"「嫁は廊下で寝ろ」私が二度と帰らなかった理由" 第7話
の夜
「分かりました。別ので寝ます」
そう告げたあと、義母と孝介は笑った。
ホテルに逃げる程度だとったのだろう。
「がありますので」
私が言うと、孝介はようやく笑うのをやめた。
「って……会社の仮眠部?」
「仮眠部じゃないわ。私が結婚に買ったマンション。部とリビング、台所もある。に話したでしょう」
孝介は初めて聞いたような顔をした。
「買ったって……いつ?」
「。ローンは結婚のに払い終わってる」
義母は息子と私を交互に見た。
私には分かった。
以説した、孝介は本当に話を聞いていなかったのだ。
畳へ入り、必なものだけを鞄へ入れた。
充器、仕事の資料、翌のブラウス。母の鏡はすでに通勤鞄に入れてある。
布団は持っていかなかった。
マンションには自分のベッドがある。
階段をりると孝介が慌ててついてきた。
玄関で腕をつかまれた。
「おい、待てよ。布団くらいでげさだろ」
私は振り向いた。
「布団くらいなの?」
孝介は答えなかった。
階段のから義母が言った。
「放っておきなさい。どうせ晩で根をげるわよ」
孝介は義母を見げ、それから私を見た。
夫がどちら側につか迷ったのは、その瞬だけだった。
やがて私の腕をし、義母側の壁へ寄った。
「ていくなら、もうこのには泊めてあげないわよ」
広告
義母の声が背にんできた。
私は靴を履き、つま先を揃えてから振り返った。
「分かりました。もう泊まりません」
にして、自分でも驚いた。
私はこので「暮らしている」とっていた。
けれど義母のからたのは「泊めてあげる」。
そして私は自然に「泊まりません」と答えた。
この、私はのどこかで、ここを自分のだとえていなかったのかもしれない。
キーケースから義実の鍵をした。
、同居初に渡された鍵だった。
靴箱のにある皿へ置く。
元に残ったのは本だけ。
自分のマンションの鍵だった。
「お世話になりました」
をげて扉を閉めた。
へたあとも、から声が聞こえた。
「の朝には戻るだろ」
「ちょっと反省させればいいのよ。鍵がないからインターホン鳴らすしかないんだから」
とも、本気で私が帰らないとはっていなかった。
の夜はしたかった。
分のに乗ると、内は空いていた。
この、毎晩反対方向から同じ窓の景を眺めてきた。
義実の最寄り駅がづくたび、玄関灯はついているだろうか、義母の嫌はどうだろう、夕飯はあるだろうかと考えた。
今夜は何も考えなくていい。
のから真柴先へメールを送った。
《予定よりくマンションへ移りました。
広告
詳しくは朝ご連絡します》
分。
マンションのオートロックをけ、エレベーターで自分の階へがった。
扉に最の本の鍵を差した。
部はし埃っぽかった。
しかし気もも使える。
リビングには掛けのソファ、さな卓。寝にはベッドがつ。
クローゼットをけると、義実へ入りきらなかったスーツやコートが並んでいた。
私は分の暮らしを全部義実へ移していたわけではなかった。
半分は最初からここに残っていた。
台所でお湯を沸かし、自分の湯呑みへお茶を注いだ。
つだけ。
誰かに忘れられる配もない。
寝の扉の向こうにいシーツのベッドが見えた。
突然、涙がこぼれた。
「あ……ここ、私のだった」
当たりの言葉だった。
、自分で選び、自分のおで購入し、自分で鍵をけてきた部だ。
私には最初から帰るがあった。
廊に布団をされてもりが湧かなかった理由が、しだけ分かった。
あので寝る所を失っても、私には眠る所がある。
その夜、私はぶりに誰の音も気にせず、自分のベッドへ横になった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
現地払いの還暦旅行
