"返せなかった六百二十円" 第11話
の列
、朝かられた。支払猶予の期限がけるだった。美佐はのに来て、よりい列を見つめた。々はを抱いていたが、以のように互いを押しのけるはなかった。週のあいだ何度も掲示を読み、やの繰りを考えた末に来た々の顔だった。
源吉は通帳と印鑑を用し、美佐に同してほしいと言った。「今は、おが窓へつんじゃない。俺の横にってくれ」。美佐はうなずいた。父と並んでの列に入るのは初めてだった。ろには豆腐の井が並んでいる。井は「今は、うちの豆腐を作る豆の代だけ引きせればいい」と言った。にいる呉の主は、取引を続けるか迷っているらしかった。
窓がくと、坂が係として応対にった。現が準備され、払戻しの受付も再された。しかし皆が希望したを全部そので受け取れるとは限らず、確認をする案件や側の続きが残るものもあった。美佐は客の元の受付控えが役っていることを見た。に何を申請したか、今の請求とどう違うかを、用を指して説できる。
父の番が来た。源吉は「百円のうち、受け取った百円を除いた残りを、払戻したい」と言った。坂は帳簿と通帳を確かめ、支払う額を告げた。
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美佐はその声が最まで途切れず、無事に通ったのを聞いた。父のに現が渡された、彼は何度も数え直した。美佐も隣で数えたが、父は目をげて言った。「今度は俺が確認する」
はをた。歩の角で父がち止まり、袋のの札を見た。美佐はようやく肩の力を抜いたが、父の表はるくなかった。「これでじゃないの」と聞くと、源吉は「いや。支払いを待ってもらったために、もうなくなった仕事もある」と答えた。が戻ったからといって、からのかが返るわけではない。
父はそので印刷所へ戻り、職を全員集めた。井、柿崎、戻ってきた戸倉、そして。源吉は未払いのをずつ読みげ、支払う額を封筒に入れた。戸倉には、退職までに受け取れていなかった分を先に渡した。戸倉は数え終えると、「今また雇ってもらってるのに、昔の分まで」と言った。父は「昔の分だからこそ、払うんだ」と答えた。
ところが、残ったから問への未払分を引くと、元はまた細くなった。源吉は今の仕事を続けるため、古い断裁を売る話をめると告げた。が顔を変えた。「あれを売ったら、きなの仕事が受けられない」。父は「きな注文を取っても、を払えないのではがない」と言った。
印刷所の隣の具が械を引き取りたがっていた。
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刃や属部品を使えるという。美佐は「古い械を売るより先に、組み方を変えたさな仕事を増やせないか」と提案した。も頷いた。父はを見て言った。「考えるだけなら誰でもできる。来の賃と賃を数字でしてみろ」。その声は厳しかったが、拒絶ではなかった。
支払が決まった夜、井は母親に封筒を見せたという。印刷所へ来た翌朝、美佐に『母が、これで次の薬の代が払えると言ってました』とらせた。美佐は堵したが、井は続けた。『でも、か遅れたから、借りたの返済はまだ残ります』。源吉は隣で聞いていた。の未払いを解消したと言っても、職がそのに負った負担が消えるわけではない。
源吉は井に、今ののと遅れる恐れがあるの連絡方法をいたを渡した。井は『最初からこうしてほしかったです』と言い、父は『その通りだ』と答えた。
翌から、美佐は印刷所の仕事との復職について、つの表を作った。どちらにも収入と支があり、どちらにも守るべき約束がある。父が持って帰った預がなくなったの仕事を考えなければならない。美佐は町の売を回り、帳面の次に必な印刷物を聞いた。先の値札、領収、品物に貼る札、薬袋の文面。の広告つに頼るよりも、幾つものからしずつ注文を受ける方が危険が分散するかもしれない。
だが、の客が増えれば、配達や集のも増える。井は「毎違う活字を組めば、違いが増えます」と指摘した。は「型を決めて使い回そう」と提案した。戸倉は昔の経験から、似た仕事をまとめてで仕げる段取りを考えた。父がで決めることに慣れたで、初めて皆が机を囲んで数字をした。
美佐はそのに座っていた。父は折娘を見るが、見を聞くためで、答えを押しつけるためではなかった。
その晩、真壁から最の聴取に来るよう連絡が入った。復職の話を受けるかどうか、期限はだった。美佐はで何度も文章をき直した。の内部事を勝にへ漏らさないことは守る。だが、客へ配る文に確かな約束があれば確認を求める。自分の判断で払戻しを保留しない。受付控えと説の記録を残す。仕事に戻るなら、その点だけは確にしておきたかった。
翌、森崎にそのを差しすと、支は苦笑した。「入したころは、もっと素直な娘だったのに」。美佐は言った。「素直に聞いてしまったから、あの、違えました。今度は、確かめながら働きたいんです」。
森崎はを返さなかった。本で検討すると言った。美佐はをげ、をた。駅で父が待っていた。
「どうだった」
「まだ分からない。でも、言うべきことは言えた」
父は「そうか」とだけ答えた。は並んで帰った。の戸には、客が今必な額を受け取り、それぞれのへ戻る姿があった。あのの列と同じ所なのに、美佐にはまったく違う景に見えた。
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