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"疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由" 第13話

帰る所がつある

昭の、京の桜は焼け跡のにも咲いた。文はの窓をけ、朝のを入れた。幸子は学へ持っていく本を呂敷へ包んでいる。のには李さえけようとしなかった娘が、今では「遅刻する」と言って慌てている。

文の仕事は、以のように軒から量に受ける形には戻らなかった。それでも、所のからさな直し物を預かり、にちと代を決めて仕げる仕事が続いている。のに失った分を全部取り戻したわけではない。賃の配がなくなったもない。

けれど、仕事が遅れそうなには先に伝えるようになった。体調を崩したには無理をせず、仕てられないものは断ることも覚えた。文は以、それをさだとっていた。今は、続けるために必なことだとっている。

その、幸子は学で配られたしい連絡用を見て、し迷っていた。保護者の名をく欄があり、父と母を並べてきかけたのだ。以なら当たりにいていたつの名のうち、つはもうけない。

幸子が帰宅してを差しすと、文は娘の元を見て、何も叱らなかった。

「庄の名をきたいなら、別のところにいてもいいよ。学のには今、で連絡を受けるの名をこう」

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幸子はゆっくり頷いた。父の名を消すのではない。今必な所には母の名をき、父の名は事な帳へ残す。誰かを忘れないことと、今の暮らしをめることを、初めて別々に来た気がした。

そのの晩、幸子は野の千代へいをいた。《お父さんの計は、まだ止まっています。でも、わたしはしい学のを数えています。千代ちゃんも、これからの学で友達が来たら教えてね》といた。母は封筒をのぞき込まず、そっと切を渡した。

の終わり、千代からい封筒が届いた。には町の学の案内と、自分でいた割が入っていた。志乃のの所も、へ帰るの予定もかれている。

《お母ちゃんが、わたしの着にしいえりをつけてくれました。幸ちゃんのお母さんのまねをして、ちがうの布をならべました。へんなのじゃなくて、きれいです》

幸子はを声にして読んだ。文が笑って、「それは見てみたいね」と言う。封筒の底には細い布があり、赤い糸でさなが縫われていた。

《幸ちゃんのぶくろの糸で、作りました。今度は、わたしが自分で縫いました》

幸子はそれを事に机へ置いた。赤い糸は、にから送られてきた物と同じだった。

その、幸子は学で、自分が疎先から帰ってきたの作文をいた。

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先は「京へ戻れてうれしかったでしょう」と尋ねたが、幸子はすぐに答えられなかった。

嬉しかった。母に会えたことは本当に嬉しかった。でも、あのへも帰りたかった。ふさが作る麦飯の匂いも、千代と学へ通ったも、切だった。どちらか方を選ばなければいけないとった、苦しくなった。

幸子は何度もき直し、最にこう記した。

《わたしには、帰りたいところがつあります。京にはお母さんがいます。野には、わたしを待っていてくれたたちがいます。どちらも、わたしの暮らした所です》

先は読み終え、しばらく黙っていた。それから「いい作文だね」とだけ言った。

休み、幸子は野へきたいと文に頼んだ。文は納品を調べ、ならかけられると答えた。娘は驚き、「本当に?」と何度も聞いた。

「約束したでしょう。けるはく、無理なは無理と話して決めるって」

がに着くと、田の畦にはまだのが残っていた。栗田のには、ふさが繕った半纏が干してある。以より仕事の量は減らしたが、所から頼まれる物だけをしずつ縫っているという。

栄蔵は文たちを迎え、畑の脇のを指さした。

「から、婆さまがける範囲の畑をし広げてみる。無理をせんで済むように、仕事を分けた」

ふさが「何でもで抱えないようにしただけです」と笑った。文も笑った。畑もミシンも、すぐに豊かさを運んではくれない。でも、毎の暮らし方をつ変えることはできた。

千代は町から戻っていた。を見ると、から駆けした。

「幸ちゃん! 文おばさん!」

幸子は千代を抱き締めた。あの、京の畳半で幸子が泣いた、文は「もうへ帰りたいと言わないで」とった。いま娘は、同じで笑っている。文はそれを見るのが嬉しかった。

千代のしい着は、衿と袖に異なるの布が縫い付けられていた。ふさの縫い目はところどころ曲がっているが、温かな触りがした。

「お母さんの仕てと似てる」と幸子が言う。

「でも、これはわたしのお母ちゃんが縫ってくれたんだよ」

千代は胸を張った。ふさは照れたように笑った。

午、の女はへ向かった。の、千代がでへてったのだ。千代は切れた履の緒を直したことを覚えていて、「あのは本当に怖かった」と言った。

幸子は謝ろうとした。けれど千代が先に言った。

「幸ちゃんが迎えに来てくれたから、わたし、に帰って自分の話をしたんだとう」

「わたしは、何も来なかったよ」

「来たこと、あるよ。お母ちゃんを連れてきて、話を聞いてくれた」

幸子は目を伏せ、笑った。

くから文とふさの呼ぶ声がした。夕飯の支度が始まるだった。

京へ戻るの晩、文は幸子へさな針を渡した。ふさからもらった指ぬきと緒に使えるよう、古布で縫ったものだった。

「針は、布をつなげるけれど、何でも直せるわけじゃない。破れたところがきいは、別の布をわせたり、誰かに伝ってもらったりするんだよ」

幸子は掌の針を見た。

「お母さん、族もそうなのかな」

「どうだろうね。お母さんにもまだわからないことがある。でも、わからないは緒に考えたい」

幸子はうなずいた。

翌朝、駅へ向かうで、幸子は栗田を何度も振り返った。今度は誰も引き止めなかった。千代は学へく。幸子も京へ帰る。れることを、約束を破ることと違えなくなっていた。

駅のホームで汽を待ちながら、文は幸子に尋ねた。

「京へ帰ったら、何をべたい?」

幸子はし考えた。

「麦飯でもいい。お母さんと緒にべられれば」

汽がゆっくり入ってきた。は呂敷を抱え、並んで乗り込んだ。

京へ向かう汽ので、幸子は文の膝のに広げたへ、野からの帰りを描いた。駅の根、川の、を越した畑、栗田の曲がった柱。最に京のをさく描きすと、つののを本の線でつないだ。

「ずいぶんいだね」と文が言う。幸子は「いけど、けるだよ」と答えた。母はその言葉を聞いて、野駅で娘を抱き締めたのことをいした。あの、自分は娘が度とれないことだけを願っていた。今は違う。れているにも、娘が誰かを切にし、誰かから切にされることを嬉しいとえる。

幸子はをつ折りにして、母の呂敷へ入れた。「また迷ったら、これを見る」と言う。文は「迷ったは、まず話そうね」と答えた。

その夜、京の畳半で幸子は李をけた。赤い袋を取りし、畳のに置く。もう指のさがりず、そのは使えないだろう。それでも捨てる気にはなれなかった。

「お母さん、これ、ほどいてまた何か作れるかな」

「作れるよ。何にしたい?」

幸子は笑った。

「まだ決めてない。今度は、ゆっくり考える」

文は針箱をいた。窓のでは、帰ってきたたちの話し声が聞こえていた。かつては戻ることさえ願えなかった町で、しい暮らしがしずつ始まっていた。

は赤い糸の端を探し、ほどけないよう指で押さえた。

――――

【創作について】

本作は、昭からにかけてわれた学童集団疎と、終戦の帰京・活再建という歴史状況を背景にしたフィクションです。幸子、文、千代、栗田などの物、会話、来事は創作です。

特定の実の疎児童や受け入れ庭の体験を再現したものではありません。

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