"杉原千畝の査証を得た一家、母だけが出国できない" 第7話
発ベルの向こう
分の境の類が揃っても、発のはすぐには決まらなかった。列の空席は限られ、へ向かう旅を望む々は宿のにも勢いた。父は支援者と相談し、必な費用の見積もりを何度もやり直した。旅費にりない分については、の紹介を通じて救援組織から補助を受ける見通しがった。
援助を受け取る、父は必ず記録を残した。いくら受け取って、何に使ったか。旅が終わったら返せるものがあれば返したいと考えたらしい。担当者は首を振った。
「今は、たどり着くことを考えてください」
父はその言葉に頷きながらも、帳面を閉じなかった。彼には、数字をいておくことしかできないがあった。
ミラたちは荷物をつにまとめた。母の鋏、父の具の包み、弟の、ミラの鉛。はね着し、毛布は紐で固く縛る。宿の主が廊に現れ、階段を壊さないように荷物を運べと注した。そので、袋をつ差しした。にはいパンが入っていた。
「支払いの残りだ」と主は言った。
「もう勘定は済みました」と母が答える。
「カーテンの直し賃をなく払いすぎたかもしれない。受け取ってくれ」
母は瞬、何か言いかけた。しかし袋を両で受け取ると、くをげた。
エヴァとパヴェウは、発する朝に駅まで来た。
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の続きにはなおが掛かっている。エヴァはさな包みをミラへ渡した。には、青い糸と縫い針が入っていた。
「お母さんの鋏と緒に持っていって。困ったとき、これで何か直せるでしょう」
「あなたが使う物じゃないの」
「針なら、ほかにもあるもの」
ミラは返事の代わりに、持ってきた鉛をエヴァへ差しした。半分ほどのさしか残っていない、学代からの鉛だった。
「類に名をくに使って」
「すぐくなるわね」
「くなったら、別の鉛を見つけて」
エヴァは笑った。ミラも笑った。い別れの言葉をにすると、そのまま本当の別れになってしまいそうで、はさな物の交換だけで済ませた。
パヴェウはダヴィドに、のうちつを渡した。く丸いだった。
「駅を忘れないで」と彼は言った。
「君も来るんでしょう」
「うん。いつかね」
には何も約束できない言葉が、子どもには自然に言えた。ミラはそれをしいとわなかった。今は「いつか」という言葉があるだけで分だった。
列はかった。々が荷物を押しげ、名を呼びい、窓際の席を確かめている。内には母国語だけでなく、いくつもの言葉がび交っていた。誰かが子どもの靴を踏み、誰かが子を拾い、また別のが余った布で窓の隙を塞いだ。
父は改めての類を確認した。
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名、付、印。母はずつ肩へを置いた。ミラは弟に、自分の袖を決してさないよう言った。
発がづいた、老が内に入ってきた。宿で昔話をしてくれただった。彼はまだ境できないと聞いていたので、ミラは驚いた。
「おじいさんも乗れるの?」
「私にも順番が回ってきた」
老は嬉しそうに笑った。それからすぐ真顔になり、鞄の紐を結び直した。「何度も確かめないと、これはじゃないかとうね」
汽笛が鳴った。窓の向こうでパヴェウがきくを振っている。エヴァは弟の肩を抱き、をかした。ミラには聞こえなかったが、「って」と言っているように見えた。
輪がき始める。ミラはガラス越しにを振り返した。何度も、何度も。ホームのがさくなり、駅舎がざかる。自分が置いていく物のきさに、初めて気づいた。
「本へ着いたら、エヴァにをこう」とミラは言った。
「届く所があればな」と父が答えた。
「なくてもく。す先をから探せばいい」
母は娘の肩へ毛布を掛けた。父も頷いた。それは、旅が終わっていない々のために自分たちができる、ほんのさな約束だった。
夕方、列は最初のいをした。父は湯を探しにり、母は内でパンを分けた。ミラは窓に映る自分の顔を見た。、学の教にいた女と同じ顔なのに、らない表をしている。
「ミラ、図を描いて」と弟が頼んだ。
「何の図?」
「今まで来たところと、これからくところ」
ミラはさなに線を引いた。ヴィルナ、列、の、その先の。まだ通っていない所は点線にした。弟はそれを見て尋ねた。
「点線は、違えたら消せるの?」
「ううん。これから線をつなぐところよ」
弟はしたように眠った。ミラはをたたみ、着の内側へ入れた。旅券の印とは別に、自分自ので描いた最初のだった。
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