"大正十四年、卒業式で制服を脱いだ三十七人――母の署名に隠された秘密" 第5話
母の名
宮裁縫所に集まったのは、ちせを含むの縫いだった。さな部には完成したが吊られ、なった袖が窓のかりを遮っていた。がづいたとはいえ、はたく、奥でが炭をしている。操は作業台の端に座り、母と同じ目線で話を聞いた。
はるが広げた契約には、完成した着を決められたに桐へ納め、学側の検品を終えてから縫製賃を支払うとかれていた。だが別の欄には、発注の止や受け取り拒否があった、仕ての途で使った付属品や運搬費を裁縫所が負担する、とも記されていた。
「を買わなくてよくなれば、皆が助かるとっていました」と操が言った。はるは首を振った。「誰も買わないを、女たちが無償で縫ったことにして済むなら、裁縫所はを閉めるしかない。うちは桐から布を預かっている。縫い代だけじゃなく、糸代もて替えてるの」
ちせは操の方を見なかった。代わりに完成したのつを畳み、傷んだ指先で縫い目をなぞった。「そのは、操のためだけに縫ったんじゃないよ。私らは仕事として受けたんだ。仕事なら、誰が着るか決まらなくなったにも、支払いの相談をしなきゃいけない」
操は涙がそうになった。しかしここで泣けば、母たちが困っている話まで自分のしみに変えてしまう。
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それが嫌だった。「どうしたらいいか、教えてください」と言うと、はるはし驚いた顔をした。
「まず学の注文を誰が責任を持ってしたか、確かめること。娘さんたちには、の式で何をするか本当に考えてほしい。私らの名も、そこにあるんだから」
卒業式の夜、操はの同級と教に残った。庭にはまだがわずかにあり、窓からたい空気が流れ込む。郁子はしいを膝に置き、「私はちゃんと着て卒業したい。でも誰かをして写真を撮るのは嫌」と繰り返した。鶴子は「私も式にはたい」とさく言った。
環が提案した。「は全員でを着て会に入る。それから、台で自分たちのに戻る。装が嫌なんじゃない。装しか認めない決まりがおかしいと示すの」。
操ははるの言葉を伝えた。には女たちの仕事があり、誰かが代を払わなければならないこと。みんながを脱いだからといって、仕てたの仕事まで否定したくないこと。郁子は話を聞き、「それなら、脱いだもちゃんと持って帰ろう。私たちがらないにするのは違うよ」と言った。
は遅くまで話しった。学へ謝らせるためにやるのか、を含めて卒業するためにやるのか。答えは完全には揃わなかったが、誰かが貧しいことを隠すためにだけ取り残すのはやめよう、と最には致した。
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翌朝、学は代未納のにも、式のだけはを着せることを認めた。あくまでな貸ししで、購入する決まりは変わらない。写真からされる配が消えても、卒業をの代でするという問題は残った。は紺ので講堂へ列し、が証を読みげようとした瞬、約束した通りを脱いだ。拍の代わりに声が起こり、操が皆を代表して発言した。佐伯先は徒の横にち、は証を机へ引き戻した。
式が断された、操たちは教に集められた。廊で親たちの音がき交う。環の父は娘を叱り、鶴子の母は何度も「私が払えなかったから」と謝った。操は母がどこにいるのか探したが、ちせの姿は見えなかった。
夕方く、桐の主が学へ来た。の番が持参したには、式の代の請求先を変更するという文言があった。が受け取りを保留したため、桐は縫製所に完成品の引き取りを求め、未払いの仕て賃もいったん差し止めると言う。
「お母さんたちの仕事は、どうなるんですか」と操が聞くと、主は答えた。「学の式で使わないなら、注文自体を見直してもらわないと。うちも損を被るわけにはいかん」。
すると廊の向こうから、ちせが歩いてきた。顔は悪かったが、声は落ち着いていた。
「桐さん、娘たちのしたことと、私らが働いたことは別です」。ちせは主の目のにを置いた。
それはの付のある、縫いの連名だった。式の部を学で貸しし用に回し、代を分割して納めるという案を、縫いたちが先に申していた。には、学側からの返事がだけ記されていた。
《同式を各自購入の原則、変更認めず》
操が驚いて母を見た、桐の番が吐き捨てるように言った。「その案が通らなかった、ちせさんたちがどういう条件で仕事を続けたか、娘さんはっているのかね」
ちせは止めようとしたが、にわなかった。番はもう枚のを操へ差しした。そこには、学の注文が取り消された、の縫いが既に支された布の代の部を弁済するという署名があった。最初にかれていたのは、母・林ちせの名だった。
「お母さん、どうして……」
操が問いかけても、ちせはすぐには答えなかった。から渡されなかった卒業証より、操にはそのに並ぶの名の方がく見えた。が脱いだは、誰かを自由にするためのものだったはずなのに、その裏側には、母たちが引き受けさせられた借があった。
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