"磨かなかった靴" 第16話
倉庫の帳面
倉庫の奥には古い事務机があり、引きしに紐で綴じた帳面が並んでいた。田切は冊ずつ机へ運んだが、探しているのものだけが見当たらない。篠田は苛って棚を叩き、「荷物との入りを商売の根幹だと、俺は何度も言ったはずだ」と叱った。田切は「寺岡さんへ貸していた控えがあります」と答えた。結局そのでは確かめられず、俊たちは連絡を待つことになった。
へ帰ると、信吉がを片づけていた。俊が来たことを聞き、皆が順番に自己紹介した。常夫は健太の顔と兄の顔を何度も見比べ、「目が似てる」と言って笑った。俊は照れたようにをかき、古い修理箱をのぞいた。「こいつは入れがいい」。信吉は「全部、健太がやった」と言いかけ、「いや、皆でやった」と言い直した。
俊はその夜、炭の空き部にも来てくれた。が並んで眠る狭さを見て、し黙った。「健太、ここで暮らしたのか」。健太はうなずいた。「寒いもあるけど、お志乃さんが漏りの所を直してくれた」。俊はをげ、「ありがとうございました」とお志乃に言った。お志乃はを振った。「礼なんかいいよ。あたしだって、来ることしかしてないんだ」
翌、相談所に篠田から記録の控えが届いた。寺岡へ支払われた費用には、確かに俊の治療代と宿泊費が含まれていた。
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だが、実際の病院の請求額と、篠田から寺岡へ渡された額が致しない。さらに作業で使われるはずの具の費用まで、緒に計されていた。片桐は「この差額は何のためだったのか、関係者へ確認します」と告げた。
健太はので額を並べようとした。兄の靴がいくらになったのか、誰が病院へ払い、誰が帳面をいたのか。数字は細かく、途で何度も分からなくなる。信吉はノートをき、線を引いて示した。「ここは篠田が払った。ここは寺岡が病院へ払った。差がある」。常夫が「その残りは誰の物?」と聞くと、誰も答えられなかった。分からないままにしておけば、また同じことが起こる。そのことだけは、皆理解した。
夕方、寺岡がへ来た。騒ぎを起こすつもりかと聞かれ、信吉は米川を呼んだ。のいる所なら落ち着いて話せるかもしれない。寺岡は「昔の替をいつまでも言われちゃ商売にならない」と憤ったが、俊は「治療代が払われたことは謝しています。ですが、本が働いた賃を勝にそこへ充てたなら、別の話です」と答えた。
寺岡は「若い者の飯を誰がわせてきたとう」と言った。俊は静かに答えた。「だからこそ、事代なら事代といてほしかった。働いたまで消してよい理由にはなりません」。米川は腕を組み、「それなら公の所で話をつけろ。
ここは商売をする所だ」と言った。寺岡はそれ以何も言わず帰ったが、り際に健太を振り返った。「兄貴が見つかったんなら、もういいじゃないか」。健太は「見つかったから、良くないことが分かったんです」と答えた。
夜、俊は炭の軒で靴の底を直していた。健太がそばに座ると、「商売は怖いな」と呟いた。健太は「兄ちゃんも商売をしてるだろ」と言った。俊は笑った。「そうだ。だからのことを曖昧にしちゃいけないんだ」。健太はノートへ、働いた数と修理の数をくことを続けようと決めた。きれいに磨くことと同じくらい、稼ぎがどうくかをることが自分たちを守るのだとった。
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