"「25万円振り込め」と脅す夫へ、私はもう妻じゃない" 第4話
父の箱
決定だったのは、張のだった。
午の打ちわせへ向かう途、図面式を忘れたことに気づき、私は予定よりく自宅へ戻った。
玄関をけた瞬、違があった。
いつもの檜のりに混じり、甘く濃いが漂っていた。
富が使うものではない。
若い女性向けのいりだった。
リビングには誰もいなかった。
けれどテーブルにはティーカップがつあり、片方の縁に赤いが残っている。
私は呼吸して内を見回した。
そしてのへ目を向けた瞬、呼吸が止まった。
父の桜の箱がない。
父が若い頃から用した鉋や鑿、墨壺、それに古いの懐計を収めていた箱だった。
表面は何も触れられたせいで飴になり、角は丸く滑らかになっている。
銭な価値など関係ない。
私にとっては、父がきていたそのものだった。
「どこ……?」
押し入れも戸棚も探した。
そして廊の隅で、きな袋を見つけた。
古着や雑誌と緒に、桜の箱が無造作に押し込まれている。
横には所のリサイクルショップのチラシ。
私は膝をつき、箱を胸に抱えた。
その、玄関がいた。
デイサービスから戻ってきた富だった。
「ああ、それ」
私を見ても悪びれない。
「今の夕方に引き取りに来るから、玄関にしておいて」
「これは父の切な形見です。
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どうして勝に売るんですか」
「だって目障りなんだもの。古い具なんて、このに似わないでしょう。売ったおで綺麗な瓶でも買った方がましよ」
私は必に声を抑えた。
「父が働いてきた証なんです」
富の目が細くなった。
「どうせした職じゃなかったんでしょう。こんな古臭いしか建てられなかったんだから。貧乏臭い箱なんてく捨てなさいよ」
その瞬だった。
私ので、何かが完全に切れた。
私は鳴らなかった。
泣きもしなかった。
ただ箱を抱く腕に力を込め、富の横を通り過ぎた。
「ちょっと、どこに持っていくのよ!」
背から声が追いかけてきたが、振り返らなかった。
自の鍵を閉め、箱をタオルで包み、張用のスーツケースの底へしまった。
そして机の引きしを確認した。
実印ケースはそこにある。
けれど向きがずれている。
私は設計士という仕事柄、直線や物の角度に敏だった。
さらにケースには、富が使うハンドクリームと同じ匂いが残っていた。
レシートの裏にあった《印鑑証》《委任状》という文字がに浮かんだ。
私はそののうちに役所へ相談し、印鑑登録について必な続きを取った。
類も別の全な所へ移した。
さらに、以から相談していた弁護士の林先を訪ねた。
レシートの裏のメモを見せると、先の表がしくなった。
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「何かの続きを定して調べていた能性がありますね。切なのは、先回りして管理を見直すことです」
登記関係。
座。
カード。
仕事データ。
郵便物。
先とつずつ確認した。
何かのや印鑑だけで、簡単にの所者を変えられるわけではない。
それでも、が私のらないところでいている以、放置する理由はなかった。
帰りににも寄った。
事業収入や父から引き継いだ資産の記録を理し、活費座とは確に分けた。
父の代からっている佐藤さんは、事を詳しく聞かず、
「切なおは自分で守っていいんだよ」
と言ってくれた。
その夜、私はつの決断をした。
もう「族だから」という理由だけで、何でも許すのはやめる。
そして張へる。
私は、透なファイルに入れて保管していた枚のを鞄に入れた。
浩司自が署名して私へ渡した、あの婚届を。
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