旅行会社に勤める弘志は、義父の還暦祝いに伊豆の高級ホテルを手配する。ところが旅行当日、義父母と義姉、さらには妻の優希までが、駅で「お前はもう帰れ」と弘志を追い返した。 屈辱をこらえて帰宅した弘志のもとに、妻から不可解なメッセージが届く。一方、義家族はホテルで高級料理や酒、エステを次々と注文していた。 しかし彼らは、旅行のしおりに記された重要な支払い条件を見落としていた。チェックアウトの日、彼らを待ち受ける驚愕の請求と、妻が隠していた秘密とは――。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.8万字5 0 -
完結第20話
愛人が妊娠、離婚を迫る夫が私の退職に大慌て
十年間、夫・徹が経営する武田工業を営業部長として支えてきた44歳の百香。ある夜、夫から突然、29歳の女性社員を妊娠させたと告げられ、離婚を迫られる。 さらに夫は、離婚後も会社で働き続け、愛人の子供の世話までしてほしいと言い出した。 呆れ果てた百香は離婚と退職を決意するが、親友の弁護士から驚くべき証拠を渡される。そこには、愛人が会社の裏で進めていた巨額の不正が隠されていた。 十年の献身を踏みにじられた妻が仕掛ける、痛快な逆転劇。怒り|夫婦|金銭問題|不倫2.3万字5 26 -
完結第14話
同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼
中学卒業から十五年。貧しい母子家庭で育ち、いじめに耐えてきた梅本瑞江は、故郷の同窓会に姿を現した。上品な大島紬をまとった彼女を見て、かつてのいじめの主犯・熊切勢子は激怒。友人の借金を盾に保証人になるよう迫り、ついには瑞江の頭からビールを浴びせてしまう。 さらに勢子は、暴力団組長である夫の力を使い、瑞江を脅そうとする。しかし、連れ込まれた奥の宴会場で、誰も予想しなかった光景が待っていた。 十五年前に見下されていた少女が隠していた、驚くべき現在の姿とは――。人生逆転|真相|第二の人生|修羅場2.0万字5 14 -
完結第15話
「25万円振り込め」と脅す夫へ、私はもう妻じゃない
フリーランスの設計士・美穂は、三年間無職の夫・浩司と同居する義母・富江を、自分の収入で養い続けてきた。感謝されるどころか、夫からは「離婚するぞ」と脅され、生活費として25万円を要求される日々。 ところが、夫の浮気だけでなく、義母まで愛人を家へ招き入れ、亡き父から相続した家を奪おうとしていることが発覚する。 半年間、証拠を集め続けた美穂は、三年前に夫が署名した離婚届を手に、静かな反撃を決意する。しかし、何も知らない夫と義母は、さらに300万円を要求してきて――。怒り|夫婦|金銭問題|修羅場1.8万字5 4 -
完結第20話
同窓会で頭取の娘に脅された俺、300億を全額解約
卒業から24年、150人が集まる同窓会に出席した堀口弘樹。質素なスーツ姿を見た銀行頭取の娘・久我エリは、高校時代と同じように彼を見下し、「パパに頼んで取引を打ち切ってもらう」と脅してきた。 しかし、弘樹の正体は年商2100億円の物流グループを率いる創業社長。東王銀行には300億円を超える預金があった。 「じゃあ、全部解約で」 翌日、銀行から100件もの電話が殺到する。だが、弘樹と頭取の間には、20年前の知られざる恩義があった。彼が最後に下す決断とは――。職場逆転|因果応報|第二の人生2.7万字5 219 -
完結第10話
本当の家主
仕事で疲れ果てて帰宅したのり子を待っていたのは、義妹・美香が散らかしたゴミだらけのリビングだった。片付けも夜食作りも拒否すると、夫の誠は妻を責め、義母のかよは「この家から出ていけ!」と怒鳴り、雨の降る夜にのり子を追い出してしまう。 助けを求める妻を見ながら、夫は冷たくカーテンを閉めた。しかし義家族は知らなかった。土地も建物も、亡き両親の遺産と自分の稼ぎで手に入れた、のり子名義の財産だったことを。すべてを奪われ続けた妻が、ついに静かな反撃を決意する。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|修羅場1.8万字5 95