"同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼" 第1話
島紬と屏の
旬の週末。方都の駅に建つ老舗ホテル「グランドパレス」の階、宴会「鳳凰の」。
褪せた屏がち並ぶ広な会には、学の卒業以来ぶりの再会を果たした男女数名が集まり、宴からが過ぎた頃には、すでに脂ぎった酒の匂いとけたたましい笑い声が充満していた。歳という齢の節目を迎え、方の閉塞な空気のでそれなりの位を築いた者、都会へて挫折した者、庭に入って退屈を囲う者——誰もが互いの装やに着けた計、指輪を値踏みしい、自己顕示の隙を窺う品な線が交差していた。
その喧騒ので、誰よりも甲い声を張りげていたのが熊切勢子(くまきり・せいこ)だった。
学代、女子バレー部の主将でありながら、良グループの女子徒たちを牛り、学の徒や教師までも恐怖で支配した元番。歳になった今もその横暴な態度は変わらず、肩を胆にさせたけばけばしいのサテンカクテルドレスにを包み、太い首元には成趣の分いの平ネックレスを巻きつけていた。にしたシャンパングラスを揺らしながら、取り巻きの同級たちに酌をさせ、女王然として宴席の真んにふんぞり返っている。
広告
その勢子の細められた目が、会の最も入りにい、照の暗い座の円卓へと向けられた。
「……ちょっと、あれ見てよ」
勢子は爪に原のマニキュアを塗りたくった指先で、ぽつんとで座っている女性を指差した。周囲の取り巻きの女たちが斉に線を投げる。
そこに座っていたのは、梅本瑞(うめもと・みずえ)だった。
学代、極貧の母子庭で育ち、母親が内職で夜なべして繕ったツギハギだらけの制を着て登していたことから、勢子たちから「継ぎ接ぎ(つぎはぎ)」と呼ばれ、湿かつ苛烈ないじめの標にされ続けた女。へ学する経済余裕もなく、卒業式の翌には夜列でく関の縫製へと単集団就職し、以来、同級の誰とも連絡を絶っていたはずのだった。
だが、今夜、屏の隅に佇む瑞の姿は、勢子たちが期待していたような「貧相で惨めな負け犬」とは完全にかけれていた。
瑞がに纏っていたのは、い夜のをわせる濃紺の染めの島紬だった。細かな亀甲絣が狂いなく織り込まれた反物は、仕ての良さを物語るように寸分の乱れもなく彼女の引き締まった体に沿い、帯には渋い利休鼠の博織が締められている。余計な貴属は切に着けていない。
広告
しかし、背筋を真っ直ぐに伸ばし、膝ので静かにねられた両、伏せられたい睫毛、静謐を湛えた横顔からは、酒に酔いしれる周囲の俗物たちを寄せ付けない、凛とした気品と圧倒な静けさが漂っていた。
「何よ、あの格好。卒の女のくせに、随分と等な着物を着てきじゃない」
勢子はグラスを円卓のにカツンと音をてて置くと、のドレスの裾を激しく揺らしながら、瑞の座る末席へと股で歩み寄った。ハイヒールの踵がを踏み鳴らすたび、取り巻きの男女が面半分にを追う。
「久しぶりじゃない、継ぎ接ぎ。で油にまみれてミシン踏んでるって聞いてたけど、どこのお爺さんに買ってもらったのかしら、そのそうな着物は?」
勢子は瑞のすぐ横にち塞がり、見ろすように嘲笑を浴びせた。周囲の同級たちから、クスクスと湿った笑いが漏れ広がる。の教で幾度となく繰り返された、者をいたぶり、周囲がそれに同調して保を図る、あの醜悪な構図が瞬に再現されていた。
しかし、瑞はじなかった。
帯のでねていたを解くこともなく、ゆっくりと瞼を持ちげ、勢子の化粧の施された顔をまっすぐに見つめ返した。その瞳は、の底のように澄み渡り、恐れもりも、微の揺すら映ししていなかった。
「自分で働いたおで買いました」
静かで、鈴を転がすような澄んだ声だった。鳴るでもなく、卑屈に笑うでもなく、ただ事実を淡々と告げるその響きが、宴会のざわめきを瞬で静まり返らせた。
勢子の額に、ピシリと青筋が浮かびがった。学代、どれほど履きを便所に捨てようと、教科を破り捨てようと、決して命乞いをせず、涙を見せなかったあの気な目。の歳を経て、自分がに入れた暴力との力をもってしても、この女の魂を屈させることができていないという苛ちが、勢子の胸の内で黒々とした炎となって燃えがった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
現地払いの還暦旅行
旅行会社に勤める弘志は、義父の還暦祝いに伊豆の高級ホテルを手配する。ところが旅行当日、義父母と義姉、さらには妻の優希までが、駅で「お前はもう帰れ」と弘志を追い返した。 屈辱をこらえて帰宅した弘志のもとに、妻から不可解なメッセージが届く。一方、義家族はホテルで高級料理や酒、エステを次々と注文していた。 しかし彼らは、旅行のしおりに記された重要な支払い条件を見落としていた。チェックアウトの日、彼らを待ち受ける驚愕の請求と、妻が隠していた秘密とは――。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.8万字5 8 -
