"磨かなかった靴" 第6話
自分の歳を取り戻す
確認欄にかれていたのは、篠田商会の番・田切の名だった。健太は篠田の靴がに浮かんだ。あの靴を磨かなかっただけで仕事がなくなったとっていたが、自分の齢まで勝にき換えられていたことの方が恐ろしかった。もし常夫が黙って仕事へっていたら、誰も本当のを尋ねなかったのだろうか。
片桐は、類枚ですぐに連れされるわけではないと説した。「あなたが嫌だと言っていること、齢が違うことは、こちらから伝えます。ただし、本が働きたいと申告した記録がある以、どういう話をされたか確かめないといけません」。信吉は「子どもが飯をうために働きたいと言うことと、くへ連れてってよいことは違いますよね」と尋ねた。片桐はうなずいた。「そこをつずつ分けて考えましょう」
まれを示す類は元になかった。焼けたの跡に戸籍の控えは残っておらず、健太のをる者も兄以はほとんどいない。お志乃は、健太が炭へ来たの話をしてくれた。さい頃の傷痕や、最に通った学の名まで聞かれた。健太は自分の齢を証するために、失ったのことをつずついさなければならなかった。
昼、信吉はたちを連れて復興へった。
広告
組の世話役をしている米川は、さな青果を営む壮の男だった。塚本から話は聞いていると言い、通脇の空き区画を見せた。「商売をさせるには、誰が責任を持つか決めないと困る。客と揉めたら誰が謝る。を怪させたら誰が弁償する」。信吉は「俺が」と答えたが、米川は「おもまだだろ」と笑った。
お志乃は条件を聞いてくれた。の掃除を引き受けること、客の通を塞がないこと、支払いは仕事ができたにしずつ積みてること。さらに、品物を買う費用は自分たちで用する。信吉は計算を始めたが、いつもの駅より客はない。常夫は「それでも追い払われない方がいい」と言った。健太も同じだった。彼らに必なのは、今の売りげだけではなかった。
夕方、利夫が健太を呼んだ。で川沿いを歩くと、利夫はようやく昔の話を始めた。、寺岡の紹介で千葉の作業へった、そこには故郷も歳も違うがほどいた。俊は者ので、怪をした宗男を病院へ連れてった。その、現へ戻るには雇い主に許をもらう必があったが、俊は勝にた。戻ると具がりなくなったと責められ、代を払うよう迫られた。
「俊さん、棒じゃなかったよ」。利夫は言いかけて、言い直した。「なくとも俺は、盗んだところなんか見てない」
広告
。そのあと何があったかと健太が問うと、利夫は「寺岡から、働いた分の賃を渡さないと言われた。逃げても追いかけると言われたんだ」と答えた。彼らは賃がいくら貯まっているかもらなかった。俊は帳面を見せるよう求め、代わりに作業の箱を運ぶ仕事を引き受けた。
健太は、兄の靴が篠田のに渡った理由をし理解した。靴を預けたのはの代わりだったのかもしれない。だが靴で、皆の借りを帳消しにできるとはえなかった。「俺、兄ちゃんが何をしたのか確かめたい。悪いことも含めて」。利夫はさくうなずいた。「それなら俺も緒にく」
帰ると、常夫が切れを持って待っていた。『佐伯健太 歳』『川常夫 歳』。字のな宗男に頼んでいてもらったという。「忘れられないように、胸に入れとけ」。健太は笑いかけて、わず涙がた。自分の歳をにいただけなのに、何も持っていなかった自分が、しだけ取り戻された気がした。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
妹の手術前に「家族やめれば?」――私はドナーを辞退した
幼い頃から父と継母に冷遇され、妹・直美の引き立て役として育った広美。家を出て新体操の夢を追っていた彼女は、重い肺の病気を患う妹を救うため、生体肺移植のドナー候補になることを決意する。 ところが手術前の食事会で、広美の席だけが用意されていなかった。 「なんで来たの? 家族やめれば?」 妹の冷酷な一言をきっかけに、広美は臓器提供を辞退する。さらに病院で見つかったのは、身に覚えのない署名がされた同意書だった。 家族の裏切りと隠された不正に向き合い、広美は自分の人生と夢を取り戻せるのか。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係2.9万字5 438 -
完結第13話
杉原千畝の査証を得た一家、母だけが出国できない
一九四〇年、リトアニア。故郷ポーランドを追われた十六歳のミラは、両親と弟とともに、杉原千畝が発給した日本の通過査証を手にする。しかし、それは長い逃避行の始まりにすぎなかった。 足りない旅費、次々と求められる書類、そして母の名前に生じた一文字の食い違い。ようやく出国の道が見えた時、許可されたのは家族四人のうち三人だけだった。 母を残して出発するのか、それとも全員で待つのか。見知らぬ人々の小さな善意に支えられながら、一家は生き延びるための道を探していく。 杉原千畝の「命のビザ」の史実を背景に描く、家族と希望の物語。時代|歴史|昭和2.7万字5 0 -
完結第13話
昭和21年、米を没収された母が引き返した理由
昭和21年秋、食糧難の大阪。三人の子どもを育てる森川澄子は、大切な着物と引き換えに手に入れた二升の米を、買い出し列車で警察に取り上げられてしまう。途方に暮れる母へ、十歳の息子が告げたのは、米袋の中に隠された小さな鉄の箱の存在だった。次の駅で引き返し、警察に事情を話した澄子。しかし、その箱に刻まれた三本の稲穂の印は、母子寮から消えた救援物資と、夫が隠していた仕事の秘密へとつながっていく。家族の生活さえ脅かされる中、一人の母親がたどり着く真実とは――。時代|歴史|昭和|真相2.7万字5 44 -
完結第20話
夫の愛人を家に招いた義母、3日後の悲鳴
外資系製薬会社で働く藤堂桜は、夫の赤字会社と義母の贅沢な暮らしを、長年自分の収入で支えてきた。 ある日、予定より早く帰宅すると、義母が夫の愛人を自宅に招き、高級料理やワインでもてなしていた。しかも愛人の腕には、桜が夫に贈った高級時計が。 「妻の座を譲って出ていきなさい!」 そう言い放つ義母に、桜は一言も反論せず、荷物をまとめて家を出た。 しかし、彼女たちは知らなかった。豪華なタワーマンションも、贅沢な生活も、すべて桜の資金によって支えられていたことを。静かに始まった反撃が、家族の運命を大きく変えていく。人生逆転|怒り|兄弟姉妹|嫁姑|不倫2.7万字5 828 -
完結第20話
昭和46年、優勝した妻に夫が告げた「帰るな」
昭和46年、大阪。48歳の主婦・榎本春子は、町内のボウリング大会で男性たちを抑え、見事優勝を果たした。しかし夫・信夫から返ってきたのは祝福ではなく、「そんなに好きなら、もう家には帰るな」という冷たい言葉だった。 小さな鞄を手に家を出た春子は、同じように自分の時間を持てなかった女性たちのため、ボウリング教室を始めようとする。 ところが、会場の予約に夫の会社が割り込み、申込書には身に覚えのない「本人了承済み」の文字が。 妻として、母として生きてきた春子が、初めて自分の人生を選び直す。昭和のボウリングブームを背景に描く、再出発の物語。時代|歴史|昭和2.8万字5 168