"杉原千畝の査証を得た一家、母だけが出国できない" 第8話
窓のにがない
列がへむにつれ、窓の景はしずつ変わった。がくなり、森が続き、のに細い跡だけが見えるもあった。刻表に記された駅名をミラは読みげ、そのたびにさな図へ印をつけた。
緒の両には、ポーランド語を話す族がほかにもいた。赤ん坊を抱く夫婦、杖をついた老、くなった父の子を持ち続ける青。皆、目は違っても、へ向かう列に乗っているという点でつながっていた。
料の分け方はごとに難しくなった。はじめに持ってきたパンはくなり、母はさく切ってで柔らかくした。駅で何か買えるもあるが、いつも品物があるとは限らない。父はしずつを使い、元に残る額を確かめた。
「本へ着いたら、べ物はある?」と弟が尋ねた。
「あるわ」と母が答える。「でも、何でもすぐ買えるとっては駄目」
「じゃあ、何をべるの」
「着いてから考えましょう」
弟は満そうだった。子どもにとって、着いたことのない国より次の事の方が確かな問題だった。
ある夜、同じ両の赤ん坊が泣きやまなくなった。母親はっていて、乳が分にないらしい。隣の席の老婦が湯を探し、別のが毛布を貸した。リヴカは裁縫具をいて、赤ん坊の腹巻きのほつれを直した。
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ミラは自分の筒を差しした。
赤ん坊の母親は何度も礼を言った。
「何もしたことはしていません」とリヴカが答えた。
「いいえ。したことです」
母親の言葉を聞き、ミラはにカウナスの領事館をいした。窓で交わされた言葉を自分はらない。けれど渡された類によって、くのの荷物に未来のき先が加わった。を助けることには、形のきさと結果のきさが致しないがある。
数、がくなった駅で、父はしてべ物を探しにった。母も緒にりようとしたが、弟がっぽかったため内へ残った。ミラは父を見送った。のへ消える背にを覚えたが、必な買い物だった。
帰りの刻がづいても父は戻らない。掌が内を歩き、乗客が慌ただしく荷物をまとめ始めた。母は弟を抱き、窓からホームを見つめた。
「お父さんは?」とダヴィドが言った。
「来るわ」
母は繰り返した。「きっと来る」
ミラは両の扉までった。の寒さが頬を打つ。くの売のに列が見える。父に似た套は幾つもあった。を見分けるのに顔が必なのに、皆が子をくかぶっていた。
発の図が聞こえた瞬、父が駆けてきた。片にさな包みを持っている。もう片方のには何もなかった。父は息を切らし、両のすりを握った。
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ミラと同じ両の男が荷物を引きげてくれた。
「何をしていたの!」と母がった。
「パンを買おうとして、別の列に並んでしまった」
父は包みをいた。には乾いたさな魚が数匹入っていた。
「パンは売り切れだった」
母はしばらく父を見つめ、それから突然笑った。笑いながら泣いていた。
「魚のために、族とれるところだったのよ」
父も笑った。ミラはの顔を見て、胸の奥がくなった。
その夜、卓代わりの膝のに魚が並んだ。さな骨を取り除いて弟へべさせる。母はし塩辛いと言い、父は贅沢な夕飯だと答えた。誰も、魚が尾いくらだったのか聞かなかった。
さらに数が過ぎ、ダヴィドの咳がくなった。旅の疲れと寒さがなっていた。母は赤ん坊を抱いていた女性に尋ね、内で子どもを温める方法を教わった。父は古い毛布を分けてもらい、窓の隙を塞いだ。医師を呼べるわけではなく、症状が悪くなれば次のきな駅で助けを求めなければならない。
「僕、ろされるの?」と弟がい声で言った。
「誰もろさない」とミラが答える。
「でも、僕のせいでみんなが遅れる」
ミラは弟のをく握った。
「発する、でくと決めたでしょう。誰かが具を悪くしたら、そののために止まるのもの仕事よ」
翌朝、弟のはしがった。
母は堵したものの、まだ油断しなかった。は窓のを見て、に埋もれたさなを指さした。
「ここにんでるは、どこへくの?」
「ここがなら、ここへ帰ってくるのよ」とミラは言った。
弟は考え込み、ぽつりと聞いた。
「僕たちは、どこへ帰ってくるの」
ミラは答えられなかった。ヴィルナの根裏はもう別の誰かが使っているだろう。ポーランドのには、もう戻れないかもしれない。本は通り過ぎる国だと聞いている。
父は弟の肩へを置いた。
「帰る所は、まだ決まっていない。だから、これから作るんだ」
列はきなカーブを曲がった。窓のにはと空しか見えない。それでも内には話し声があり、毛布があり、誰かが渡してくれた湯があった。ミラは、帰る所が決まるまでの、ここにいるたちが自分たちのさな町なのかもしれないとった。
やがてにいの名が、乗客のに増え始めた。ウラジオストク。何度も図へいた、の端の港だった。
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