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"母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密" 第8話

閉じていた部

翌、恵は母の団に来た。修司と由美もいた。

私たちは最初、玄関先でち尽くした。恵は靴を脱ぐのにもをかけた。母が暮らした部の空気を吸い込んで、かすかに眉を寄せる。母が使っていたけんの匂いが残っていると言った。

「さいころ、ここに来たときは、玄関の段差がくじた」

「覚えているの?」

「断片だけ。母がこの部で私を抱いて、泣いていた。父さんは台所にいた。私は帰りたくなかった」

彼女の記憶は、私の族写真よりも鮮だった。私が幼かったころのには、恵の痕跡が消されていたのに、恵のにはそのの匂いと、母のの温度が残っていた。

修司は、初めて姉に向かって「ごめん」と言った。何について謝るのか分からないまま、それでも言わずにいられなかったのだろう。恵は「あなたが謝ることじゃない」と返したが、その声はし柔らかくなった。恵は玄関でいあいだかなかった。母が倒れたあと、私が何度も入りした所なのに、彼女には初めてのだった。

「ここに、私の写真はありますか」

その問いに、私は「ある」と答えた。仏壇の引きしにあったものだけではない。母の寝の押し入れから、古いアルバムが何冊も見つかった。恵が赤ん坊のころ、母に抱かれている写真。幼稚園のを着た写真。

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でを振る写真。歳の誕に、母と父のでろうそくを吹き消す写真。

母は、恵を忘れたことなどなかった。

けれど、写真のほとんどは、恵が養子にされたで終わっていた。そののは枚もない。

恵は、写真を枚ずつ見た。泣かなかった。ただ、母のが自分の肩に置かれている写真で、指を止めた。

「このは、私のことを本当にしていたんでしょうか」

私はすぐに答えられなかった。していたかどうかを、母の代わりに断言することはできない。

「していたとう。でも、し方が正しかったとは言えない」

恵は写真を裏返した。裏には、母の字で「恵、歳。お別れの」とかれていた。

「お別れのって、誰が決めたんですか」

「母だとう」

「母親なのに、私に何も言わずに決めたんですね」

恵の声がしだけ揺れた。

押し入れの奥から、母の裁縫箱がてきた。底には、ののブローチと、さな封筒が入っていた。封筒には「恵へ」とだけある。には、母の妹夫婦がくなったにいたがあった。

『恵へ。あなたが歳のとき、私は真実を伝えようとして、結局、あなたの幸せを理由に逃げました。あなたの結婚式に呼ばれなかったことをしむ資格は、私にはありません。それでも、あなたが元気に暮らしていると聞くたび、私は救われていました。

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勝な願いですが、度だけ、あなたの声を聞きたい。』

付は。母が恵のを訪ねたのものだった。

恵はを読み終えると、ゆっくり子に座った。

「私が帰ったあと、このはこれをいたんですね」

「そうみたい」

「なぜ送らなかったんだろう」

答えは、の最にあった。

『これを送れば、あなたが返事をしなければならないとうでしょう。私はもう、あなたに選ばせることまで奪いたくありません。』

恵は、目を閉じた。

そのとき、仏壇のに置いたブローチがさく揺れた。窓は閉まっている。誰も触れていない。のが、畳のに落ちた。

恵はそれを拾い、胸元に当てた。

「これは、私が子どものころに母にあげたものです」

「あなたが?」

「作で作った。びらが枚りないって、先に笑われた。美代さんが、これでいいと言ってくれた」

のブローチには、びらが枚しかなかった。

恵の指が止まった。

「葬儀の写真に写っていた女は、私だったのかもしれません」

恵はそう言った。けれど、写真に写った女は、彼女よりずっとを取っていた。恵自も葬儀にいたが、撮には帰っていたという。

母の寝の鏡に、私たちが映っていた。

そのろに、もう、母がっていた。

母は恵の肩にを置き、何かを言っているようだった。

恵が振り返ったとき、部には誰もいなかった。

鏡のの母だけが、ゆっくりとうなずいていた。

恵は、押し入れから見つけた写真を枚だけ持ち帰りたいと言った。赤ん坊の自分を母が抱いている写真だった。裏側には「私の娘」と母の字でいてある。恵は写真を裏返したまま封筒に入れた。「まだ表を見られない。でも捨てたくない」と言った。私は、その言葉を聞き、族になることは過を受け入れることではなく、受け入れられない気持ちも緒に持つことなのだとった。

恵は、母のをるに、玄関の柱にを触れた。子どものころ、背丈を測って印をつけた跡があるとったらしい。柱は塗り替えられ、その印はもうなかった。恵はし笑った。「ここにいたまで消えたわけじゃないけど、形は残っていないのね」。私は、その言葉を聞き、記憶は誰かと共して初めて確かなものになるのだとった。

母の寝には、恵のために買ったらしいさな靴が残っていた。品のまま、に包まれている。母はそれを持ち続けていたのだろう。恵は靴をに取らず、「置いておいて」と言った。私たちはそれを写真に撮り、元の所へ戻した。

恵は最に、部の戸を自分ので静かに閉めた。

玄関の柱には、消された印の跡だけが残っていた。

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