"磨かなかった靴" 第14話
兄の
靴修理の奥に茶が運ばれてきても、健太はなかなか湯みへを伸ばせなかった。俊は向かいに座り、を膝のへ置いていた。薬指と指のきが鈍く、物をく握れないという。の甲には古い傷がっていた。健太はそこから目をせず、やがて「痛かっただろ」と聞いた。俊はし笑って「今は丈夫だ」と答えた。
最初に謝ったのは兄だった。「駅で待てと言ったのに、戻れなかった」。健太はを振った。「俺も、柱からいちまった」。俊は「おが悪いんじゃない」と言ったが、健太は同じ言葉を返したくなかった。のに、自分たちが別れた理由はいくつも変わって見えた。兄が約束を破った、駅の波に押された、自分がさすぎた。今は、誰かのせいでなくても、が変わってしまうことをしっている。
「、どうしたんだ」。健太がもう度聞くと、俊は今度は隠さなかった。千葉の作業で宗男が怪をし、危ない所を直すよう求めたが、仕事は続いた。ある、い具箱をかすにを挟み、指を傷めた。そのに、職から具がなくなったことで責められ、逃げすつもりで持ち物をまとめていたという。「だから、俺が盗んだとわれても仕方ない状況だった」。俊は淡々と話した。
「盗んだのか」。健太は恐る恐る聞いた。
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俊は「になるような物は持ってない」と答えた。「でも、具箱をつ、勝に倉庫のへしたことはある。危ない使い方をされていたものを止めたかった。仕事を止めろと何度言っても聞いてもらえなかったから」。利夫は顔をげた。俊が移した箱と、寺岡が失くしたと言った箱は同じかもしれない。
「それなら、なぜ自分で言わなかったんだ」。利夫の声が震えた。俊は目を伏せた。「言ったよ。だが誰も、危ないからかしたという話を聞かなかった。箱をしたのは事実だから、その責任は俺にある」。怪をして働けなくなった俊は、病院へ運ばれたあと作業へ戻らず、別の町で活を始めた。契約や賃の問題は片づいていない。相談所へ渡そうとした控えも、途で失ったという。
健太はい切って尋ねた。「俺を捜さなかったのか」。俊は首を振った。「何度も捜した。駅にもった。けどおがどこで寝てるか分からなかった。、利夫に伝言を頼んだのは、駅で危ない仕事に誘われる子がいと聞いたからだ」。健太は「それでも、もっと捜してほしかった」と言った。俊は言い訳をしなかった。「そうだな。俺は会って、今まで何をしていたと聞かれるのが怖かった。ちゃんとわせられる仕事も、部もなかった」
い沈黙のあと、健太は泣いた。
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兄がきていた嬉しさと、会いに来なかった寂しさは、緒になって消えてくれない。俊はを伸ばしたが、触れてよいのか迷ったようだった。健太は自分からそのをつかんだ。兄のは、昔より固くなっていた。く握り返されると、健太は子どものように声をげて泣いた。
夜、はの老が貸してくれた部で話した。での活、利夫が持ちした、常夫が勝にを変えられたこと。俊は驚き、「俺の名が使われたのか」と繰り返した。健太は写しを見せた。俊は即座に「これは俺の字じゃない」と言った。「発の続きなんてらない。健太をそんな所へかせるつもりもない」。彼の声には珍しくりがあった。
俊は翌朝、緒に京へ戻ると言った。主の老は「仕事の予定は俺が調する」と言い、簡単な旅費を貸すと申した。俊は断りかけたが、老は「借りたならで返せ。ここへ戻って来られるよう、きちんと話をつけてこい」と言った。健太はそのやり取りを聞いてした。兄が自分を選んだからといって、働く所まで失ってほしくはなかった。
翌朝、発に俊が健太の靴を見た。「その底、自分で直したのか」。健太がうなずくと、兄は縫い目を眺めて笑った。「昔よりいな。でも針目が急ぎすぎだ」。健太も笑った。
兄に言われるまで、針目の癖が昔と同じだと気づかなかった。別々にきてきたが、針のさなきのでようやくつながった。
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