"玄関のピンクのウサギ" 第5話
の半分
万円で売られた腕輪の画面を見つめながら、私はしばらく何も言えなかった。フリマアプリに載っていた写真は、弟から送られてきた母の遺品写真とほとんど同じだった。い筋の位置も、縁のさな欠けも致している。説欄には「から譲り受けた然翡翠」「切にしてくださる方へ」とかれていた。切にしてほしいなら、なぜ最初から持ち主に返さなかったのか。りを通り越して、私は乾いた笑いがそうになった。
松本弁護士は運営会社への照会続きをめる方、購入者が判したは事を説して返還交渉をすることになると話した。第者が事をらずに買っている以、簡単に「返せ」で済む話ではない。私は分かっていた。それでも、母の首に何もあったものが、らない誰かのにあるとうと胸が苦しくなった。
「おが必なら、私がします」
「まだ方法は決めないでください。まず事実関係を固めましょう」
松本弁護士はそう言ったあと、冊のいファイルを机に置いた。
「それから、〇万円の送先についても分かりました。雄さんは昨、野郊でさなをいています。業期と送期が致しています」
私は目を閉じた。健が宅購入で万円りなかった、信之は「老資だから円もかせない」
広告
と言った。その夫が、綾乃の息子には〇万円をした。しかも相談すらなかった。
「貸した証拠はありますか」
「今のところ借用は見つかっていません。振込記録だけです。返済も確認できません」
「つまり、渡した能性がいということですね」
「なくとも現点では、そのように見えます」
私は子の背にもたれた。信之にとって族とは何だったのだろう。私には倹約を求め、実の息子には自を説き、別の女とその息子には惜しげもなくを使う。そこには単なる寂しさでは説できない、別のを作ろうとするがあるようにえた。
松本弁護士はさらに資料をめくった。
「田島先。もうつ、先にお伝えした方がいいことがあります」
声の調子が変わったので、私は背筋を伸ばした。
「ご主は、産について法律相談を受けています」
「こののことですか?」
「はい。自分名義の宅の持分を、特定の第者へ贈与するの続きについて問いわせています」
胸の奥がえた。
「特定の第者って……」
松本弁護士はをこちらへ向けた。相談記録に記された名を見た瞬、私は言葉を失った。
綾乃。
信之は、の持分の半分を綾乃へ移す方法を調べていた。まだ登記までは終わっていないが、贈与に向けた類作成の相談までんでいたらしい。
広告
私が働き、毎のローン返済に与を入れ、息子を育てながら守ってきた。その半分を、夫は私にらせないまま別の女へ渡そうとしていた。
「名義は夫です。だったら、私には止められないんですか」
「そう単純ではありません」
松本弁護士は落ち着いて説した。婚姻に夫婦が協力して取得し、実際の返済にも私の収入がきく使われている。婚の財産分与では、その実質な形成過程がになる。また、争いが起きている最に財産を第者へ移そうとした事も、今の続きので無できないという。
「ですから、まず処分されないようにを打つ必があります。田島先、にご主を問い詰めるのはし待ってください」
「分かりました」
私は即答した。昨までの私なら、夫のに類を突きつけていたかもしれない。でも今は違う。暗証番号を変えた点で、信之は私をのへ押しし始めていた。送も、腕輪も、〇万円も、の贈与も、全部が同じ方向を向いている。
私は初めて理解した。
夫は浮気を隠していただけではない。
私が戻れないに、私の席そのものを別の女へ渡そうとしていたのだ。
事務所をる、松本弁護士は最に枚のコピーを差しした。そこには、信之が相談にいた希望欄が残っていた。
《妻は期。今も戻る予定はい。居者を綾乃に変更し、将来に持分分のを贈与したい》
私はを握る指に力が入った。
