"杉原千畝の査証を得た一家、母だけが出国できない" 第9話
ので
ウラジオストクへづく頃、内の々は互いの旅券を確かめうようになった。列をりても旅は終わらない。港でへ乗るためには、もう度類を見せなければならなかった。
ミラは母とともに荷物をまとめた。母の鋏はまだ使えたが、布袋にはたくさんの補修跡が増えていた。父の具包みも軽くなっている。旅の途でさな具を直したお礼に、湯やべ物をもらうことがあったが、具をつ失えば次の仕事ができなくなる。父は具を使うに、いつも相へ約束を確かめた。
港町の寒さは、森のとは違っていた。に湿り気が混じり、の匂いがした。ミラは子どもの頃、を見たことがほとんどなかった。今、が自分たちを助けてくれるのか、それともを遮るのか分からなかった。
役所のには再び列ができた。ミラはもう、列がいことに驚かなくなっていた。並ぶの顔をずつ見る癖がついた。先がどこにあり、最尾がどこへ伸びているかではなく、どんながそこにいるかを見ようとったからだ。
続きでは、携帯してきた通貨や貴品についても調べられた。いくつかの族が、持ちせるとっていたや品物を放すことになった。父はあらかじめ説を受けていたものの、残る資が減れば、本での暮らしが難しくなることは分かっていた。
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「に乗ったら、すぐに次の国へけるわけじゃない」と父が言った。
母は頷いた。「分かっている。でもまずを渡りましょう」
港では、まだ乗できない族もいた。類がりない、の便を待つ、運賃を確保できない。ミラたちは、自分たちがここまで来られたことをびながらも、び方を忘れたような顔をしていた。
待所の片隅で、ミラはパヴェウに似たを見かけた。背のさも歩き方もよく似ている。わずちがって声を掛けたが、振り返った顔は別だった。
は怪訝そうに見た。ミラは謝り、自分の席へ戻った。母が理由を尋ねる。
「っているかとっただけ」
母は何も言わず、娘の肩を抱いた。
そのの夕方、宿へ戻った父は、さな封筒を持っていた。支援に関わる々から、に乗るための費用について協力が得られるという連絡だった。父は何度も礼を言い、必な続きを確かめてきたという。
「僕たち、乗れるの?」と弟が聞いた。
「とは限らない。でもづいた」
「また点線がつ減ったね」と弟は言った。
ミラは図をいた。列のい線の先に、ようやくを描きせる。がさくなり、鉛の線は窮屈になった。弟はその線を見て嬉しそうに笑った。
数、に乗るが決まった。父はらせを受けて戻り、族に伝えた。
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「次の便だ」
母は何も言わず、鋏の先を布に包んだ。旅券を数分確かめてから、弟の子の縫い目を直した。ミラも自分の着を調べた。ポケットのには、エヴァにもらった針と糸が入っている。まだ度も使っていなかった。
乗の朝、港は曇っていた。きなを見げると、がさく見える。へ続くには、荷物を持った々が並んでいた。言葉が違っても、配していることはよく似ているらしい。類を落とさないか、子どもがはぐれないか、寒い甲板でどう過ごすか。
ミラが弟のを握ると、弟は反対のでいを取りした。パヴェウからもらっただった。
「これもを渡れる?」
「さいから、丈夫よ」
「は泳げないのに」
「私たちだって、このを泳げないでしょう。だからに乗るの」
ミラは、このを切にする理由を弟に改めて尋ねたかった。しかし、パヴェウのことをいさせて泣かせたくない気持ちもあった。が次に会う、互いの顔を覚えているだろうか。会えなくても、あの駅で友達だったという事実は消えないだろうか。そんな答えのないことを考えているうちに、列がまた歩んだ。
弟は納得したようにをしまった。
が港をれる、母はい、陸を見つめていた。そこには族の故郷はなかった。それでも、陸をれることがこんなにしいのはなぜだろう。
これまで自分たちが踏んできたすべてと、今、別れるような気がした。
父は旅券をき、本へ通過するための査証を見せた。カウナスの建物ので受け取った、あの印だった。
「ここまで来た」と父が言った。
ミラは首を横に振った。「まだ先がある」
父は微笑んだ。「そうだな。おはいつも、その先のことを考える」
は沖へた。のが広がり、波が腹に当たる。ミラは甲板のすりへを置き、初めて本へ向かっているのだと実した。
その夜、弟がで尋ねた。
「本に着いたら、もう逃げなくていい?」
母はし考え、答えた。
「すぐには分からない。でも、今夜はが私たちを運んでくれる。だから眠りましょう」
ミラはの揺れにを任せた。が自分でできることと、に託すしかないこと。そのつのをき来するのが、旅というものなのかもしれない。
眠りに落ちる直、彼女はカウナスの窓をいした。分の印を見て、これで助かるとは限らないと言った自分。それは違いではなかった。だが、あの印がなければ、今夜のもなかった。
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