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"疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由" 第8話

帰る、残る

翌朝、栄蔵はから薪を担いで戻り、文へ「これ以ご厄介はかけられん」と言った。文も、京へ戻らなければならないことを告げた。ふさは昨夜の言い争いを気にしているようだったが、朝の支度を続け、何も言わなかった。

幸子は納で千代と並んで座っていた。のにはさな布切れが積まれている。千代は古い針から針を本抜き、布の端を揃えていた。

「京に帰ったら、またをくね」

「幸ちゃん、わたし、結局どこへくの」

幸子は縫い針を置いた。「わからない」と答えた。千代は泣かなかった。ただ、布を握ったまま、「そうだよね」と言った。

文はその声を聞き、納へ入った。

「千代ちゃん、お母さんが来たから、もう丈夫なんて言えなくてごめんね」

千代は目を見いた。に謝られるとはっていなかったようだ。

「でも、戻ってこなかったことにはしない。京から、考えられることを続けるよ」

「本当に?」

「本当に。ただし、あなたのお父さんとお母さんの話も聞いて決める。あなたを勝に連れていったりしない」

千代はゆっくりうなずいた。幸子は母のを見つめ、その荒れた指先を自分ので包んだ。

昼、栄蔵は妹の志乃に会いに町へた。千代を引き取る話を、なくともの初めまで待ってほしいと頼むためだった。

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戻った、栄蔵は疲れた顔をしていたが、「ひとは待ってくれるそうだ」と言った。ふさの目に涙が浮かんだ。

しかし栄蔵は付け加えた。

「ひとで、うちの暮らしが急によくなるわけじゃない。あの子がここにいるなら、何を減らして何を増やすのか、みんなで考えんとな」

栄蔵は、母の寝の隣へ千代の机を置いた。もともとは箱を伏せただけの台で、にはとがある。祖母は千代へ「これからは伝ってもらうことが増えるかもしれん」と言い、千代は頷いた。けれど栄蔵はそので「毎学が終わってからの話だ」と付けした。以なら言わなかった言だった。

ふさは台所の隅に、今の事の麦を量った器を置いていた。文が見ていると、「に京の子が来てくれたおかげで、私もしい料理を覚えたんですよ」と話す。芋の皮をく剥かないこと、細かく刻んで汁に入れること。何も捨てずに作ろうとする夫は、疎児童と暮らしたのにについたものだという。

「子どもたちは帰りました。でも、あの子らがべていたことも、学へっていたことも、なかったことにはならないんです」

ふさは千代の背を見た。「あの子も、毎お弁当を持って学へきたいんです。今までだって、かせなかったわけではない。でも忙しいと、つい『今だけ休んで』と言ってしまった。

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今だけがなるのは怖いですね」と続けた。

文は、千代がよそのへくのを拒んだ本当の理由は、親とれたくないだけではないのかもしれないとった。どこに暮らしても、学へ通い、自分の名を呼ばれるがほしかったのだ。

族が緒に暮らすのは当たりのことだとっていた幸子には、その言葉がたく聞こえた。文には、むしろ正直な言葉にえた。京でも、賃を払えなければ、母娘のはなくなる。

帰り際、ふさは文へさな布包みを渡した。には、古い襦袢を解いた布が枚入っていた。

「京で、必なところだけ使ってください。私にはこの布をどう直せばいいか、考える余裕もなくて」

文は受け取らず、布を広げて傷んだところを確かめた。

「これは、まだ使えますよ。子どもの着の裏にちょうどいい。お預かりして、仕て方の見本を作って送りましょうか」

ふさは驚いた。「作っていただくのに、お礼は何を」と言う。

「次に注文を受ける、同じ寸法で縫ってみてください。それをお礼にしてもらえればいい」

栄蔵が聞いて笑った。「見本ひとつで腹は膨れんぞ」と言う。しかし、ふさはその包みを丁寧に畳み、文へ預けた。

駅へ向かうで、幸子は赤い糸の結ばれた袋を眺めた。

「お母さん、わたし、千代ちゃんを助けたかった。

でも、お母さんの仕事がなくなっちゃった」

「つなくなっただけだよ」

「つでも、変なんでしょう」

「そうだね。変。だから幸子にも、これからは黙って配するんじゃなくて、話してほしい」

幸子は母を見た。

「お父さんがんだことも、最初に教えてほしかった」

文はを止めた。胸ので、しまい込んできた言葉がいた。

「怖かったんだよ。いにいるあんたが、何もできないまましむことが」

「わたし、くにいてもしかったよ」

それは叱責ではなかった。母にってほしい、ただそれだけの声だった。

文は「ごめんね」と言った。幸子は首を横に振った。「わたしも、で苦しかったことをちゃんと話さなかった」と言う。

は駅まで歩いた。農の煙突から細い煙がち、畦に干した稲がで揺れた。戦争が終わっても、皆がすぐに昔の暮らしへ戻れるわけではない。そのことを、幸子はようやく母と同じを歩きながらった。

京に着いた夜、田宮から使いの子が来ていた。主は翌、文に話があるという。文は事より先に、針箱と布を並べた。娘もそばへ座ったが、針には触れなかった。

「はわたしも学へく。帰ったら、見本の寸法を教えてね」

「うん。まず自分の宿題だよ」

「わかってる」

久しぶりに、母娘はさなことで笑えた。

しかし翌、田宮が文に示したのは、もう次の注文を回せないというらせだった。

品物の納期を守れない仕を、の板では紹介できないと言われた。

「すまんね。あんたの腕を疑っているわけじゃない。ただ、客の約束が先なんだ」

文はをげてをた。元には、から持ち帰った枚の古布がある。切なのためにくまでき、京で仕事を失った。んでよいのか悔しがればよいのか分からなかった。

夕方、文は初枝へ事を話した。初枝はしばらく聞いた、な提案をした。

「田宮さんだけが、町のじゃないでしょう。焼け残った仕て物を直したいは、もっといるとうよ。ただ、仕事をもらうなら、どこまで来るかを先に言わなきゃ」

文はその言葉を覚えておいた。

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