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"「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝" 第10話

孫が暴いた横浜の裏切り

「えっ……由、そんなにすごいなのか?」 翔太が目を丸くして尋ねると、由は真剣な差しで力く頷いた。 「ええ、違いありません。仕込みとしてはもちろん、このがあれば、と言われるような極の吟醸が醸せるはずです。……お父様にも、絶対にんでいただきたいわ」 由は添えられた干し柿をかじると、再び驚嘆の声をげた。 「この干し柿も……! 側はもっちりとしていて、は羊羹のようにとろりとして、信じられないほど品な甘みです。都内の級果実でも、これほどのものは滅に見られません」 職として、これほどの放しの称賛を受けたのは何ぶりだろうか。源次郎は照れ隠しに囲炉裏の炭を箸でえたが、その元が微かに緩むのを、翔太は見逃さなかった。

温かなお茶をみ干したところで、翔太の表が引き締まり、声音がくなった。 「……じいちゃん。俺、にから戻って、すぐに横浜のへったんだ」 源次郎のが、ピタリと止まった。 「でも、じいちゃんがいなかった。親父に『じいちゃんはどこへったんだ』って問い詰めたら、『勝にてったんだ、居所なんてるか』って吐き捨てるように言われてさ……。お袋も目を逸らして何も言わないし、じいちゃんの部だった畳は、ゴルフバッグや用品が押し込まれた物置になってたよ」

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翔太は悔しそうに奥歯を噛み締め、両拳を膝ので握りしめた。 「それだけじゃないんだ。部の片隅に、『処分ゴミ』ってマジックでかれた段ボール箱が積まれててさ……を見たら、ばあちゃんの形見の着物や、アルバムが乱暴に詰め込まれてた。……親父たちは、ばあちゃんのきた証まで、ゴミのに捨てようとしてたんだよ!」 源次郎の膝ののが、微かに震えた。 りではない。胸の奥を鋭利な刃物で抉られるような、痛の震えだった。

「俺、激してさ。その段ボールを全部自分のに積み込んで持ち帰ったんだ。その箱の底から、昔の賀状の束がてきて……毎欠かさず届いていた、この集落の藤さんからの賀状を見つけたんだよ。ばあちゃんが、『信州の実には甘いが湧いている』って嬉しそうに話していたのをいして、藁にもすがるいで藤さんに話したんだ。そしたら……じいちゃんがここで、で元気に暮らしてるって……!」 翔太の目から、粒の涙がポロポロと畳へ落ちた。 「じいちゃん、本当にごめん……! 俺がなんかにいかなければ……じいちゃんにこんな辛いいをさせずに済んだのに……!」

「翔太」 源次郎は穏やかな、だが芯の通った声で孫を制した。 「おが謝ることなど、何つない。おは自分の仕事に誇りを持って、派にを渡ってきたんじゃないか」

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源次郎はちがり、縁側にて、の空を仰いだ。 「わしはな、ここへ来て本当に良かったとっとるんだよ。ふみ子のまれたこので、ふみ子のをみ、を耕し、炭を焼いて暮らす。のたちも、みんな温かく迎えてくれた。……そして何より、おがこうして、素らしいお嫁さんを連れて会いに来てくれた。これ以の幸せが、どこにある」

そのの午、どこで聞きつけたのか、ハツと藤が連れって顔をした。 ハツは採れたての蒸かし里芋と漬物をのように振るい、「まあ、翔太さんかい! 派な男になって!」と目を細め、藤は「佐伯さんはな、この集落の宝物なんだ。うちの戸も棚も、全部直してくれたんだぞ」と誇らしげに語った。 翔太は祖父がこの過疎のでどれほどくされ、敬われているかをり、何度も何度もをげていた。

夕暮れ、帰り支度をするに、源次郎は納から持ちした本の瓶に裏の湧を並々と満たし、自ら焼きげたばかりの最級炭を麻袋に詰めて持たせた。 「峰さん。造り酒さんなら、鉢のつもありましょう。お父に、どうぞよろしくお伝えください」 「ありがとうございます、おじい様。切に持ち帰ります!」 由は々と礼し、軽自は葉の坂をっていった。

だが、この――横浜のと麗子のもとに、自らの欲がみした破滅の音が、音もなく忍び寄っていた。

内装事会社の経営難、焦げ付く融資、そして横浜の自宅を担保に入れた莫な借。 追い詰められた息子夫婦の濁った線が、かつて「無価値」と嘲笑った、あの信州の奥へと向けられようとしていたのである。

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