"磨かなかった靴" 第11話
言えなかった
寺岡がてくるまで、相談所の待にはい沈黙が流れていた。健太と利夫のほかに、信吉と宗男も来ていた。片桐はを別々に話す部へ案内し、「同じ来事でも覚え方は違います。ほかのの話にわせなくて丈夫」と説した。健太は、自分の気持ちではなく、見たことと聞いたことを分けて言うよう努めた。
寺岡は相変わらずよく喋った。「戦争で親を失った子に飯をわせて、仕事を教えてきた。何もせずに駅をうろつかせるより余程ましでしょう」。片桐はすぐに反論せず、「齢を確認した方法を教えてください」と尋ねた。寺岡は「本の申告です」と答えた。信吉が持参したを示すと、歳の常夫がと言うよう指示された件については、「そういう言い方をした覚えはない」と否定した。
問題になった署名を見せられると、寺岡は黙った。佐伯俊をっているかと改めて問われ、ようやく「若いにうちの仕事を伝ったことはある」と認めた。「健太君の保証をしたと聞いたのは誰からですか」。寺岡は線を田切へ向けた。呼ばれていた番は「寺岡さんの紹介でしたから、確認したものだと」と言う。の言葉はったり来たりした。誰も兄に会ったとは言わない。
利夫は自分が昔、齢をき直したことを話した。
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最初は声がさかったが、宗男が黙って隣に座っているのを見ると、最まで言えた。「字の読めない子の代わりに名をいた。は、寺岡さんに言われた数字をいた。自分が何をいているか分かっていたも、分かっていなかったもあります」。寺岡は「それならおも同じ責任だ」とを挟んだ。利夫は顔をげた。「そうです。だから、今ここで話してるんです」
片桐は利夫を責めるのではなく、どんな類にいたかを確認した。宗男は仕事で怪をした経緯を話し、料を受け取った記憶と帳面にかれた額が違うことを述べた。健太は兄の跡を説したうえで、問題の署名は本の字と違うとう、とだけ言った。断定できない部分は、断定しなかった。
話しいが終わると、寺岡は廊で健太を見つけた。「兄貴を探したい気持ちは分かるよ。だが、親もいない子に仕事をさせるのは悪いことばかりじゃない」。健太は黙って聞いた。「俺だって戦争で商売を失った。誰もわせちゃくれない。皆、何かをしなきゃならん」。健太は答えた。「仕事があるのはありがたいです。でも、と名を勝に変えられたら、俺がどこへくか俺には分からなくなります」。寺岡は初めて返す言葉を探しているようだった。
帰り際、片桐は今の調査にはがかかると告げた。
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「分かったことは連絡します。ただし、未払いの賃がすぐに戻るとは約束できません」。健太たちはその説を聞き、し肩を落とした。今、を閉めて来た。稼ぎはなかった。それでも、勝にが決めていたき先へ、なくとも今週に送られることはないと分かった。
へ戻ると、米川が掃除具を片づけていた。健太は「今は休んですみません」と謝った。米川は「から働けばいい」と言い、のに置いた箱を指さした。客から預かった鞄がつ、修理を待っている。「留守番を頼んだがいるから受け取れた。礼はそのに言いな」。隣の青果の女将が笑ってを振った。健太はをげた。たちだけでは守れない所を、がしずつ支えてくれていることを実した。
その夜、利夫は相談所で話さなかったことをつだけ打ちけた。、俊が怪をしたの夕方、利夫は作業の具箱を裏まで運んだ。寺岡に言われたからだ。箱を誰が持ちったかは見ていない。しかし翌朝、具がなくなったと騒ぎになった、利夫は自分が運んだことを言わなかった。「俊さんが盗んだって言われたのを聞いても、黙ってた」。利夫の声は掠れていた。健太はるに、い沈黙を緒に抱えるしかなかった。
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