みかん小説
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"山奥の身代わり花嫁" 第3話

戻らないための切符

旅館をたとき、私は自分ので男性のを歩いていた。父は最まで見送りに来ず、母から届いたのは「余計なことを言わないで。の恥になる」といういメッセージだけだった。私は画面を閉じ、消さずに保した。さっきの座敷で父に何を言われたか、いつか自分でも確かめられるようにしておきたかった。

男性は坂原武と名乗った。「曜にはいつもお世話になりました」。私がそう言うと、彼はし笑って「鮭弁当の客だと覚えていてくださったんですね」と答えた。毎週同じものを頼むからです、と言いかけて、私はだし巻き卵をしめに切っていたことをいした。急に頬がくなり、窓のへ目を向けた。

に乗る、武さんはき先をにいて渡してくれた。峰の所、会社の話番号、そして町へ戻るバスの刻まで記してある。「途で気が変わったら言ってください。さんのにもお送りできます」。私はそのを鞄の内ポケットに入れた。帰りがあるとるだけで、呼吸がし楽になった。

は沿いのをれ、川に沿ってへ入った。建物は次第になくなり、の端には落を防ぐ網が続いた。姉が嫌がったとおり、駅もきな商も見当たらない。それでも斜面には若い苗が然と植えられ、古いのにしい林が通っていた。

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武さんは「あの帯はの豪で崩れた所です」と教えてくれた。

私は豪のことを覚えていた。峰へ通じるが砂で塞がれ、復旧作業のたちに届ける弁当をさんと作った。注文は百。予算が限られ、朝にを回って形の悪い野菜を買い集めた。炊き込みご飯と煮物を詰め、めてもべやすい献にしたことが、昨のことのようにいされた。

「そのときの弁当を、私もべました」。武さんはを向いたまま言った。私は驚いたが、現にいたなら当然かもしれないとい直した。彼はそれ以話さず、急なカーブでをゆっくり減速させた。私は助席の窓から、底を流れる澄んだ川を眺めていた。

「私が悪くないときまで謝らなくていいんです」。途で私が何度も「すみません」と言うと、武さんはそう言った。荷物を持ってもらったこと、をしてもらったこと、黙っていたこと。では謝るのが番く話を終わらせる方法だったので、理由を考えずにしてしまう。彼はその癖を責めず、「お礼なら受け取ります」と穏やかに言い換えてくれた。

夕暮れがづいた頃、の先に黒い瓦根が見えた。の斜面を背にしたきな古民で、周囲には所らしい建物と宿泊棟が点している。敷の入にはいのがあり、脇にしい防災倉庫が建っていた。

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私はわず「ここが、武さんのお宅ですか」と尋ねた。

「でもありますが、仕事でもあります」。武さんは会社の説を始めた。林の管理、伐材を使った具作り、古民の宿泊事業をわせてが働いているという。管理を任されている森は約千百ヘクタールに及ぶが、彼は「全部を好きにできるわけではありません。守る責任があるだけです」と付け加えた。

姉は彼を貧しいきこりと呼んだ。父も、奥の古いにむ男だとしか説しなかった。けれど私が今見ているのは、働くのが並び、夕方になってもかりの消えない仕事だった。武さんがのでを止めると、内側からゆっくり扉がいた。

そこには掛け姿の女性や作業の男性がほど並んでいた。先にいた髪の女性が歩み、私を見るなり々とをげた。「お帰りなさいませ、奥様。ずっとお待ちしておりました」。私は鞄の取っを握ったままけなくなった。まだ結婚どころか、返事さえしていないのに、なぜ私を奥様と呼ぶのだろう。

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