"杉原千畝の査証を得た一家、母だけが出国できない" 第6話
誰の決断でもない
「今夜ですって?」
母の声は、驚くほど落ち着いていた。エヴァは頷き、紹介を受けた支援窓の所を教えた。列に席が残っているという報は、逃れようとするくの族にとって貴だった。断れば次がいつになるか分からない。申し込めば、母を残すことになる。
父は壁に掛けた套を取った。「とにかく、確認してくる」
「私もく」と母が言った。
「類の件なら私が話す」
「私の名のことよ。私が説するわ」
母はかけるに、ダヴィドの髪を櫛でえた。はただならぬ気配をじ取っていたが、何も尋ねなかった。ミラは弟をエヴァたちに預け、両親のを追った。
支援窓は混雑していた。続きに慣れた男が、申し込みの順番と必な条件を説している。々は慎にを傾けた。ここで聞き違えれば、のき先が変わりかねなかった。
父は分の類をし、母の分が保留になっていることを説した。男は丁寧に確認した、できることとできないことを分けて話した。今ある分の許を使って発を申し込むことはできる。しかし目の許がいつるかは、こちらでは約束できない。
「の席を確保して、母だけから流する方法はありますか」とミラが尋ねた。
「能性はある。しかし別々に移するのは簡単ではない。
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費用も続きも増える」
母はゆっくり頷いた。
帰り、父は言も話さなかった。母は先でパンを半分買い、つに分けてへ渡した。自分の分を取らないので、ミラが抗議すると、母はさく笑った。
「今は、べる気がしないだけ」
「そんなこと言って、また私たちに分けるつもりでしょう」
母は娘のにパンを押し戻した。「今夜は緒にべるわ」
宿へ戻ると、父は机に枚のを並べた。今の族の姿が、のでとに分かれている。
「こう」と母が言った。
父が顔をげた。
「あなたたちで」
「私はここに残る。許がりたらを追う。待つにの会まで失ってしまう方が怖い」
「それでは族ではない」と父が答えた。
母はし声をめた。「族だからこそ、そう言っているのよ」
ミラはのに座った。両親のどちらにも言い分がある。それが余計に苦しかった。正しさがつあって、どちらも選べない夜があるのだ。
「私が残る」とミラは言った。「母さんと緒に」
「そんなことはさせない」と父が即座に答える。
「どうして? 私はもう歳よ。字も読めるし、縫い物もできる」
「だからといって、だけにしていい理由にはならない」
「じゃあ、お父さんだってでく理由を説できないでしょう!」
声が部の隅に響いた。ダヴィドが扉のところでっていた。
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パヴェウが隣にいる。とも、の声を聞いて戻ってきたらしい。
「僕は、お母ちゃんとれないよ」とダヴィドが言った。
その言で話しいは止まった。誰かを置いてくという考えが、初めて歳の子どものからも拒まれたのだ。
翌、父は支援窓へ断りにった。担当者は残そうにしたが、説得はしなかった。「族の事は、あなたがたが決めることです」とだけ言った。
父は戻ってきて母へ報告した。「次の便は見送る」
母はく息を吐いた。「悔するかもしれないわよ」
「するかもしれない。でも、今はここで全員の許を待つ」
それからの々は楽ではなかった。部代を払うたびには減り、父が使える具はしずつ元からなくなった。エヴァが頼んだの補修を母とミラが引き受け、アロンは宿の壊れた置計やストーブの具を直した。修理代を全部現でもらえるわけではない。それでも父は、仕事がつ終わるたびに胸を張った。
ミラは苦しいほど、エヴァとパヴェウの部を訪ねた。自分たちだけが遅れているわけではないとりたかった。エヴァは弟の類を揃えるため、何度も別の町へを運んでいた。旅費はまだりない。けれど彼女は、しい連絡先をつ見つけたと笑った。
「希望がつ増えたというより、頼めるが増えたの」
ミラはその言い方が好きだった。希望という言葉はきすぎる。頼めるなら、顔があり、声がある。
も終わろうとする頃、母の類の確認がんだという連絡が来た。まだ正式な通ではなかったが、説のしていた点は解消したらしい。父はの初めにもう度向くと決めた。
が変わるの晩、宿ではさな集まりがかれた。誰かがに入れた砂糖をしずつ分け、エヴァが古い布で作った飾りを窓辺にげた。老が故郷のを静かにい、子どもたちが続けた。国も言葉も違うがいたが、その夜だけはの終わりが同じ所になった。
ミラは父の計があったはずの空のポケットを見つめた。をる具がなくても、しいは来る。だが自分たちがどこで次のを迎えるのかは、まだ決まっていない。
初め、父が母を連れて続きの結果を受け取りにった。ミラは宿で待っていた。正午を過ぎ、午になっても戻らない。ダヴィドは壁にをつけ、階段をる音を何度も数えた。
夕暮れにが帰ってきた。父は套を脱がず、机のへを広げた。ミラは息を止めて読んだ。
の名が、同じ覧に並んでいた。
母は娘の肩へを置いた。
「私もけるわ」
びの声をげようとしたダヴィドを、父が静かに抱きげた。
「ただし、まだ列の切符はない。これで終わりじゃないんだ」
ミラは笑った。「もう分かってる。類が枚増えるたび、次のが必になるのね」
父も笑った。久しぶりに、が同じことを考えて笑えた気がした。
その夜、エヴァかららせがあった。彼女とパヴェウの許は、まだていない。は窓際に座り、ミラたちの発準備を眺めた。
「あなたたちが先にくのは、良いことよ」とエヴァは言った。
ミラは何も答えられなかった。今度は、族のに残されるがいる。類のでの名が揃ったびは、別の部の暗さまで消してはくれなかった。
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