みかん小説
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"一等くじの切れ目" 第3話

美津が働いているのは松葉堂ではなかった。向かいの古い製本所『柏』で、放課に箱を組みてたり、福引券の折り目をつけたりしていた。子は娘に真とのことを尋ねたが、美津はを止めないまま「顔はってる」と答えた。子がのでの話をすると、美津は束ねた箱を落とした。「お母さん、あの子に何を言われたの」。声が、普段の娘とは違っていた。

子は半形の切れ目を描いて見せた。美津はしばらくそれを見つめたあと、「そんなの、を切るにつくだけよ」と言った。母がで聞いた言葉とそっくりだった。「誰に教わったの」と尋ねても、娘は「誰にも」と答える。子はそれ以追及しなかったが、娘がその晩、作業着の袖をく引いて帰ったのを覚えておいた。

午、子は久枝を連れて福引会に向かった。抽選会は晦まで続くため、にはまだ飾りが残り、別の景品である菓子缶や毛布を目当てに客が集まっていた。抽選箱は製で、部にを入れる穴がある。子は券を枚ほど見せてもらえないかと頼んだが、係の若者は「会の許しがなければ」と言った。箱を倒したら何か見つかるのではなく、見つけようとする者が初めからづけない仕組みになっていた。

「おばさん、これ」

学くらいの男の子が、子の袖を引いた。

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渡されたのは古い買い物袋だった。にはい帳面の表が枚と、くじの切れ端が枚入っている。は「兄ちゃんから」とだけ言ってりった。追いかけたが、角を曲がるといなくなっていた。表には松葉堂の号と、『歳末福引、折りくじ納品控』という墨の文字があった。

切れ端の片方は普通の角くじだった。もう片方には半形の切れ目があり、内部には赤い『等』の字が見えた。子が会で引いたものと同じである。しかし驚いたのは、余に鉛で『枚』といてあったことだった。等は洗濯台だけだ。ならば枚とは何を指しているのか。

帰宅すると栄が待っていた。今朝、荷役へ商会の幹事が来て、「奥さんにこれ以騒がれたら、商の荷物を任せられなくなる」と言ったという。栄は肩を押さえながら、「俺の仕事にまで響く」と苦い声をした。子はそのでをつぐんだ。の活を支えるのは清い言葉ではなく、ごとの賃だということを、彼女ほどっている者はいない。

福引の係員は子の顔を覚えていた。先週までは所の主婦として声をかけてくれたが、いまは面倒な客を見る目をしている。「奥さん、等が気に入らなかったなら、別のに譲ればいいでしょう」。子はわず「気に入らないんじゃない」

と言い返した。欲しくてたまらないからこそ、本当の当たりかどうかりたいのだ。そのいを説しようとしても、係員にはうまく伝わらない。い板を打ち付けた福引の向こうでは、別の客が等の鹸を当ててんでいた。あのの笑顔だけは、どうか疑わしいものであってほしくなかった。

その夜、久枝が寝静まったあと、子は台所で角くじの角を繰り返しわせた。枚の切れ目は確かに同じ位置だった。ただし質はし違う。切れ端の裏には、かすかに青い印刷が透けていた。『補助券枚で回』。子は息を止めた。これは抽選箱に入れるくじではない。客がでもらう補助券のと、同じ束から作られているように見えた。

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