完結第12話
母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密
幼いころから、人には見えないものが見える紀子。62歳になった彼女は、87歳の母を亡くした葬儀の日、誰も立っていなかったはずの場所に、黒い服の女が写っていることに気づく。女の胸には、銀色の花のブローチ。さらに母の遺品から、見知らぬ女性との古い写真と、秘密の子どもについて書かれた手紙が見つかった。生前、母が繰り返し呼んでいた「千恵子さん」とは誰なのか。そして、棺のそばで聞こえた「あの子はまだ生きてる」という声の意味とは。葬儀写真に残された不可解な影が、半世紀以上封じられてきた家族の秘密を呼び覚ます。日常ホラー|真相|親子関係2.2万字5 2 -
完結第10話
銀座の384万円
巨大企業グループの総帥という身分を隠し、平凡な専業主婦として暮らす美央。夫と義母に見下されながらも、温かい家族を夢見て五年間耐え続けてきた。 義母の誕生日、55万円の高級バッグを用意して銀座のレストランへ向かうと、義家族はすでに食事を終えていた。美央の席も料理もなく、代わりに突きつけられたのは384万円もの請求書。 「会計はあなたが払って」 その言葉に、美央は静かに微笑んで店を去る。しかし義家族はまだ知らなかった。自分たちが誰を敵に回したのかを――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場1.6万字5 7 -
完結第20話
山奥の身代わり花嫁
29歳の水野美緒は、幼い頃から姉ばかりを優遇する両親のもとで、家事と仕事に追われる日々を送っていた。 ある日、姉が見合いの直前に逃げ出し、美緒はその身代わりとして山奥の男に嫁ぐよう命じられる。逆らえば家にも戻れない。古い鞄一つで送り出された美緒だったが、たどり着いた先は想像もしなかった大きな屋敷だった。 しかも門が開いた瞬間、使用人たちが深々と頭を下げ、「お帰りなさいませ、奥様」と迎えた。 まだ結婚の返事すらしていない美緒を、なぜ彼らは待っていたのか。そこには、家族が隠していた縁談の秘密があった。人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生|親子関係2.8万字5 9 -
完結第15話
「25万円振り込め」と脅す夫へ、私はもう妻じゃない
フリーランスの設計士・美穂は、三年間無職の夫・浩司と同居する義母・富江を、自分の収入で養い続けてきた。感謝されるどころか、夫からは「離婚するぞ」と脅され、生活費として25万円を要求される日々。 ところが、夫の浮気だけでなく、義母まで愛人を家へ招き入れ、亡き父から相続した家を奪おうとしていることが発覚する。 半年間、証拠を集め続けた美穂は、三年前に夫が署名した離婚届を手に、静かな反撃を決意する。しかし、何も知らない夫と義母は、さらに300万円を要求してきて――。怒り|夫婦|金銭問題|修羅場1.8万字5 73 -
完結第20話
同窓会で頭取の娘に脅された俺、300億を全額解約
卒業から24年、150人が集まる同窓会に出席した堀口弘樹。質素なスーツ姿を見た銀行頭取の娘・久我エリは、高校時代と同じように彼を見下し、「パパに頼んで取引を打ち切ってもらう」と脅してきた。 しかし、弘樹の正体は年商2100億円の物流グループを率いる創業社長。東王銀行には300億円を超える預金があった。 「じゃあ、全部解約で」 翌日、銀行から100件もの電話が殺到する。だが、弘樹と頭取の間には、20年前の知られざる恩義があった。彼が最後に下す決断とは――。職場逆転|因果応報|第二の人生2.7万字5 531 -
完結第10話
本当の家主
仕事で疲れ果てて帰宅したのり子を待っていたのは、義妹・美香が散らかしたゴミだらけのリビングだった。片付けも夜食作りも拒否すると、夫の誠は妻を責め、義母のかよは「この家から出ていけ!」と怒鳴り、雨の降る夜にのり子を追い出してしまう。 助けを求める妻を見ながら、夫は冷たくカーテンを閉めた。しかし義家族は知らなかった。土地も建物も、亡き両親の遺産と自分の稼ぎで手に入れた、のり子名義の財産だったことを。すべてを奪われ続けた妻が、ついに静かな反撃を決意する。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|修羅場1.8万字5 297