"銀座の384万円" 第3話
元に投げつけられた伝票
「ちょっと、いつまでそこに突っっているのよ!」
個の張り詰めた空気を切り裂いたのは、義母・の甲く尖った声だった。
彼女は子の背もたれにくふんぞり返り、ワインで赤黒く染まった顔を醜く歪めながら、私を睨みつけていた。その細い目の奥には、らかな嘲笑と、嫁を精神にいたぶり尽くして優越に浸るサディスティックながギラギラと渦巻いている。
「あんたがグズグズして遅れてくるから、私たちが先にべてあげたのよ。嫁の分際で、主役の私を待たせるなんて本当に非常識な女ね。親の顔が見てみたいわ」
義母はを鳴らし、これ見よがしにため息をついた。
最初から私に料理をべさせる気など毛なかったのだ。座の超級という特別な空に自分たちだけで入り浸り、額な料理を貪りう特権階級の気分をわう方で、私には最初から席も事も与えず、精神な屈辱をわわせる。それが、彼らが結託して仕組んだ悪辣なゲームだった。
私ので、これまで必に繋ぎ止めていた族へのが、音をてて砕け散った。
しみは湧かなかった。りすらも急速にえ込み、ただ絶対零度の虚無だけが、私のを満たしていった。
その、義母の濁った線が、私の両腕に抱えられたきな袋へと落ちた。
広告
エルメスを象徴する鮮やかなオレンジの袋。そのを認識した瞬、義母の瞳の奥に、隠しようのない欲なが灯った。
「あら……それ、私への誕プレゼントね? ふん、気が利くじゃないの」
義母は品な笑みを浮かべ、脂じみたをこちらへ伸ばしかけた。しかし、彼女のは袋に届く直で止まり、テーブルの端に置かれていた別の物体へと伸びた。
黒い本革の伝票バインダー。
義母はそのバインダーを乱暴にひったくると、あざ笑うような線を私に向け、首のスナップを利かせて力任せに放り投げた。
バサッ、ガシャン!
なバインダーが私の元に激突し、理ののを滑ってたい属音をてていた。
「私たちはお腹いっぱいべたから、会計はあなたが全部払っておきなさい」
義母は吐き捨てるように言い放ち、爪楊枝をシーシーと鳴らしながら顎をしゃくった。
「あんたは実も貧乏で何の取り柄もないな女なんだから、おくらいしなさいよ。うちの優秀な達也のおかげで、世並みの活ができているんだからね」
その言葉は、結婚以来、私が浴びせられ続けてきた理尽な搾取の集成だった。
正やお盆に義実へ親族が集まるたび、私だけが台所に押し込められて配膳と皿洗いを命じられ、座る席すら与えられなかった。
広告
そして宴が終わると、彼らが勝に注文した級仕し弁当や特寿司の領収だけが、私の目のに突きつけられるのだ。
夫の達也も、そんな母親の暴挙を止めるどころか、常に先にって私を搾取してきた。
「おい美央、母さんを待たせるなよ」達也はソファーのであぐらをかき、偉そうに指を鳴らした。「俺が商社の課として毎汗垂らして養ってやってるんだから、母さんへの親孝のくらい、おが全額負担するのが当たりだろ」
達也が自げに着ている座仕ての数万円のスーツも、首にるスイス製の級腕計も、すべて私の個座から引き落とされたで買ったものだった。
彼が代半ばという若さで堅商社の営業課に抜擢されたのも、私が裏からを回し、真藤グループの息のかかった優良企業から数億円規模の型案件を彼の担当部署へ流してやったからにならない。しかし、達也はその事実をにもらず、すべて自分の才能と営業力によるものだと信じ込み、私を見し続けてきたのだ。
「さあ、グズグズしないでそのバッグをこっちへ寄越しなさいよ!」
義母がバンとテーブルを叩き、苛ちをわにして叫んだ。
「私がずっと欲しかった限定品のバッグなんでしょう? く渡しなさい! それからサッサとレジへってカードを切っておいで!」
