"磨かなかった靴" 第8話
負傷届の裏
片桐は、作業の事務類をすべて見られるわけではないと置きした。の、若い働きが怪をしたため、労働に関する相談が寄せられた記録だけが残っていた。宗男の腕の怪は、量物を運ぶ際に起きたらしい。相談をしたの名には、佐伯俊とある。の端にりきされた文字は、健太のる兄の字だった。
「これ、持って帰れますか」。健太が聞くと、片桐は「写していい。ただし原本はここに置く」と答えた。信吉が鉛を借り、をつずつ写した。そこには宗男の怪だけでなく、賃から何を差し引いたか説されないという訴えもあった。さらに『齢申告に疑義あり』と記され、に分の名が並んでいた。そのに利夫の名がある。
利夫はを見て、しばらくかなかった。「俊さん、ここまでやってたんだ」。たちが宿舎で平を言っていたころ、兄は町へて相談する方法を探していたのだ。だが職へ戻らずに姿を消した理由は分からない。寺岡は「具を盗んだ」と言い、宗男は「盗んでいない」と信じている。どちらにも決定な証拠はなかった。
相談所をたは、宗男の働くへ向かった。昼休み、宗男は裏でたい芋をべていた。健太が負傷届のことを話すと、宗男は黙って傷のある腕を撫でた。
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「俺、自分が怪したのこと、よく覚えてない。痛くて、誰かが声で鳴ってて。俊さんが『休ませろ』って言ってたのだけは聞いた」。から逃げたも、ときどき眠れない夜があるという。
「兄ちゃんが盗んだっていう具は何だ」。健太の問いに、宗男は「測る具と、古い具が何本か」と答えた。利夫は顔をげた。「俺、そのの朝、別の荷へ載せたところを見たかもしれない」。健太が詰め寄ろうとすると、利夫はを振った。「見たと言い切れない。荷札を運んだのは俺だし、番号が同じだったかも覚えてない」。曖昧な記憶を証拠にしてよいのか、は途方に暮れた。
夕方、信吉が働く所で待っていた。彼はたちがまた調べ物にたことを責めず、の売りげを見せた。鞄の修理が件、靴磨きが件。初に比べれば良くなったが、への積と靴墨を買えば、べ物に回せる銭はくない。「、俺は仕事を探す。おらだけでを回してくれ」。利夫はうなずき、健太は「ありがとう」と言った。
翌朝、信吉は荷運びの雇い仕事へた。健太はで靴の踵を直しながら、兄のことばかり考えていた。兄が盗みをしていなかったとしても、何かの責任を負わされたのなら戻りにくかっただろう。自分だったらどうするか。に疑われ、言い返しても聞いてもらえなければ、別の町へ逃げるかもしれない。
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でも兄は健太を探すと言ってくれたことがあった。その約束まで捨てるではないといたかった。
夕暮れく、へ子どもを連れた女性がやって来た。古い制のような着を着て、片だけ靴底がすり減っている。「靴の修理をお願いしたいの」。健太が寸法を測ると、彼女は作業の元をじっと見つめた。「その針の持ち方、誰に教わったの」。健太が兄の名をすと、女性は驚き、腰をろした。「佐伯さんの弟さんなのね」。
女性は藤野静と名乗り、町のさな靴修理で働いていた。の、を怪した青がへ来て、で縫う練習をしていたことがあるという。名は俊だった。「どこにったんですか」。健太がを乗りすと、静はためらった。「教えられるのは、最にっている所だけ。今もそこにいるかは分からない」。彼女が示したのは、京ののれにある療養所にい町だった。
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