"消えた十一丁の鍬" 第2話
返してくれという声
翌朝、信は先で佐代に呼び止められた。佐代はさな息子の夫を連れ、のついた履でにっていた。昨夜、の田の畦が崩れたので朝のうちに直したいという。徳兵がいないことを確かめると、彼女は信の袖を引いた。「昨の鍬、私の物です。回収へすかどうかは私に決めさせてください」
信は答えに窮した。父が鍵をさないのは分かっている。それでも農具を奪われる怖さをにしながら、持ち主に使わせない父のやり方を正しいとはえなかった。彼は納の裏へ回り、古い板の隙からを覗いた。柄の鍬が壁にて掛けられ、刃の欠けた物はへ横倒しにされている。どれが誰の物か記した札が柄についているのを見つけ、佐代の名を探した。
「おまで棒の真似をする気か」。背に徳兵がっていた。信はまっすぐ父に向き直った。「の鍬を閉じ込めているほうが、よほどおかしい。返したあとで本に事を説すればいい」。徳兵はし黙ってから鍵をした。ただし佐代の鍬を選び、刃を指先で確かめると、まだ研ぎ終わっていないと言って炉のに置いた。
「半待て。柄の付け根が緩んでいる」。徳兵は炭をし、した具を取りした。鉄を叩く音が朝のへ響き始めると、信はを見ながら、父がすぐに返さなかった本当の理由を考えた。
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研ぎ残しや柄の緩みは危ない。だが、修理が必な鍬と属回収にせる廃鉄を分けることは、むしろ父こそよくっているはずだった。
佐代が受け取った鍬は見違えるほど丈夫になっていた。彼女が礼を言うと、徳兵は顔を背けた。「礼はらん。それを回収用だと言われたら、今度は自分で言い返せ」。佐代はきっぱりとうなずき、「私は使います。畑で仕事をしているところを見れば、誰にも余り物とは言わせません」と答えた。
佐代は帰り際、もう度納へ目をやった。「それと、くなった母から譲られた幅広の鍬も預けています。あれはまだ直らないんでしょうか」。徳兵は「刃の根元が割れている。直し方を考えているところだ」と答えた。佐代は急がせるつもりはないと言ったが、使う鍬が本あっても、方が元にないと作業を替えるたびに困る。信は札を確かめ、狭い田用の丁は今返したこと、畑用の丁はまだ預かっていることをき分けた。
ところが、その様子を槻の甥の健が見ていた。彼は青団で回収品の運搬を伝っており、の誰よりもく割当てを済ませたがっていた。昼過ぎ、役の張所から来た本という係員が、「所者の希望があるなら品目を確認する必がある」と説したにもかかわらず、健は徳兵の納を指さした。
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「あのに丁あります。にせる鉄を、で囲い込んでいるんです」
本は赤いを確かめてから言った。「このの回収候補覧には、『使用を終えた物類』とある。いている農具を勝に廃物と決めることはできません」。その言葉に信は胸をなでろしたが、槻は「それなら丁ずつ使えると証してもらおう」と言った。具を預けた農は軒い。全部が証を待っていては、の仕事が遅れる。
その夜、信は父に提案した。「、俺が丁全部を調べる。持ち主と壊れた所と、直すをきす。回収へ回せる物があれば、隠さずそう言う」。徳兵はしばらく考え、「好きにしろ。ただし、おが廃物と決めた物で、田の仕事が止まってもらんぞ」と言った。
信はと鉛を取りに母へ向かった。その背へ、母のお勢がさく声を掛けた。「お父さん、昨から夜にも炉を使っているのよ。あれだけ炭がないと嘆いていたなのに」。信は振り返った。納の奥で、見慣れない赤いのがつ、またつとんでいた。
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