"消された十六番目の席" 第18話
退通告とまでの猶予
野さんが階からりてきたのは、午分のことだった。 「田様、内の確認がすべて終いたしました。変入れがき届いており、回りも調されておりますので、定通りの好条件で買いがつくかとじます。正式な査定は、来週にお届けいたします」
「ありがとうございます、野さん。よろしくお願いいたします」 私がをげると、野さんは気まずそうに若夫婦の荷物を見やり、「それでは失礼いたします」と玄関をてった。
リビングに残されたのは、完全な敗者となった輔と麻美、そしてくを垂れる川夫妻だった。 麻美は膝をすり寄せ、私の元に縋り付こうとした。 「お母さん……! 私が悪かったです! これからは、お母さんの言うことを何でも聞きます! 事も全部やりますし、お正のことも……!」
「お正の配は、もうりませんよ」 私は穏やかに微笑み、そのを払った。 「来のお正、私はもう、このにはいませんから」
麻美の息が止まった。 輔が掠れた声で顔をげた。 「母さん……本当に、売るのか……?」
「ええ、売ります」 私は迷いなく告げた。 「査定が届き次第、専属専任媒介契約を結びます。内覧の希望者が来れば、案内も始まります。買いが決まれば、契約を交わし、引き渡しをいます。
広告
すべてが終わるまで、数ヶはかかるでしょう」
私は輔の目を真っ直ぐに見据えた。 「このを売ったおで、私は沢の姉ののくに、の丈にったさなマンションを買います。残ったおは、私のこれからの老資にします。……ですから、あなたたちには、末を目に、しい引っ越し先を探していただきます」
「……!?」麻美が鳴をげた。 「そんな急に言われたって、どこにけばいいのよ……!」
「急に追いすつもりはありません」 私はややかに言葉をねた。 「引き渡しまでの、ここにんでいて構いません。ただし、今からの気代、ガス代、代、そして費は、すべてあなたたちで支払ってください。私は円もしません。……に万円で暮らせていた甘いは、今で終わりです」
輔は畳を見つめたまま、拳を固く握りしめていた。 やがて、絞りすように呟いた。 「……分かった。探すよ」 「輔!?」麻美が叫ぶ。 「母さんのだもんな……。俺たちがてくのが、筋だ。最初から……そうだったんだ」
、玄関で『母さんがだと配だから』と恩着せがましく同居を申した息子が、まれて初めて、自分ので「てくのが筋だ」と言った。 その言を聞けただけで、私のの子育ては、完全に無駄ではなかったのだとえた。
久志さんが、麻美の隣で再びく畳にを擦り付けた。
広告
「かず子さん……まで猶予をいただけるだけで、に余るご温です。引っ越しの費用は、親である私どもが全額面いたします。……麻美、おが欲しかったのは『派なにむ娘の顔』だったんだろう。だがな、そんな顔は、のを奪って作るもんじゃない。自分たちの汗で、から作るもんだ!」
千恵里さんも涙を拭い、娘に厳しく言い渡した。 「麻美。来のうちの正は、あなたがすべてで台所にちなさい。分のお茶を淹れ、箱を詰め、皿を洗い、布団を敷いて……かず子さんがどれほどのいで耐えてこられたか、そので骨の髄までわいなさい!」
麻美は父親のので、声をげて泣き崩れた。 見栄で塗り固められた虚飾のは、跡形もなく崩壊した。 も、両親の信頼も、親戚のでの誇りも、彼女はこのですべてを失ったのだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
玄関のピンクのウサギ
六十歳の元教師・田島美香は、息子夫婦を助けるため、三年間にわたり孫の世話をしてきた。久しぶりに夫を驚かせようと自宅へ戻ると、玄関の暗証番号が変わり、見知らぬピンクのスリッパが置かれていた。台所から現れたのは、夫と二年近く暮らしていたという女性。さらに調べるうち、夫婦の貯金から消えた百五十万円、売られていた母の形見、そして自宅をめぐる恐ろしい計画が明らかになる。夫婦|裡の顔|第二の人生|修羅場2.8万字5 0 -
完結第10話
機内で私を叩いた息子の愛人、空港で知った私の正体
新氏グループの会長・玉金は、息子への株式譲渡を決意し、予定を早めて帰国する。ところが機内で、息子の婚約者を名乗る若い女に席を譲れと迫られ、頬を叩かれてしまう。しかも女の腕には、かつて玉金が息子の正妻・寄舟に贈った家宝の翡翠があった。息子に電話をかけても、返ってきたのは母を侮辱する言葉ばかり。怒りを抑えて空港に降り立った玉金を待っていたのは、愛人が用意した警備員たちだった。しかし、そこへ現れた寄舟の一言が事態を一変させる。裡切られた|嫁姑|第二の人生|親子関係|修羅場1.4万字5 65 -
完結第13話
濁流の中のSOS
夫と十三歳の娘・凛と買い物へ出かけた私。ところが夫は突然、増水した川へ車を走らせ、帰ろうとした私たちを激流へ突き落とした。必死にもがく私の手をつかみ、「お母さん、もがかないで!」と叫んだ凛。その言葉に従い、二人は奇跡的に生き延びる。だが、夫は救助もせず姿を消していた。裡切られた|夫婦|裡の顔|真相|親子関係1.9万字5 50 -
完結第20話
「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝
妻を亡くした七十五歳の佐伯源次郎は、一人息子の「一緒に暮らそう」という言葉を信じ、長年守ってきた自宅の名義を譲った。しかし、待っていたのは冷たい仕打ちと老人ホームへの入居命令だった。すべてを失った源次郎が向かったのは、亡き妻が幼い頃から愛した信州の山奥。荒れ果てた古民家を直し、畑を耕し、村人たちと心を通わせる日々の中で、妻が遺した「甘い水」に思いがけない価値が見つかる。相続|親不孝|親子関係|介護|金銭問題2.9万字5 92