"元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円" 第6話
通帳に刻まれた文学数字
特別応接の防音扉が閉まる鈍い音が、静まり返った内に々しく響いた。
支の内藤と名乗る男は、皺ひとつない仕ての級スーツの裾を正しながら、私の正面にある本革のソファーへとく腰をろした。その隣には、融資課のが黒革のバインダーを抱えて直の姿勢を保っている。
「松浦様、突然このような特別へお通しいたしましたこと、まずはくお詫び申しげます」
内藤支は両を膝のに揃え、格式ある料亭の主のように滑らかな調で語りかけてきた。
「ですが、お持ちいただいた座の記録を確認いたしましたところ、般の窓でお続きをめるには、あまりにも額がきすぎましてね。当としても、万全のセキュリティとプライバシーをお約束できるこの部でお話しさせていただくのが最善と判断いたしました」
「額が……きい……?」
私のから、の抜けた疑問符が漏れた。
「何かの違いじゃありませんか。私は、元夫から養育費として振り込まれているはずの、せいぜい百万円か百万円程度の端を引きしに来ただけなんです。活費のしにしたいとって……」
「端、ですか」
内藤支は微かに眉をげ、隣のに目配せをした。は無言のまま歩にみると、先ほど私が預けたばかりの若の普通預通帳を、マホガニーのテーブルのに静かに置いた。
広告
最の印字を通したばかりの通帳は、ほのかに械のを帯びていた。
「松浦様。どうぞ、ご自の目で最終をご確認ください」
言われるがまま、私は震える指先を伸ばし、青い表の通帳をいた。
、記帳すらしていなかった空のページ。そこに、たっただけ、械な細い黒インクで刻まれていた数字があった。
『2023414 振込 ミワダイチ ¥150,000,000- ザンダカ ¥150,000,000-』
「……え?」
界の焦点がわなくなった。ゼロの数を数えようとするのだが、の芯が痺れてうまく認識できない。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せんまん……。
「……いちおく……ごせんまんえん……?」
声が掠れ、喉の奥にへばりついた。
「はい。美様より、婚成の直、こちらの座へ括で入された資でございます」
課が、く落ち着いた声で補した。
「名目は『婚に伴う財産分与および将来の活保障』として、正規の法続きを経て処理されております。贈与税の対象となるよう、顧問弁護士の監修のもとで極めて厳密に非課税枠の処理が施されておりますので、税務署からの追徴課税等のご配は切ございません」
億千万円。
で油まみれになって、指先に無数の豆を作りながら、千百円で働いてきた私の現実が、目ので音をてて崩壊していくのをじた。
広告
なぜ。どうして。
あの、リビングで酷に「もう度と俺のに現れるな」と言い放ち、私の顔めがけてプラスチックのカードを弾きばした男。と結託し、妻と息子をからへ放りしたはずの元夫が、なぜ、般がかけてもにできないような文学なを、私の座に遺していったのか。
「わけが……わかりません……。あのは、私と息子を捨てたんです。女を作って、私たちを邪魔者扱いして追いしたんです! こんな、どこから面したというんですか!?」
取り乱して声を荒らげる私に、内藤支は困ったような笑みを浮かべるだけで、それ以の核には踏み込もうとしなかった。ただ、形式な営業用の言葉を並べてる。
「美様は、かつてきな事業をちげられた興IT企業の創業者グループの員でいらっしゃいましたからな。保されていた未公株の売却益等をすべて充当されたと伺っております。……当といたしましては、この貴なご資産をそのまま定期預、あるいは信託商品として運用していただくことを——」
そのだった。
課が、内藤支の言葉を遮るように、胸ポケットから分い通のい封筒を取りしたのだ。
表面には、震える跡で、懐かしい文字が躍っていた。
『ひな子へ』
あのの、几帳面だがしがりに傾く独特の跡。
「支、失礼いたします。……美様からお預かりしていた『厳封特約親展』をお渡しする規程の条件が、今まさに満たされました」
の瞳には、内藤支とはらかに異なる、鋭く張り詰めたが宿っていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
四十九日の絶縁
