"拾った財布で泥棒扱い――5万円の濡れ衣と反撃" 第4話
机のの片と反転の兆し
「体何なのよ、もったいぶって!」
黒田美保はいらちを隠そうともせず、乱暴なつきで封筒のフラップをけた。
執務の線が、黒田の指先へと注がれる。から現れたのは、幣ではなく、つ折りにされた枚のい青の圧複写だった。
黒田は審そうに眉を寄せ、そのをパッと広げた。
最部に太いゴシック体で印字された文字。
『都メディカル本社ビル管理 拾得物受領および引渡証(控)』
その瞬、黒田の目が点になった。
用には、几帳面な楷で全ての事実が克に刻まれていた。
受付管理番号:No. 0520-0815。 拾得:()午分。 拾得所:階エントランス側ベンチ。 拾得者:管理本部経理支援課 森田咲。 会:第ビルマネジメント株式会社 警備員・桜井直。 引渡:()午分。 引渡所:階来客用受付カウンター。 受領者:業務管理課 黒田美保。
そして、備考欄の太枠のには、赤字でこう記されていた。
『特記事項:拾得、財布の閉および内容物の確認なし。引渡、受領者(黒田美保)による観確認のみ実施。内容物(現・カード類)の現物確認は受領者の申しにより省略。受領者自サイン受領済み』
その最段、受領者署名欄には、先ほど黒田自が乱暴にき殴った『黒田美保』という紛れもない自のサインが、青いインクでくっきりと残されていた。
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「こ……これ……」
黒田の喉から、掠れた声が漏れた。にした複写が、微かに震え始める。
咲は背筋をピンと伸ばしたまま、執務の全員に届く凛とした瞭な声で告げた。
「ビル管理規定第条に基づき作成された、正式な引渡記録の拾得者控えです。会である桜井さんの署名と、ビル管理の公印も押印されています」
「な、何よこれ……いつのにこんなもの……」
「私は財布を拾った瞬から、第者である桜井さんに預けました。私で財布を持ち歩いたは秒もありません。そして受付であなたに引き渡す際、桜井さんは『をご確認ください』と促しました。しかし、あなたご自が『違いありません』とだけ言って、内容物の点検を拒否し、この受領にサインをされたのです」
黒田の顔から、急速に血の気が引いていくのが見て取れた。
「そ、それがどうしたっていうのよ! サインしたって、おが消えた事実は変わらないじゃない!」
「いいえ、変わります」
咲は歩も引かず、黒田の瞳を射抜くように見つめ返した。
「あなたが今、社員全員ので仰った『森田さんがでを抜いた』という主張は、この公な受領記録と真っ向から矛盾します。私には、財布をける会ももしませんでした」
「ぐっ……」
「もちろん、この類だけで、最初から万円が入っていなかったと証できるわけではありません。
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だからこそ——」
咲は机のの黒い内線話の受話器を迷いなく持ちげた。縮ボタンを押し、桁の内線番号をプッシュする。
プルルル、と回鳴った、く落ち着いた声がスピーカーから漏れた。
『はい、事総務部コンプライアンス推、岡部です』
執務の空気が、さらに段階張り詰めた。
咲は受話器をしっかりとに当て、全員に聞こえる澄んだ声で告げた。
「経理支援課の森田です。業務管理課の黒田主任より、私が拾得した私物財布から現万円を窃盗したとの名指しの告発を受けております。すでにビル管理の正式な受取記録がしておりますので、会社としてコンプライアンス規程に基づく正式な事実調査を請いたします」
「ちょ……ちょっと、森田さん!?」
黒田が慌ててを伸ばし、受話器を奪おうとした。だが、咲は徹にそのをかわした。
「はい、岡部さん。当事者双方の聞き取り、および階ロビーと階エレベーターの防犯カメラ映像の保全をお願いいたします。失礼いたします」
カチャリと受話器が置かれた。
黒田の顔は、先ほどのりの赤から転して、屈辱と激しい揺の気へと変わっていた。
勢ので方に咲を断罪し、泣き寝入りさせようとした目論見が、わずか枚の複写用と、迅速な事部への通報によって完全に砕されたのだ。
「こ、悔するわよ……! 森田さん、絶対に許さないから!」
黒田は捨て台を吐き捨てると、奪い取った財布と類を胸に抱え込み、逃げるように経理支援課をびしていった。
バタン、とドアが閉まり、静寂が戻る。
咲は誰の顔を見ることもなく、静かに自席の子へと腰をろした。
指先はえ切っていた。臓は肋骨を内側から激しく叩いていた。しかし、咲は決して俯かなかった。
勝負はまだ始まったばかりだ。
この騒の裏に、黒田がどうしても隠さなければならなかった「別の巨な」が潜んでいることを、咲はこの、まだ正確にはる由もなかった。
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