"「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝" 第12話
料亭の顔わせと、青ざめた息子
がけた旬。寒が吹き抜ける横浜のに、穏やかなれの陽が注いでいた。 港町の角にある老舗割烹旅館の広で、翔太と由の「両顔わせの席」が設けられていた。 のには見事な咲きの椿がけられ、障子越しに差し込む柔らかなが、畳の青さを引きてている。 座には、由の両親である峰誠吾と妻の冴子。 座には、翔太の両親である佐伯と麗子が、引き攣った笑みを浮かべて座っていた。そのに、緊張した面持ちの翔太と由が並んでいる。
は、この顔わせが始まってからというもの、終始饒舌に喋り続けていた。 息子の婚約者の実が、陸で百続く資産の造り酒だと聞きつけ、自らの内装事会社の苦境を脱するためのがかりにしようと、必でおもねっていたのだ。 「いやあ峰社、お噂はかねがね! 伝統ある素らしいご業で! うちの翔太のような若造には、本当にもったいないお嬢さんですよ。ははは!」 が揉みをしながらビールを注ごうとすると、誠吾は泰然自若とした態度でそれを受け、穏やかに微笑んだ。
「とんでもございません。当蔵こそ、名佐伯とのご縁をいただき、に余る栄とじております。何より……お父の源次郎さんには、当蔵のを救うほどの計りれない恩義がございますので」
広告
「……え?」 のビール瓶を持つが、空でピタリと静止した。 隣で笑いを浮かべていた麗子の顔からも、スッと笑みが消えた。 「父が……ですか? いや、あいつは……父は今、田舎で隠居活をしておりまして、ビジネスなどとは無縁のですが……」
誠吾は、が実父の状況をらないはずがないとい込み、からの敬を込めて語り始めた。 「ご謙遜を。昨末、信州の奥いあいの源次郎さんのご自宅へ直接伺いましてね。源次郎さんが守っておられる裏の岩から湧きる奇跡の『甘い』、そして源次郎さん自らが窯を修復して焼きげられた至の『炭』を、当蔵の最峰銘柄の原料として独占使用させていただく正式契約を締結いたしました。契約料として数百万円、さらに売に応じたロイヤリティを、今永続にお支払いすることになっております」
座敷の空気が、瞬にして凍りついた。 の額から、タラリとや汗が流れ落ちる。 『あんな奥、何の価値もないよ。固定資産税の無駄遣いだ』 かつて自分がで笑い、父親を追いす実にして投げ捨てた、あの信州の廃。 そのから湧きるただのと炭に、百続く名酒蔵が毎莫なを支払い、をげて契約を結んだというのだ。
「あのおと炭は、が蔵にとって何物にも代えがたい至宝です」
広告
誠吾は楽しげに話を続けた。 「源次郎さんのように、欲を持たず、自然と寄り添い、たちから神仏のように慕われている潔な物には、いで滅にお目にかかれるものではありません。翔太君の誠実で真っ直ぐな気根は、まさにお祖父様の血を正しく引いておられる証拠ですね」 と麗子は、互いに線を交わすことすらできず、青ざめた唇をワナワナと震わせるしかなかった。 その惨めな姿を、翔太はえ切った瞳で、ただ無言で見つめていた。
その夜、横浜の自宅に戻ったと麗子のには、修羅のような空気が渦巻いていた。 リビングのガラステーブルのには、から届いた赤字の督促状と、請け業者からの未払い請求が何通も積みなっていた。 の内装会社は、昨末のデベロッパーの倒産に連鎖し、数千万円の焦げ付きを抱えて破綻寸に追い込まれていたのだ。運転資の融資を受けるため、父から騙し取ったこの自宅を担保に入れていたが、返済期は来末に迫っていた。
「ねえ、あなた……!」 麗子がヒステリックにの腕を掴んだ。 「あの奥の、お父様の名義なのよね!? 酒蔵が毎何百万も払うほどの価値があるなら、あのとを丸ごとデベロッパーに転売すれば、数千万円、をすれば億単位のになるんじゃないの!?」
