"夫のいない四日間" 第12話
角のすれ違い
桜の季節が終わり、初の青葉が眩しいを放つの昼がり。
原稿の打ちわせを兼ねた文芸誌の受賞記パーティーに席するため、私は担当編集者が配してくれたハイヤーに乗り込み、都のホテルへと向かっていた。
窓を流れる緑の並み。内の静けさので、ふと交差点の赤信号でがまった。
何気なくの歩に目を向けたその、私の界の端に、見覚えのある歪んだが映り込んだ。
の舗装事現。照りつけるい差しので、だらけの作業着を着た男が、いツルハシを振りろしていた。
くかぶったヘルメットの隙から覗く、無精髭に覆われた浅黒い横顔。猫背になり、腰を痛そうにで押さえながら、監督員にペコペコとをげているその男——。
田博之だった。
かつて「俺は流企業の営業だった」「里美を支えてやる」と偉そうにソファーでふんぞり返り、ブランド物のスーツを着こなして親友の女と夜景を楽しんでいた男の、無残な現の姿。
そのみすぼらしい背を見つめながら、私ののには、驚くほど欠片のも湧きがってこなかった。
激しい憎悪も、溜ががるような復讐のも、あるいは憐憫のすらも、何つない。
ただ、傍に転がるひび割れたを見るような、絶対な無関。
信号が青に変わり、ハイヤーが滑らかに加速していく。
男の姿は、あっというに方へとさくざかり、ビルの排気ガスの煙のへと完全に消えっていった。
(さようなら、博之)
私はので、度だけ静かに呟き、線を方のけたへと戻した。
彼が背負った罪の字架は、彼自がをかけてその肉体と孤独で贖い続けるべきものだ。私のの頁には、もうその名がき込まれる余は文字たりとも残されていない。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
離婚翌日、父と食事中の私を「また金持ちに寄生か」と笑った元夫の末路
結婚生活のすべてを一円単位で折半しながら、家事だけは妻に押しつけていた夫・亮介。「お前は寄生虫だ」と離婚を突きつけられた綾乃は、静かに別れを受け入れた。 その翌日、実父と高級ホテルで食事をしていると、偶然現れた亮介と不倫相手が「もう次の金持ちを捕まえたのか」と嘲笑する。因果応報|夫婦|真実|金銭問題|修羅場|不倫1.9万字5 11 -
完結第21話
赤ペンで消した夫
四十一歳の黒沢洋子は、出版社で腕を認められるベテラン校正者。編集長として出世した夫・和也を支え、七年間、穏やかな結婚生活を送ってきた。ところがある夜、夫から頼まれた若い女性作家の原稿に、見覚えのある文章を発見する。それは、かつて夫が洋子だけに囁いた愛の言葉だった。疑念を抱いた洋子が調べ始めると、原稿の裏には夫の不倫だけでは済まない重大な秘密が隠されていた。やがて和也は、女性作家との十日間の執筆合宿へ出発する。何も知らず帰宅を楽しみにする夫に、洋子は静かに最後の準備を進めていた。夫婦|真実|修羅場|不倫2.3万字5 2 -
完結第10話
産後七日目の決別
帝王切開からわずか七日。傷の痛みと貧血に苦しむ真帆に、夫の直人は「産んだ人が自分で育てればいい」と冷たく言い放った。生まれたばかりの娘を守るため、真帆は実家へ避難する。ところが直人と義母は、彼女を「産後うつで勝手に家出した妻」に仕立て上げ、親族に嘘を広め始めた。追い詰められた真帆は弁護士に相談し、あの日の暴言が記された助産師の記録を手に入れる。そして、夫の勤務先から届いた一通の回答書が、直人の主張を根底から覆そうとしていた――。夫婦|裡の顔|修羅場|不倫1.9万字5 5 -
完結第12話
大家だった姑の逆転
夫を亡くしてから、息子を育てながら八世帯のアパートを守ってきた私。四十歳の息子が迎えた若い嫁は、「お母さんを支えたい」と同居を望んだ。ところが結婚後、私は台所にも立てず、夕食は寝室で一人。ついには「年金暮らしの無職は邪魔。出て行って」と言い放たれる。嫁が信じていたのは、息子がアパートの大家だという嘘だった。本当の所有者が私だと知っても、息子夫婦は名義を譲るよう要求してくる。私は静かに承諾した。しかし、二人が欲しがったアパートには、まだ知らない重大な問題が隠されていた。親不孝|裡の顔|絶縁|親子関係|退職金|金銭問題1.6万字5 0 -
完結第18話
4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い
義父母が住む場所を失った十五年前、黒田彩は自分名義の家を無償で貸した。ところが義母・文子の古希祝いで、突然「あの家は次男の公平に譲る」と宣言される。親族が賛同する中、普段は母親に逆らえない夫が立ち上がり、衝撃の事実を告げた。しかし義母は、彩が昔書いた一通の手紙を持ち出して反論。因果応報|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|金銭問題2.0万字5 162 -
完結第20話
消された十六番目の席
六十二歳の高田かず子は、亡き夫と二人で建てた家で、息子夫婦と暮らしていた。家事も生活費も負担し、家の中で自分の居場所を失いながらも、家族のために我慢を重ねてきた。ところが正月、十五人の親戚をもてなした末に、息子から「母さんの席はないから留守番で」と告げられる。嫁には「身内だけで楽しみたい」と笑われ、帰宅後の布団の準備まで押し付けられた。そんなかず子に、老舗寿司屋の大将から一本の電話が入る。因果応報|人生逆転|裡切られた|夫婦|親不孝|親子関係|修羅場2.6万字5 432