"昭和46年、優勝した妻に夫が告げた「帰るな」" 第20話
帰る所と、投げる所
初のある朝、子は駅での妻に会った。「子さん、今度うちの姉を連れてってもいい?」。以は、教へ参加するを集めるために自分からをげて歩いていた。いまは誰かが別の誰かを誘って来る。子は「もちろん。初めてなら、見学だけでもええですよ」と答えた。あさひボウルでは子がいなくても京子たちが受付を始め、会費を集め、次の予定を掲示していた。
教の、子はし遅れて到着した。由美と学の作品展を見にっていたのである。以なら自分が遅れると会が始まらないのではないかと配しただろう。ところが受付には澄子が座り、たみがしく来たに靴の所を案内していた。子が「遅うなってごめんなさい」と言うと、京子は「もう始めてるで」と笑った。子はその言葉を聞いて、胸の奥が温かくなった。
由美はポスターを枚持ってきた。青い線できな球を描き、には「初めての投、いっしょに」といてあった。派な絵ではない。けれど入のくからでも読める。子は「これ、教の名よりきくしてええの」と尋ねた。由美は「何のために来るかが、先に見える方がええやろ」と答えた。母は、娘がすでに自分の仕事をしずつ見つけていることをじた。
夕方、子はへ戻るための荷物を桂子の部でまとめた。
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信夫と何度も話しい、事を分担するを決め、教のを変えないことも約束した。もしまた言い争いになったら、翌朝まで黙り込まずに話すこと。由美のについても、娘本のを聞いて決めること。それはにいて卓に置いた。桂子は見て「なんや、結婚のやり直しみたいやね」と笑った。
「やり直すいうより、初めてちゃんと決めた気がするわ」
子は鞄を持ち、駅へ向かった。初めてをた夜は、どこへけばよいかも分からなかった。いまは帰る所があるだけでなく、の午にく所もある。どちらかつを選ばなくてもよいと気づいたことが、いちばんきな変化だった。
に着くと、信夫が台所で米を研いでいた。「おかえり」と言った、し照れくさそうに笑った。子も「ただいま」と返した。炊飯器の目盛りはまだ々違えるらしいが、以のように妻が全部直すつもりはない。由美は卓にしい分の予定表を置き、父が曜と曜、母が曜と曜、残りはその週ごとに相談するといていた。
最初の曜、信夫は弁当を自分で詰めた。卵焼きはし焦げたが、梅干しを入れる所も決めた。子は朝をとりながら「今は夕方、青柳さんの任の方と打ちわせがあるの」と言った。信夫は「遅くなるんか」
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と尋ね、子が「までには」と答えると、「ほな、夕飯は俺がつくる」と言った。声に威張ったところはなかった。
そのの教には、しいが来た。子はまず靴の選び方を説し、球のさを確かめた。の女性が「先は昔からボウリングがやったんですか」と尋ねた。子は笑った。「いいえ。今も失敗しますよ」。以の優勝の話をせがまれ、やっとあののことを話した。最の投が倒れた、自分でも信じられなかったこと。へ帰って夫とけんかになり、しばらく別ので暮らしたこと。聞いていた女性たちは驚いたが、子はそれ以詳しくは語らなかった。
練習が始まり、子はしく来たの隣にった。最初の球は溝へ落ちた。女性は赤くなり、「私、向いてへんのかもしれません」と言った。子は「私も最初はよう落としたんです」と答え、の位置を緒に確かめた。投目は本倒れた。たった本だったが、女性は声をげて笑った。子もわずをたたいた。
閉、会の棚には優勝トロフィーが置かれていた。の表面にかりが映り、隣には京子がいた会費の箱と、たみが描いた当番表が並んでいる。子はトロフィーだけを持ちげてみた。優勝した夜には、これつあれば自分が何か変われるような気がしていた。
しかし変わったのは、飾りをにしたからではなかった。
子はトロフィーを棚へ戻し、最のレーンを見にった。そこでは初枝が、次の週に来られないの代わりにしい参加者へ投げ方を説していた。もう自分が声をかけなくても、教は静かにいている。
「先、最に球だけ投げませんか」
初枝が言った。子は靴紐を結び直し、球を持った。いつもの助。肩の力を抜き、をへす。球はまっすぐんだが、最にわずかに曲がり、本のピンを倒した。番の本だけが残った。
「惜しい!」
子は笑った。「そうやね。次があるからええわ」。い本を見つめながら、ゆっくり球の戻るところへ歩いていった。
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※本作は昭46のボウリングブームを背景にした創作説です。登物・団体・来事は架空のものです。
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