"濁流の中のSOS" 第5話
「今で全部終わる」
退院、私と凛はへ戻らなかった。姉のさおりが用してくれた内の期滞用の部へ移り、夫には居所をらせなかった。必な類や用品も、姉が代わりに揃えてくれた。
凛は首を固定し、窓のを見て過ごすことがかった。テレビもつけず、本をいていても同じページのままが過ぎている。私は声をかけすぎないようにしながら、警察からの連絡を待った。
、担当刑事から話が入った。
「娘さんが持っていた型端末の解析が終わりました。し確認していただきたいものがあります」
警察署のさな面談には、ノートパソコンが用されていた。
まず確認されたのは、GPSの記録だった。凛がひとから姉と位置報を共していたこと。事件当にSOSが送信された正確な刻。それらは、夫が話している「転落に流へ先回りしようとした」という説と、や携帯話の移記録を照らしわせる材料になるという。
私はそれだけでも分だとった。
だが刑事は続けた。
「もうつ、端末のに音声メモが残っていました」
「音声……?」
凛は父親の態度が怖くなった、自分の記憶が違っていないか確かめるため、々録音能を使っていたらしい。事件当も、に乗ってからをじ、ポケットので探りに録音ボタンを押していた。
広告
胸が締めつけられた。
私が助席で夫の嫌を取り、なるべく普通の族に見せようとしていた、部座席の娘は震えるで録音ボタンを押していたのだ。
刑事が再すると、のエンジン音とタイヤの音が流れた。ラジオからるい女性の声が聞こえ、々、布がこすれる雑音が混じる。
「どこくの?」
私自の声が聞こえた。
「し回りして帰ろう」
夫の声も残っていた。
録音をから聞くと、それは恐ろしいほど普通だった。し空気の悪い族。嫌の悪い父親。庭を壊したくなくて笑っている母親。黙り込んだ娘。数分に命を奪われかけるとは、誰にも像できない常の音だった。
音声は続いた。
が舗装の荒いへ入ったことが振で分かる。ラジオの音がくなり、会話もなくなる。
そして川へ着くしだった。
く、はっきりした夫の声が入っていた。
「今で全部終わる」
私は息を止めた。
それは私にも凛にも話しかけた声ではなかった。独り言のような、たい呟きだった。
刑事が再を止めた。
面談が静まり返った。
「もちろん、この言だけですべてが決まるわけではありません」
刑事は静に言った。
「ご主は別の悩みについて呟いたと説するかもしれません。ただ、事故だったという説とするかどうかは慎に調べます」
広告
私は何度もうなずいた。
夫の作った「幸な難事故」という話は、しずつ崩れていた。GPS、SOS、の移記録、そしてこの音声。庭のでは消されていた私たちの言葉が、の世界では記録として残っている。
警察署をる頃には、空が夕焼けに染まっていた。
部へ戻ると、姉が夕の支度をしてくれていた。凛はソファに座り、本をいている。私は姉へ「端末の記録が残ってた。夫の説は、そのままでは通らないとう」とだけ伝えた。
姉が帰ったあと、私は凛の隣へ座った。
「ありがとう。あの端末、お母さんたちを守ってくれてる」
凛はうつむき、しばらく黙っていた。
やがて、警察から返された防ケースだけをに取り、ゆっくり留め具をした。
「お母さん」
「どうしたの?」
「これ……まだ見せてないものがある」
ケースの内側からてきたのは、さくつ折りにされた枚のだった。
凛はそれを私へ差しした。
私はいた。
番には、こうかれていた。
《財産管理に関する包括同》
そして文面を読みめた瞬、私はようやく理解した。
夫がなぜ私の通帳と印鑑に、あれほど執着していたのかを。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
亡霊の専属運転手
かつて海外の特殊部隊で「ファントム」と恐れられた神代美央は、戦場を離れ、平穏な人生を求めて大企業の会長専属運転手に応募した。しかし最終面接で待っていたのは、「女に会長を守れるわけがない」と嘲笑する副社長と、十一人の屈強な男たち。美央だけが、彼らのスーツの下に隠された拳銃に気づいていた。やがて現れた鷹司会長は、美央の履歴書を見た途端、激しく震え始める。職場逆転|真実|真相|第二の人生1.5万字5 0 -
完結第20話
消された十六番目の席
六十二歳の高田かず子は、亡き夫と二人で建てた家で、息子夫婦と暮らしていた。家事も生活費も負担し、家の中で自分の居場所を失いながらも、家族のために我慢を重ねてきた。ところが正月、十五人の親戚をもてなした末に、息子から「母さんの席はないから留守番で」と告げられる。嫁には「身内だけで楽しみたい」と笑われ、帰宅後の布団の準備まで押し付けられた。そんなかず子に、老舗寿司屋の大将から一本の電話が入る。因果応報|人生逆転|裡切られた|夫婦|親不孝|親子関係|修羅場2.6万字5 7 -
完結第20話
玄関のピンクのウサギ
六十歳の元教師・田島美香は、息子夫婦を助けるため、三年間にわたり孫の世話をしてきた。久しぶりに夫を驚かせようと自宅へ戻ると、玄関の暗証番号が変わり、見知らぬピンクのスリッパが置かれていた。台所から現れたのは、夫と二年近く暮らしていたという女性。さらに調べるうち、夫婦の貯金から消えた百五十万円、売られていた母の形見、そして自宅をめぐる恐ろしい計画が明らかになる。夫婦|裡の顔|第二の人生|修羅場2.8万字5 0 -
完結第10話
機内で私を叩いた息子の愛人、空港で知った私の正体
新氏グループの会長・玉金は、息子への株式譲渡を決意し、予定を早めて帰国する。ところが機内で、息子の婚約者を名乗る若い女に席を譲れと迫られ、頬を叩かれてしまう。しかも女の腕には、かつて玉金が息子の正妻・寄舟に贈った家宝の翡翠があった。息子に電話をかけても、返ってきたのは母を侮辱する言葉ばかり。怒りを抑えて空港に降り立った玉金を待っていたのは、愛人が用意した警備員たちだった。しかし、そこへ現れた寄舟の一言が事態を一変させる。裡切られた|嫁姑|第二の人生|親子関係|修羅場1.4万字5 20 -
完結第20話
「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝
妻を亡くした七十五歳の佐伯源次郎は、一人息子の「一緒に暮らそう」という言葉を信じ、長年守ってきた自宅の名義を譲った。しかし、待っていたのは冷たい仕打ちと老人ホームへの入居命令だった。すべてを失った源次郎が向かったのは、亡き妻が幼い頃から愛した信州の山奥。荒れ果てた古民家を直し、畑を耕し、村人たちと心を通わせる日々の中で、妻が遺した「甘い水」に思いがけない価値が見つかる。相続|親不孝|親子関係|介護|金銭問題2.9万字5 32 -
完結第18話
箱詰めされた母の人生
義母のスマートフォンに届いた、夫・大輔からの一通のメッセージ。「歩美の母親のことは俺がうまく処理したよ(笑)」。不安に駆られた歩美が実家へ駆けつけると、母の幸子は一人で荷物を段ボールに詰めていた。しかも母は、娘に迷惑がられていると信じ込み、高齢者向け住宅への入居と自宅の売却を進めていたのだ。そんなことは一度も言っていない。夫はなぜ、母と娘の間に嘘を重ねたのか。書類に残された「1500万円」という数字から、九年間信じてきた夫の恐ろしい計画が明らかになっていく。裡切られた|怒り|嫁姑|絶縁2.2万字5 72