みかん小説
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"元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円" 第3話

活字のりと古いメモ

揺れるの窓ガラスに額を当てながら、私は流れていく郊の景をぼんやりと眺めていた。

窓の景が、次第に懐かしい輪郭を帯びてくる。かつてとでを取りい、駆け落ち同然で逃げ延びたあの町並み。駅名のアナウンスが流れるたび、の記憶が、インクとの匂いとともに鮮やかに蘇ってきた。

私との会いは、冊のミステリー説だった。

当歳だった私は、元の駅ビルにあるで契約社員として働いていた。決して裕福ではない庭で兄弟の女として育ち、学学を諦めて就職した私にとって、本に囲まれて過ごすは唯のらぎだった。

毎週曜の午過ぎ。決まって閉際の静かな内に、仕てのいいスーツを着た若い男性が現れた。彼は平積みの話題作には目もくれず、翻訳説の棚のでじっくりとをかけ、玄好みの骨太なミステリーを、冊選んでレジへ持ってくるのだった。

それが、歳のだった。

『カバーはお付けしますか?』 『あ、お願いします』

最初は、そんな定型句を交わすだけの関係だった。だが、彼の選ぶ本のラインナップは、私が個に読み耽っていた作ばかりで、いつしか私は彼がレジに来る曜の夜を密かに待ちにするようになっていた。

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転が訪れたのは、会ってヶが経ったの夜だった。

彼が会計を終えてをてった直、私はカウンターの端に黒い革のつ折り財布が置きりにされているのに気づいた。

「すみません、! ちょっとお客様を追いかけてきます!」

私は財布を握りしめ、自ドアをびして夜の駅通りをった。息を切らせて改札ので追いつき、肩で息をしながら声をかけた。

「お、お客様! お忘れ物です!」

振り返ったは、私のにある財布を見て、目を丸くしたに照れくさそうにを掻いた。

「うわ……すみません! 全く気づいていませんでした。ってきてくれたんですか?」

「常連さんのお顔は覚えていますから。……いつも、ミステリーの棚をに見てくださっていますよね。あの棚のポップ、実は私がいているんです」

い切ってそう告げると、の顔が瞬でパッと輝いた。

「えっ、あのポップをいているの、あなただったんですか!? あの作の伏線回収の見事さをあんなに確に表現できるがいるなんて、いつもしていたんですよ!」

寒空の、私たちは寒さも忘れて、好きな作や作品についてで語りった。古典な本格ミステリーから、最の欧サスペンスに至るまで、驚くほど好みが致していた。

「あの……もしよかったら、もっとお話ししませんか? 連絡先を教えていただけませんか」

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が胸ポケットから取りしたさなメモ帳に、さらさらとペンをらせて千切った枚の片。そこに記された話番号とメールアドレスが、私たちの恋の始まりだった。

友から恋へ、の距が縮まるのにはかからなかった。は商社に勤める会社員で、いつも穏やかで、私の貧しいいちをからかうこともなく、のとして対等に接してくれた。

の幸せな交際を経て、私が歳になった。の部で、私は何気なく友の結婚式の話をにした。

「は……私たちの将来のこと、どう考えてる?」

い女だとわれて逃げられるかもしれない。そう怯える私に、は居まいを正し、真っ直ぐに私の瞳を見つめ返した。

「もちろん、ずっと緒にいたいとってるよ。ひな子、俺と結婚してほしい」

にも昇るような幸福だった。しかし、その直にのから語られた言葉は、私を底れぬ試練へと引きずり込むプロローグだったのだ。

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