"一等くじの切れ目" 第4話
翌朝、子は父の代から町で印刷をしている柏老を訪ねた。正の作業には活字箱と断裁が並び、インキの匂いが湿ったの空気に混じっていた。老は切れ端をに透かし、「こっちはうちの、こっちは違う」と即座に言った。半形の切れ目があるものは、の包みを切っただった。「福引券はさをそろえて納めた。こんなを混ぜたら、つまんだだけで分かる」。
「つまんだだけで?」
「の馴れた者なら、折った角の固さでもな」
子は胸がひやりとした。当たりくじの所をる目印ではなく、持つ者が当たりを選びすための仕掛けだったのかもしれない。柏はさらに束の綴じ跡を見て、予定枚数と実際に納めた枚数が異なっていると教えた。注文は千枚、追加注文は百枚。ただし追加分については、製本の伝いに入った若者が持ち帰っていた。
「その若者は、倉田真さんですか」
「違うよ。あんたのところの美津ちゃんだ」
子は目をげた。美津はで箱を組みてるだけだとっていた。柏によると、末でがりず、娘が印刷物の仕分けまで伝っていた。追加分の百枚は商会から急ぎで頼まれ、普段の角くじと違う用で作られたという。柏は「注文主の指定で、見本として折っただけだ」と言ったが、誰がその指定をしたのかはらないようだった。
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夕方、子は美津を待った。娘はいつもより遅く帰り、入で靴のを払った。「お母さん、話がある」と先に切りしたのは娘の方だった。しかし修がってきて「お姉ちゃん、うちの洗濯は?」と聞いた途端、美津は話をやめた。晩飯のも線をげず、父が翌の仕事を配しているのを聞くと、ますます黙り込んでしまった。
、子は娘とで井戸端にた。のよく見える夜だった。美津はたいを汲み、しゃがんで末娘の汚れた着を洗い始めた。指の関節にさな傷がいくつもあった。「を切った傷?」と子が問うと、美津は首を振った。「だから」。しばらく音だけが続いたあと、美津はぽつりと言った。
「お母さんが毎朝洗濯するの、もう嫌だとったことない?」
「嫌なもあるよ。でも、あんたたちの着る物だからね」
「私は嫌だよ。お母さんが、朝になるとを隠してるのを見るのが」
子は言葉を探した。娘はまだ歳で、母をばせるためにきなことをしたがる頃だった。濡れたを包もうとすると、美津はすすいだ着をく絞った。「あのくじ、取っておいて。まだ捨てないで」。そして子が「どうして」と尋ねるにへ入ってしまった。
柏は作業台の引きしからの切れ端を種類した。「同じ赤いインキでも、刷るが違えば乾き方が違うんだ」
。子は指で触れ、ほんのしざらつきが異なるのを確かめた。で子供のを洗う、同じい布でも綿と化繊では乾き方が違う。そのことをいすと、急に印刷の話がになった。柏は「を騙すためじゃなく、物を作るために使ってほしい技術なんだがな」と呟いた。子は、自分のらないところで美津が覚え始めた仕事のさをしだけった。
夜、玄関をそっとたたく音がした。戸のには真がいた。子のから血の固まった頬が見え、履物は片方だけ違っていた。「子さん、の朝までに等くじを商会へ渡さないでください」。声を落とし、は続けた。「渡したら、美津さんのせいにされます」。
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