"磨かなかった靴" 第9話
円のゆくえ
俊のき先が分かりかけた夜、信吉がを入れていた布包みが消えた。で働いた分の積と、靴墨を買うために残していた円ほどだった。額はにはしたことがないかもしれない。しかしたちにとっては、事を切り詰めてようやく残しただった。信吉は誰かを責めるに、皆の持ち物と部の隅を探した。
常夫は泣きそうになり、「俺じゃない」と繰り返した。利夫は黙って袖をまくり、自分の財布を見せた。健太が「から誰か入ったかもしれない」と言うと、信吉は首を振った。「お志乃さんのには鍵がある。夕べから俺たち以は来てない」。疑う相が仲しかいないということが、いちばん苦しかった。
その、常夫が「ごめんなさい」と言った。皆が振り返ると、は首を振った。「盗ったんじゃない。でも、昨の夕方、利夫が包みを持ってていくのを見た」。利夫の顔が変わった。しばらくして、彼は布包みをに置いた。には円しか残っていなかった。「妹に送った」。誰も何も言えなかった。
利夫には、郊の親戚に預けられている歳の妹がいた。何度かをもらい、体がいと聞いていたが、仲には事を詳しく話していなかった。、親戚から急ぎのらせが届いた。薬代がりず、しでもを送ってほしいという。
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「借りると言ったら、皆、断れなかっただろ。だから黙って使った」。利夫はうつむいていた。「返す。絶対に返す」
「そういう話じゃねえよ」。信吉がい声で言った。「おの妹が困ってるなら、皆で考えた。でも俺たちはどうやって仕事をするんだ」。利夫は「俺が雇いへる」と答えた。しかし、その雇い先を紹介するのが寺岡の仲であれば、また同じことになる。健太はをきかけて閉じた。自分が兄を捜すために旅費を使うと言ったら、皆がどううだろう。
お志乃は話を聞き、利夫を部のへ連れした。しばらくして戻ると、まず信吉に言った。「盗ったことは盗ったことだ。返し方を決めなきゃいけない。でも、腹を空かせた子どもを罰して働けなくしたら、返すもなくなる」。彼女はで使わなくなった針と布を貸してくれた。から靴磨きに加えて修繕を増やし、利夫の取り分からしずつ返すことになった。
健太は利夫の隣へ座った。「俺も、兄ちゃんの所へくがる」。利夫は笑わなかった。「お、俺みたいに黙って持ちすなよ」。は顔を見わせ、ようやくしだけ笑った。だが信吉は笑わない。積がなくなれば、の約束を守れなくなるかもしれない。米川に正直に話すしかなかった。
翌朝、米川はたちの話を最まで聞いた。
「がりないのは困る。でも、だからといってをすぐ閉めさせたら、返せるものも返せなくなるな」。彼は週の猶予をくれ、その代わり毎の売りげを簡単な表にくよう求めた。健太たちはそのから、磨いた靴の数、直した袋の数、使った靴墨まで記録することにした。
夜、健太は静の教えた所をに写した。旅費を貯めてから兄を訪ねる。そう決めた、宗男が急いで炭へ来た。「篠田がを探してる。俊さんのことを聞いて回る子がいるって」。健太はを折って胸に入れた。旅費を貯めるがあるのか、それさえ分からなくなった。
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