夫を突然亡くした三十七歳の裕子。悲しみに暮れる間もなく迎えた四十九日法要の日、帰宅した彼女を待っていたのは、ゴミ捨て場に放り出された自分の荷物だった。「息子が死んだら嫁は赤の他人よ!」そう言い放つ姑は、さらに幼い二人の子供まで裕子から引き離そうとする。だが、姑が三歳の息子だけを異常に可愛がる裏には、恐ろしい計画が隠されていた。子供たちを守るため、裕子は静かに反撃の準備を始める。そして数か月後、助けを求めて電話してきた姑に、裕子が告げた言葉とは――。人生逆転|裡切られた|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|介護2.3万字5 4 -
完結第13話
俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日
妹を事故で亡くし、遺された六歳の双子を男手一つで育てる伊吹公平。仕事と育児に追われる毎日の中、彼が最も苦手としていたのは、職場で「氷の女」と恐れられる経理主任・桐谷エリカだった。ところがある日、保育園へ迎えに行った公平は、娘たちに囲まれて優しく微笑むエリカの姿を目撃する。しかも、誰にも甘えようとしなかった内気な妹・りこが、彼女の服を握って離さない。冷たい視線の裏に隠されていた意外な素顔。そして、少しずつ変わり始める三人の暮らし。孤独を抱えた大人たちと、小さな双子が紡ぐ、温かな家族の物語。人生逆転|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|金銭問題1.9万字5 0 -
完結第18話
離婚翌日に6億円当選、実家で弟に「居場所はない」と拒絶された私
十五年間の結婚生活を終え、四十二歳で一人になった沙耶。途方に暮れていた彼女に、突然、六億円を超える宝くじの当選という奇跡が訪れる。両親を助け、人生をやり直そうと実家へ帰った沙耶だったが、弟の健太は「この家に姉ちゃんの居場所はない」と冷たく言い放った。理由も分からず傷つく沙耶。しかし、弟夫婦が十二年間背負ってきた現実を知り、彼女の考えは大きく揺らぎ始める。さらに当選を打ち明けた夜、健太が突きつけた一言が、家族の隠してきた本音を浮かび上がらせる。六億円があっても取り戻せないものとは――。人生逆転|兄弟姉妹|親子関係|金銭問題1.8万字5 22 -
完結第20話
「息子が高熱なのに来い!」夫一家に185万円の請求書を押しつけられた私の正体
夫と義家族から「何もできない専業主婦」と見下され、金銭まで搾り取られてきた松岡美央。しかし彼女には、世界的なホテルグループの最高責任者という、誰にも明かしていない秘密があった。ある夜、高熱を出した息子を看病していると、義母から三十件以上の着信が届く。「緊急事態だから今すぐ来なさい!」慌ててホテルへ駆けつけた美央を待っていたのは、豪華な食事を楽しむ夫一家と、185万円もの請求書だった。裡切られた|怒り|嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場2.6万字5 14 -
完結第20話
高熱の娘を置き去りにした姉は、私の夫と不倫旅行中だった
結婚五年目の美和は、実の姉・麻里奈から生後十一か月の姪を十日間預けられる。ところが、姉が海外旅行へ出発した直後、幼い心ちゃんの容態が急変。必死に救急搬送する美和だったが、姉にも出張中の夫にも連絡がつかない。不審に思って姉のSNSを調べると、南国の写真に写り込んでいたのは、見覚えのある夫の腕時計だった。怒り|夫婦|親子関係|不倫1.8万字5 14 -
完結第10話
泥の作業着と誇り
高校卒業から十七年ぶりの同窓会。咲は、夫が農家だと話した途端、華やかな暮らしを自慢する同級生のレナから大勢の前で笑いものにされてしまう。「泥だらけの旦那なんて恥ずかしくないの?」心ない言葉に傷つきながらも、咲は「世界一自慢の夫よ」と言い返した。やがて、仕事帰りの夫・大地が泥のついた作業着で迎えに現れると、再び嘲笑が巻き起こる。しかし次の瞬間、幹事の西村が顔色を変え、夫に向かって深々と頭を下げた。誰も知らなかった大地の本当の姿が、少しずつ明らかになっていく。人生逆転|夫婦|真相|第二の人生|修羅場1.7万字5 14 -
完結第18話
離婚翌日、父と食事中の私を「また金持ちに寄生か」と笑った元夫の末路
結婚生活のすべてを一円単位で折半しながら、家事だけは妻に押しつけていた夫・亮介。「お前は寄生虫だ」と離婚を突きつけられた綾乃は、静かに別れを受け入れた。 その翌日、実父と高級ホテルで食事をしていると、偶然現れた亮介と不倫相手が「もう次の金持ちを捕まえたのか」と嘲笑する。因果応報|夫婦|真実|金銭問題|修羅場|不倫1.9万字5 28