みかん小説
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"消えた十一丁の鍬" 第5話

消えたの刃

「父さん、刃はどこへやった」。信は納ので声を荒らげた。徳兵は裏にったまま、答えなかった。には持ち主の名を結んだ柄が本、まっすぐ並んでいる。修理するはずの鍬から刃をしただけなら、炉のそばに置いてあるはずだった。だが炉の周りにも、刃は枚もない。

信が探そうとすると、徳兵はを塞いだ。「あれはもう、元の鍬には戻せん」。信は言葉を失った。「何をした。佐代さんもさんも、の仕事を待っているんだぞ」。父はゆっくり帯を締め直し、「今晩、のを集める。俺のから話す」とだけ言った。信はそれまで待てなかった。裏の作業をけると、そこには鍬の刃を細く割いた鉄片と、しく作りかけのきな具が並んでいた。

鉄片はを受けて黒くなり、部は穴をけられていた。信には用途がすぐ分かった。から引く用の古いのに使う、補の帯と留め具だ。毎、かさが増えると板が浮きがり、の田へが流れ込む。の増で留め具がつ欠け、修理が遅れていたことは信も聞いていた。

「まさか……預かった鍬を潰して、の具にしたのか」。徳兵はうなずいた。「品の鉄が入らん。もう度が続けば、の田が流される。の鍬を守っても、田そのものがなくなったらどうする」

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。信は父の言葉を理解した。しかし納得はできなかった。農が自分の具を預けたのは修理のためであり、のために使っていいと許したわけではない。

には細い鉄くずが残り、割いた刃の端がえていた。信はつを拾い、指で曲がりを確かめた。父が炉のにっていた夜、自分はの会議で父をかばう言葉を探していた。その父が、預かった具を持ち主へ返せなくしていた。鉄は打てば別の形になるが、度切りした信頼はへ戻しても元通りにならない。信は息をえ、父が何を作ったかだけでなく、誰に黙っていたのかを問いたださなければならないとった。

「そういうことなら、どうして先に皆に聞かない。俺にも言わない」。徳兵は初めて目を伏せた。「聞けば誰だって自分の鍬を返せと言う。だから、もう戻せないところまで打ってから話そうとった」。その声には、何も鍛冶をしてきた男のさと、誤ったことをした自覚が混じっていた。信は、目のの父が具を守るために隠した英雄などではないとった。

夕方、の々が鍛冶に集まった。佐代は刃のない柄を見つけると、しばらく何も言えなかった。徳兵は皆のでをげた。「わしが勝にやった。返す鍬は今ない。必ず働いて償う」。佐代は首を横に振った。

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「働いてくれるのはありがたい。でも、の畑へ持っていく物はどうするんですか」。その問いには、誰も答えられなかった。

騒ぎの最、役の本が濡れた着のまま入ってきた。「のを確かめてきました。板が傾いています。今夜の次第では、の田を守れません」。徳兵は作りかけの具を抱え、「け方までには仕げる」と言った。しかし本はさらに続けた。「そのに確認しなければならないことがあります。の向こう側にあるで、の図面とは違う位置にしい杭が打たれているんです」

信は父を見た。父もその杭をらないらしい。を直せばの田を守れるとっていたのに、どこへを逃がすかという肝な筋が、誰にもらされずに変わっていた。本がでにじんだ図面をくと、流れの先には佐代のさな田があった。

「このままを締めたら、あのの田へが向かいます」。その言で、鍛冶は凍りついた。徳兵が丁の鍬を犠牲にして作った具は、を守るどころか、軒の田だけをに沈めるかもしれなかった。

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