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"拾った財布で泥棒扱い――5万円の濡れ衣と反撃" 第9話

夕暮れの湯

懲戒処分がされた翌週、黒田美保の姿はオフィスから消えていた。職期がけたとしても、会社に戻ってくる居所などどこにも残されていないことは、誰の目にもらかだった。夫にも正と横領の事実がれ渡り、庭内でも婚協議がんでいるという噂が、の便りに聞こえてきた。

咲は元の席に戻り、再びのような請求と支払申請のに向きっていた。

指先を滑らかにかし、卓を叩く。カタ、カタ、カタという規則正しい打鍵音が、常の平穏を取り戻した執務によく響く。

「森田さん……」

午過ぎ、類を揃えていた咲のデスクのに、気まずそうな表を浮かべた女性社員がった。あの曜の朝、黒田の叫び声に同調し、湯で咲から逃げるようにっていった同僚の真由美だった。

「森田さん、し……いいですか」

「はい、何でしょうか」

咲がペンを置いて顔をげると、真由美は泣きしそうな顔でくをげた。

「本当に……本当にごめんなさい! 私、黒田主任の勢いに圧倒されて、ちゃんと確かめもしないで森田さんのことを疑ってしまって……あんな酷い態度を取って、本当に申し訳ありませんでした!」

絞りすような謝罪の言葉。

咲はしばらくの、静かに真由美の頂部を見つめていた。

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「顔をげてください、さん」

真由美がおずおずと顔をげる。その瞳には、悔の涙が滲んでいた。

「謝ってくださったお気持ちは、きちんと受け取ります。ありがとうございます」

「じゃあ……許して、いただけますか?」

すがるような真由美の問いかけに、咲は易に微笑むことはしなかった。穏やかに、しかし嘘偽りのない誠実さをもって言葉を紡いだ。

「許すとか許さないとか、そういう問題ではないとっています。ただ、あの数、私がどれほど孤独で、どれほど息が苦しかったか……それは、謝罪の言葉つで綺麗さっぱり消えるものではありません」

真由美がハッと息を呑み、唇を噛み締めた。

「でもね、さん。私はあなたを責めたいわけじゃないんです。は誰でも、い声に流されそうになるし、自分が標になるのが怖いき物ですから。……ただ、次に誰かが同じように理尽な状況にたされた、そのはどうか、空気ではなく『事実』を見てあげてください。それだけで分です」

真由美の目から、粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

「はい……はい! 絶対に忘れません……!」

真由美は何度もをげながら、自席へと戻っていった。

午半。定のチャイムが鳴り響いた。

咲はパソコンをシャットダウンし、机のを綺麗に頓した。引きしの奥から、あの青い複写用——ビル管理の受領の控えを取りす。

あの朝、この枚のを机のに置いた、全員の顔が変わった。それは魔法のカードなどではなかった。ただ、や悪の濁流に対抗するために、自らが愚直に積みねてきた「誠実な記録」という名の唯の盾だったのだ。

咲はそのを、丁寧に帳のポケットへとしまい直した。

会社をると、初の夕暮れのがを優しく包み込んでいた。

駅までののりを歩く咲の取りは、以よりもずっと力く、を踏みしめていた。理尽な悪に晒され、傷つき、凍りついた。しかし、逃げずに事実を武器にしてち向かった経験は、咲を以よりも遥かに靭なに鍛えげていた。

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