の真に対する謝など、微もしない。そこにあるのは、無抵抗な財布からを毟り取り、価な貢ぎ物を奪することしかにない、醜悪な寄虫の叫びだけだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
現地払いの還暦旅行
旅行会社に勤める弘志は、義父の還暦祝いに伊豆の高級ホテルを手配する。ところが旅行当日、義父母と義姉、さらには妻の優希までが、駅で「お前はもう帰れ」と弘志を追い返した。 屈辱をこらえて帰宅した弘志のもとに、妻から不可解なメッセージが届く。一方、義家族はホテルで高級料理や酒、エステを次々と注文していた。 しかし彼らは、旅行のしおりに記された重要な支払い条件を見落としていた。チェックアウトの日、彼らを待ち受ける驚愕の請求と、妻が隠していた秘密とは――。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.8万字5 16 -
完結第20話
山奥の身代わり花嫁
29歳の水野美緒は、幼い頃から姉ばかりを優遇する両親のもとで、家事と仕事に追われる日々を送っていた。 ある日、姉が見合いの直前に逃げ出し、美緒はその身代わりとして山奥の男に嫁ぐよう命じられる。逆らえば家にも戻れない。古い鞄一つで送り出された美緒だったが、たどり着いた先は想像もしなかった大きな屋敷だった。 しかも門が開いた瞬間、使用人たちが深々と頭を下げ、「お帰りなさいませ、奥様」と迎えた。 まだ結婚の返事すらしていない美緒を、なぜ彼らは待っていたのか。そこには、家族が隠していた縁談の秘密があった。人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生|親子関係2.8万字5 13 -
完結第15話
親族会議で追放された妻――翌朝、七枚のカードが全停止
七年間、夫の翔平と宮田家を陰で支え続けてきた神崎紗良。しかし親族会議の席で、夫から突然離婚を宣告される。 「慰謝料も財産分与もなし。一円も持たずに出ていけ」 義父母や親戚からも見下された紗良は、反論することなく離婚届に署名し、屋敷を去った。 ところが翌朝、翔平の七枚のブラックカードがすべて使えなくなる。続いて二軒の豪邸に届く契約終了通知、銀行からの融資見直し。 実は宮田家の誰も、紗良の本当の正体を知らなかった。九十九件もの着信を重ねた元夫が、最後に突きつけられる真実とは――。裡切られた|嫁姑|夫婦|金銭問題1.9万字5 21 -
完結第20話
愛人が妊娠、離婚を迫る夫が私の退職に大慌て
十年間、夫・徹が経営する武田工業を営業部長として支えてきた44歳の百香。ある夜、夫から突然、29歳の女性社員を妊娠させたと告げられ、離婚を迫られる。 さらに夫は、離婚後も会社で働き続け、愛人の子供の世話までしてほしいと言い出した。 呆れ果てた百香は離婚と退職を決意するが、親友の弁護士から驚くべき証拠を渡される。そこには、愛人が会社の裏で進めていた巨額の不正が隠されていた。 十年の献身を踏みにじられた妻が仕掛ける、痛快な逆転劇。怒り|夫婦|金銭問題|不倫2.3万字5 178 -
完結第14話
同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼
中学卒業から十五年。貧しい母子家庭で育ち、いじめに耐えてきた梅本瑞江は、故郷の同窓会に姿を現した。上品な大島紬をまとった彼女を見て、かつてのいじめの主犯・熊切勢子は激怒。友人の借金を盾に保証人になるよう迫り、ついには瑞江の頭からビールを浴びせてしまう。 さらに勢子は、暴力団組長である夫の力を使い、瑞江を脅そうとする。しかし、連れ込まれた奥の宴会場で、誰も予想しなかった光景が待っていた。 十五年前に見下されていた少女が隠していた、驚くべき現在の姿とは――。人生逆転|真相|第二の人生|修羅場2.0万字5 210