は充血した目をぎらつかせ、テーブルの請求をぐしゃりと握り潰した。 「ああ……そうだ。俺は男だ。あんなボロと、元々は俺が相続するはずのものだったんだ……。父さんを説得して、今すぐ名義を俺に移させる!」 欲という名の毒に呑まれた息子夫婦のが、き信州の奥へと舵を切ったのは、それからわずか週のことだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
家ごと消した母の反撃
七十一歳の美穂は、夫が入院している間、同居する長男夫婦から召使いのように扱われていた。生活費は一円も入れず、母の形見まで勝手に処分する二人。ある日、微熱で三分だけ横になった美穂に、長男嫁はワインを浴びせ、「帰るまでに掃除しておけ」と言い放つ。長男も笑うばかりだった。だが、黙って「はい」と答えた美穂には、二人の知らない計画があった。三日後、帰省先から戻った長男夫婦は、信じられない光景を目にする。嫁姑|親不孝|親子関係|金銭問題2.0万字5 987 -
完結第20話
消された十六番目の席
六十二歳の高田かず子は、亡き夫と二人で建てた家で、息子夫婦と暮らしていた。家事も生活費も負担し、家の中で自分の居場所を失いながらも、家族のために我慢を重ねてきた。ところが正月、十五人の親戚をもてなした末に、息子から「母さんの席はないから留守番で」と告げられる。嫁には「身内だけで楽しみたい」と笑われ、帰宅後の布団の準備まで押し付けられた。そんなかず子に、老舗寿司屋の大将から一本の電話が入る。因果応報|人生逆転|裡切られた|夫婦|親不孝|親子関係|修羅場2.6万字5 7 -
完結第10話
機内で私を叩いた息子の愛人、空港で知った私の正体
新氏グループの会長・玉金は、息子への株式譲渡を決意し、予定を早めて帰国する。ところが機内で、息子の婚約者を名乗る若い女に席を譲れと迫られ、頬を叩かれてしまう。しかも女の腕には、かつて玉金が息子の正妻・寄舟に贈った家宝の翡翠があった。息子に電話をかけても、返ってきたのは母を侮辱する言葉ばかり。怒りを抑えて空港に降り立った玉金を待っていたのは、愛人が用意した警備員たちだった。しかし、そこへ現れた寄舟の一言が事態を一変させる。裡切られた|嫁姑|第二の人生|親子関係|修羅場1.4万字5 14 -
完結第13話
濁流の中のSOS
夫と十三歳の娘・凛と買い物へ出かけた私。ところが夫は突然、増水した川へ車を走らせ、帰ろうとした私たちを激流へ突き落とした。必死にもがく私の手をつかみ、「お母さん、もがかないで!」と叫んだ凛。その言葉に従い、二人は奇跡的に生き延びる。だが、夫は救助もせず姿を消していた。裡切られた|夫婦|裡の顔|真相|親子関係1.9万字5 23 -
完結第18話
「少しくらい困ればいい」母をSAに置き去りにした夫の本当の狙い
家族旅行の帰り道、夫の雅人は、足の悪い七十四歳の義母・澄江をサービスエリアに置き去りにした。「少しくらい困れば、次から早くなる」。息子まで夫に同調する中、妻は必死に母を捜す。ところが、母のバッグから見つかったのは、本人が知らない老人ホームの入居申込書だった。さらに、夫が管理していた母の預金、身に覚えのない介護記録、そして車内カメラに残された会話から、旅行そのものが仕組まれていた疑いが浮かび上がる。夫婦|親不孝|第二の人生|親子関係|金銭問題2.3万字5 1520 -
完結第10話
残高ゼロの通帳
経理主任として働く三十九歳のゆきは、同居する義母から突然、給与明細を突きつけられる。「月四十万円も稼いでいるなら、通帳は私が管理するわ」。勝手に給料の使い道を決められ、夫に助けを求めても返ってきたのは「母さんに任せれば楽だろ」という言葉だった。ついに「嫌なら出ていけ」と言い放たれたゆきは、抵抗するどころか、笑顔で通帳を差し出す。しかし、その夜、彼女は誰にも知られず一つの手続きを済ませていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|金銭問題1.5万字5 1349