まで、私は夫を驚かせるために帰ろうとしていた。
けれど今、驚かされているのは私の方だった。
しかも、そののにはもうつ、私がまだらない付が記されていた。
相談は、私が川町へ孫の世話にってから、わずかだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
亡霊の専属運転手
かつて海外の特殊部隊で「ファントム」と恐れられた神代美央は、戦場を離れ、平穏な人生を求めて大企業の会長専属運転手に応募した。しかし最終面接で待っていたのは、「女に会長を守れるわけがない」と嘲笑する副社長と、十一人の屈強な男たち。美央だけが、彼らのスーツの下に隠された拳銃に気づいていた。やがて現れた鷹司会長は、美央の履歴書を見た途端、激しく震え始める。職場逆転|真実|真相|第二の人生1.5万字5 2 -
完結第20話
消された十六番目の席
六十二歳の高田かず子は、亡き夫と二人で建てた家で、息子夫婦と暮らしていた。家事も生活費も負担し、家の中で自分の居場所を失いながらも、家族のために我慢を重ねてきた。ところが正月、十五人の親戚をもてなした末に、息子から「母さんの席はないから留守番で」と告げられる。嫁には「身内だけで楽しみたい」と笑われ、帰宅後の布団の準備まで押し付けられた。そんなかず子に、老舗寿司屋の大将から一本の電話が入る。因果応報|人生逆転|裡切られた|夫婦|親不孝|親子関係|修羅場2.6万字5 7 -
完結第10話
機内で私を叩いた息子の愛人、空港で知った私の正体
新氏グループの会長・玉金は、息子への株式譲渡を決意し、予定を早めて帰国する。ところが機内で、息子の婚約者を名乗る若い女に席を譲れと迫られ、頬を叩かれてしまう。しかも女の腕には、かつて玉金が息子の正妻・寄舟に贈った家宝の翡翠があった。息子に電話をかけても、返ってきたのは母を侮辱する言葉ばかり。怒りを抑えて空港に降り立った玉金を待っていたのは、愛人が用意した警備員たちだった。しかし、そこへ現れた寄舟の一言が事態を一変させる。裡切られた|嫁姑|第二の人生|親子関係|修羅場1.4万字5 55 -
完結第13話
濁流の中のSOS
夫と十三歳の娘・凛と買い物へ出かけた私。ところが夫は突然、増水した川へ車を走らせ、帰ろうとした私たちを激流へ突き落とした。必死にもがく私の手をつかみ、「お母さん、もがかないで!」と叫んだ凛。その言葉に従い、二人は奇跡的に生き延びる。だが、夫は救助もせず姿を消していた。裡切られた|夫婦|裡の顔|真相|親子関係1.9万字5 45 -
完結第18話
「少しくらい困ればいい」母をSAに置き去りにした夫の本当の狙い
家族旅行の帰り道、夫の雅人は、足の悪い七十四歳の義母・澄江をサービスエリアに置き去りにした。「少しくらい困れば、次から早くなる」。息子まで夫に同調する中、妻は必死に母を捜す。ところが、母のバッグから見つかったのは、本人が知らない老人ホームの入居申込書だった。さらに、夫が管理していた母の預金、身に覚えのない介護記録、そして車内カメラに残された会話から、旅行そのものが仕組まれていた疑いが浮かび上がる。夫婦|親不孝|第二の人生|親子関係|金銭問題2.3万字5 1535 -
完結第20話
花嫁のいない結婚式
結婚式を翌日に控えた長谷川由衣は、胃痛を訴える婚約者・黒田瞬のために、心を込めて雑炊を作っていた。ところが彼の部屋の前で耳にしたのは、「あいつはただの身代わりだ」という残酷な本音。三年間の愛情も、婚約指輪も、純白のドレスも、すべて元婚約者の代わりだったと知った由衣は、誰にも告げず空港へ向かう。翌朝、二百人の招待客が待つ式場に花嫁は現れなかった。人生逆転|真実|裡の顔|第二の人生|修羅場2.9万字5 444