"濁流の中のSOS" 第9話
私のらなかった借
警察から示された資料を見た、私は最初、そこに並ぶ数字のをうまく理解できなかった。夫が自分の座で投資をしていたこと自体はっていた。けれど、計に響しない範囲のさなものだと聞かされていたし、私もそれ以く追及しなかった。
実際には違っていた。
夫はなくともほどから、私に詳しい説をしないまま危険性のい融取引へをしていた。そしてその結果、私が像していたよりはるかにきな損失と借入れを抱えていた。刑事は、現点で確認できている座や取引履歴をつずつ示しながら、まだ調査の途だと慎に説した。
私はファイルのに置かれた自分の両を見つめた。指先がたくなっていた。
半から、夫は急に計へをすようになった。それまでも浪費をすることはあったが、私名義の預にまで執着したことはなかった。それが突然、「通帳をせ」「印鑑を俺に預けろ」「夫婦のを別々にしておくのはおかしい」と繰り返すようになった。
同じ頃、計の座からまとまった額をかそうとしたこともあった。私が止めると、夫は壁へグラスを投げた。
「俺を信用してないのか」
そう鳴られた。
私はあの、夫婦の信頼を疑われているような罪悪を覚えた。
広告
けれど今、警察の机のに並ぶ記録を見れば、逆だったのだとう。
夫は、自分が何をしているのかを私にられたくなかった。
そして自分だけでは埋められなくなった穴を、私の財産で埋めようとしていた。
私はこれまでの来事を、のでつずつ並べた。
私名義の通帳と印鑑を求したこと。財産管理の権限を自分へ渡すような文を作っていたこと。私が泣いている面だけを画へ残し、「精神に定な妻」と説できる材料を集めていたこと。凛に対して、もし両親が別れたらどちらについてくのかと迫っていたこと。そして、増した川へ向かうので「今で全部終わる」と呟いたこと。
それぞれをつだけ見れば、夫婦のや銭覚の違いとして片づけられたかもしれない。
けれど今は、ばらばらだったものが本の線になり始めていた。
夫はに困っていた。
私は結婚からの自分名義の資産を持っていた。
そして私は、それを夫へ渡すことを拒み続けていた。
「この借入れについて、私は何も聞いていません」
刑事へそう伝えると、自分の声が驚くほど落ち着いて聞こえた。
以の私なら、夫が隠し事をしていたとった瞬、自宅へ戻って問い詰めていたかもしれない。けれど、その結果どうなるかも今は分かる。
広告
夫は鳴り、私をだと言い、私が泣けばその姿を撮し、最には問題そのものを私のせいにする。
もう、その輪のへ戻る必はなかった。
「分からないことは、分からないままで構いません」
隣にいた弁護士が静かに言った。
「あなたがっている事実だけを伝えればいいんです」
私はうなずいた。
その言葉は、川から助けられて以来、私がしずつ学び直していることそのものだった。
族だから相を信じなければならない。夫婦だから波をててはいけない。母親だから庭を壊してはいけない。
私はそんない込みで、目のにある異常まで自分で見えなくしていた。
けれど凛は違った。
怖いとじたから、姉へ相談した。危険だとったから、GPSを持った。のでになったから、録音を始めた。川へ落ちたから、学で習った方法をいした。
歳の娘は、都のいい物語ではなく、目のの事実を見てしていた。
私も、もうそうしなければならない。
面談が終わる直、刑事はいファイルを閉じた。
「融関係については、まだ確認を続けます」
私はその表を見つめた。
夫が私たちを川へ連れてった理由は、もう単なる夫婦喧嘩では説できないところまで来ていた。
そして私は、このまだらなかった。
夫が私の財産へ執着した本当のさを示す記録が、これからさらにらかになっていくことを。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
亡霊の専属運転手
かつて海外の特殊部隊で「ファントム」と恐れられた神代美央は、戦場を離れ、平穏な人生を求めて大企業の会長専属運転手に応募した。しかし最終面接で待っていたのは、「女に会長を守れるわけがない」と嘲笑する副社長と、十一人の屈強な男たち。美央だけが、彼らのスーツの下に隠された拳銃に気づいていた。やがて現れた鷹司会長は、美央の履歴書を見た途端、激しく震え始める。職場逆転|真実|真相|第二の人生1.5万字5 0 -
完結第20話
消された十六番目の席
六十二歳の高田かず子は、亡き夫と二人で建てた家で、息子夫婦と暮らしていた。家事も生活費も負担し、家の中で自分の居場所を失いながらも、家族のために我慢を重ねてきた。ところが正月、十五人の親戚をもてなした末に、息子から「母さんの席はないから留守番で」と告げられる。嫁には「身内だけで楽しみたい」と笑われ、帰宅後の布団の準備まで押し付けられた。そんなかず子に、老舗寿司屋の大将から一本の電話が入る。因果応報|人生逆転|裡切られた|夫婦|親不孝|親子関係|修羅場2.6万字5 7 -
完結第20話
玄関のピンクのウサギ
六十歳の元教師・田島美香は、息子夫婦を助けるため、三年間にわたり孫の世話をしてきた。久しぶりに夫を驚かせようと自宅へ戻ると、玄関の暗証番号が変わり、見知らぬピンクのスリッパが置かれていた。台所から現れたのは、夫と二年近く暮らしていたという女性。さらに調べるうち、夫婦の貯金から消えた百五十万円、売られていた母の形見、そして自宅をめぐる恐ろしい計画が明らかになる。夫婦|裡の顔|第二の人生|修羅場2.8万字5 0 -
完結第10話
機内で私を叩いた息子の愛人、空港で知った私の正体
新氏グループの会長・玉金は、息子への株式譲渡を決意し、予定を早めて帰国する。ところが機内で、息子の婚約者を名乗る若い女に席を譲れと迫られ、頬を叩かれてしまう。しかも女の腕には、かつて玉金が息子の正妻・寄舟に贈った家宝の翡翠があった。息子に電話をかけても、返ってきたのは母を侮辱する言葉ばかり。怒りを抑えて空港に降り立った玉金を待っていたのは、愛人が用意した警備員たちだった。しかし、そこへ現れた寄舟の一言が事態を一変させる。裡切られた|嫁姑|第二の人生|親子関係|修羅場1.4万字5 20 -
完結第20話
「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝
妻を亡くした七十五歳の佐伯源次郎は、一人息子の「一緒に暮らそう」という言葉を信じ、長年守ってきた自宅の名義を譲った。しかし、待っていたのは冷たい仕打ちと老人ホームへの入居命令だった。すべてを失った源次郎が向かったのは、亡き妻が幼い頃から愛した信州の山奥。荒れ果てた古民家を直し、畑を耕し、村人たちと心を通わせる日々の中で、妻が遺した「甘い水」に思いがけない価値が見つかる。相続|親不孝|親子関係|介護|金銭問題2.9万字5 32 -
完結第18話
箱詰めされた母の人生
義母のスマートフォンに届いた、夫・大輔からの一通のメッセージ。「歩美の母親のことは俺がうまく処理したよ(笑)」。不安に駆られた歩美が実家へ駆けつけると、母の幸子は一人で荷物を段ボールに詰めていた。しかも母は、娘に迷惑がられていると信じ込み、高齢者向け住宅への入居と自宅の売却を進めていたのだ。そんなことは一度も言っていない。夫はなぜ、母と娘の間に嘘を重ねたのか。書類に残された「1500万円」という数字から、九年間信じてきた夫の恐ろしい計画が明らかになっていく。裡切られた|怒り|嫁姑|絶縁2.2万字5 72