"杉原千畝の査証を得た一家、母だけが出国できない" 第3話
駅のさな声
パヴェウは夕方になって、駅くの荷物置きで見つかった。
駅員ではなく、荷を引く老が声を掛けてくれたのだという。は、シベリアへ向かう列の発刻を自分の目で確かめたかったらしい。誰かが宿で「、列がる」と話していたのを聞き、自分たちの乗る列だとったのだった。
エヴァは弟を抱きしめたあと、頬を叩きそうになってを止めた。
「度とでかないで」
「でも、姉さんはいつもばかり見ている。僕らがいつられるか、誰も教えてくれない」
の言葉に、皆が黙った。には、子どもへ説できないことがすぎた。分からないことを分からないと言えば、子どもがになる。させるために嘘をつけば、になってもっとく傷つける。
アロンはパヴェウの隣にしゃがんだ。
「私も発はらない。だけど、君がで駅へっても列はくならない。、私と緒に刻表を見にこう」
パヴェウはさく頷いた。その約束が守れるかどうか、アロンにもまだ分からなかった。
週の終わり、宿に来た男から、ソ連を通ってへくには列運賃にきなが必だと聞いた。男は計算に慣れていて、何分ならいくら、子どもならどうなる、とのへ数字を並べた。アロンは最まで聞いたあと、額を度き直した。
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「これでは、分にはならない」
「皆、何かを売っている」と男は言った。「故郷に親戚がいるなら、送を頼んでみることだね」
「送れるかどうかも分からないのに」
「分からなくても、頼まなければ届かない」
男がった、父はい、窓のを見ていた。ミラは父の背を眺めながら、助けを頼むことにも勇気がいるのだと初めてった。父はこれまで、の壊した計を直して暮らしていた。困っている客のから計を受け取る側だった。それが今では、誰に何を頼めばよいのかも分からない。
母は父に言った。
「昔、クラクフにいた叔父さんの友は?」
「消息が分からない」
「アメリカへ渡ったお姉さんのりいは?」
「が届くのにどれだけ掛かる」
「それでもくのよ」
リヴカは便箋をした。は貴だったが、何もかなければ誰にも届かない。ミラが宛名を丁寧にき、父は事を記した。無理なお願いだと何度もきかけては消す。最には、今いる所と、必な額と、族がいることだけを残した。
「もしお返事をいただけるなら、それだけでありがたい」
父はそう結んだ。ミラには、その文が今まで父のいたどんな修理伝票よりも細く見えた。
同じ頃、根裏の台所ではエヴァと母が古いの補修を始めた。宿のほかの難民たちから、さな仕事を請け負うことになったのだ。
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裂けた袖、ほつれた裾、破れた子どもの靴。支払われるのは現ばかりではなかった。パン切れ、鹸の残り、には温かいスープ。母は受け取ったものを並べ、仕事の代価をきちんとき留めた。
「助けてもらったんじゃない」と母は言った。「働いた分を受け取ったの」
ミラは頷いた。母には母の誇りがあった。父には父の誇りがあり、それぞれが、族をへ運ぶための荷物になっていた。
ある午、ミラは縫い物を届けにく途、廊での男が争う声を聞いた。は宿の主だった。
「あと待ってくれ」
「何度も聞いた。部代が払えないなら、ほかのにけ渡してもらう」
言いっている相は、奥の部に暮らす老だった。奥さんをくし、でへ向かう準備をしていると聞いたことがある。
ミラはわずを止めた。主も悪ではなかった。けれど廊の壁枚向こうで、誰かが眠る所を失おうとしていた。
その夜、母は老の破れた着を直し、代はいらないと言った。老は頑固に断った。
「払えない物は頼めない」
「なら、今度ダヴィドに昔話を聞かせて。あの子は夜、怖がって眠れないから」
老はし考えてから頷いた。翌晩、ダヴィドとパヴェウは老の部で、のる町の話を聞いた。話の最にてくる鐘が鳴ると、とも笑った。
ミラはその笑い声を聞き、に乗って本へ渡っても、こんなふうにらないと緒に夕飯をべるのだろうかとった。
翌週、父の申請に対する返事が届いた。境の続きは続けられるが、追加の確認が必だという。父はを何度も読み返した。拒絶ではない。しかし承認でもない。
「なくとも、もう度ける」と母は言った。
「また並ぶだけかもしれない」
「並べるうちは、並ぶしかないでしょう」
父は苦く笑った。がこうして話す姿を見て、ミラはしだけした。のないにも、毎続けられる仕事がある。も起きて、名をき、列に並ぶことだ。
夜半、エヴァがミラを呼びに来た。パヴェウは眠っていたが、彼女は起こさないように扉を閉めた。
「あなた、字が読みやすいから、これを見てほしい」
彼女のには、境許を待つ々の名をまとめたきの控えがあった。支援団体に必な数を伝えるため、宿のたちで作っているものだという。
ミラはずつ指で追った。、子ども、病気の、旅券を持たない。名の横には、それぞれ違う事がくかれている。
最のまで読んだところで、ミラはペンを止めた。
エヴァとパヴェウの名が、別々の欄に記されていたのだ。エヴァには「続き」、パヴェウには「確認できず」
とある。
「これでは、弟さんだけ名簿から落ちるかもしれない」
エヴァは唇を噛んだ。
「だから頼んだの。類が枚もあるのに、どうして枚の控えに緒にけないの」
ミラは空のを広げた。し考えてから、弟のが異なる言葉でかれている理由を、順を追って説する文を作り始めた。問題を直せるかは分からない。それでも、違ったまま通すわけにはいかなかった。
窓のでが鳴った。ののつの名を戻すために、ミラは夜けまでき続けた。
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