みかん小説
本棚

"赤ペンで消した夫" 第17話

のと、古い文卓

暮里駅から夕焼けだんだんをり、細いを歩くこと分。 築を超える造階建ての古民アパートの階に、子のしいはあった。 畳と畳半のさな。 畳の青畳の匂いが微かに残り、向きの掃きし窓からは、隣接する古い寺の境内にそびえる派な欅のが見渡せる。 陽当たりは抜群で、の柔らかなが部の隅々までき届いていた。

「黒沢さん、荷物の搬入が終わりましたよ」 引越し業者の作業員が汗を拭いながら声をかけてくれた。 運び込まれたのは、子の必最限の活具と、井まで届く竿の頑丈な本棚、そして独代から使い続けている欅の無垢材で作られた古い文卓だけだった。

子は作業員に茶菓子の包みを渡して見送り、部の央にぽつんと座った。 静まり返った部。 くから、寺の鐘の音がゴーンとく響いてくる。 では、所の野良猫が塀ので気持ちよさそうに目を細めていた。 広尾のタワーマンションのようなも、ディスポーザーも、理のカウンターもない。 だが、ここには也の嘘も、義母の押し付けがましい説教も、息の詰まるような欺瞞もしない。 ただ、自分自が呼吸し、自分自の言葉と向きうための、完璧な静寂があった。

子はちがり、欅の文卓を窓際に据えた。 卓のに、用のペントレイを置き、赤万と黒のボールペンを並べる。 窓をけると、凛としたのが吹き込んできて、子の髪をふわりと撫でた。 「……いい部ね」 誰に聞かせるでもなく、子は呟いた。 ぶりに取り戻した、誰にも侵されることのない自分だけの聖域。 その実が、じんわりと臓腑に染み渡っていった。

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