻りません。つ目の約束通り、同居も、夫婦関係も、私がで決め直させていただきます」

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