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"出征前夜、夫から突然の離縁状――日記に隠された本心" 第14話

玄関の向こう

が止まった。

こんな朝くに誰だろう。

志乃さんなら裏から声をかける。

町内の用なら、もうしが昇ってから来る。

棒という考えがをよぎった。

私は箸を握り、玄関へ向かった。

はまだ暗い。

かりだけが庭を青く照らしている。

から玄関まで、誰かが歩く音がした。

歩。

また歩。

ひどくゆっくりだった。

胸が鳴った。

何かを期待してはいけない。

、私は玄関の音がするたび期待した。

郵便。

所の子ども。

役所の。

何度も違った。

だから今回も。

そう自分に言い聞かせた。

やがて音が玄関で止まった。

しかし戸は叩かれなかった。

しばらく、もも無音だった。

私は息を殺した。

そして聞こえた。

「……すみません」

男の声。

く、かすれている。

らない声のように聞こえた。

「どちら様ですか」

自分の声が震えた。

返事がない。

私は戸へを伸ばした。

ほんのしける。

たいが吹き込んだ。

に、の男がっていた。

ぼろぼろの套。

痩せた頬。

伸びた髪。

にさな荷物。

私はその顔を見た。

っている。

けれどらない顔のようでもあった。

よりずっと痩せている。

顔にはさな傷があった。

目のはくくぼんでいた。

それでも。

目だけは同じだった。

男は私を見たままかなかった。

唇が震えた。

「……ただいま」

箸がから落ちた。

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乾いた音が玄関に響いた。

私は何も言えなかった。

だとった。

何度も像した景だった。

朝、がく。

淳さんがっている。

「ただいま」と言う。

そのたびから覚め、だった。

だから目ののも、触れれば消えるような気がした。

淳さんが歩づいた。

そして、私の顔をまっすぐ見た。

「キヌ」

初めてだった。

縁を告げた夜にも度呼ばれた。

けれど、あのとは違う。

たい声ではなかった。

何かを確かめるような、震えた声だった。

気づけば私は駆け寄っていた。

胸にび込むつもりだったのかもしれない。

しかし歩で止まった。

私たちは夫婦ではない。

、縁した。

その事実が急にをよぎった。

淳さんもを伸ばしかけ、途で止めた。

とも、どうすればいいのか分からなかった。

笑しかった。

あれほど待ったのに。

帰ってきたらるつもりだった。

泣くつもりだった。

抱きしめるつもりだった。

何つできない。

先にをいたのは淳さんだった。

「待って……いたんですか」

私は涙を拭いた。

「はい」

「どうして」

その問いに、し腹がった。

「どうしてって」

声がきくなった。

「旦様が勝に縁したからです」

淳さんが目を丸くした。

「記も読みました」

顔が変わった。

「記?」

「文机の引きしにありました」

「全部?」

「全部です」

淳さんは片で顔を覆った。

戦から戻った男が、初めて見るほど狼狽していた。

私は泣きながら笑った。

「恥ずかしがるところが違います」

「いや……」

「私は待ったんですよ」

「すまない」

「その言葉も聞き飽きました」

淳さんは黙った。

私はもう度顔を見た。

本当に帰ってきた。

そこにいる。

その事実がようやく胸に落ちた瞬、涙が止まらなくなった。

「お帰りなさい」

声が掠れた。

淳さんの目も赤くなった。

「ただいま、キヌ」

それは私が、聞き続けたかった言葉だった。

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